新書「企業不祥事の真相」

日経プレミアシリーズ「企業不祥事の真相 『普通の人』を悪者に仕立てる歪んだ構造」秋山進著を読みました。
企業不祥事や組織の不正問題に関する本は一昨年に「組織不正はいつも正しい」を読んでいますが、
まぁ率直に言えば、本書はその本よりは少し踏み込んでいる感じはしますが
それでもなんか物足りないなぁというところがこの本に関するボクの感想ですかねぇ。
著者の秋山氏の肩書はリスクコンサルタントとのことでなんとなく怪しい感じもしますが(笑)、
ボクとほぼ同世代で、大学卒業後はリクルートに入社して、たぶん当時は「普通の人」ならぬ
普通のサラリーマンとして社会人を歩んだ方なのでしょう(笑)。
そして、本書の「はじめに」ではその社会人としてのスタートの当時のことが書かれています。
(以下引用)
1987年4月2日、午前9時。前日の入社式と社員総会も経て、私は社会人としての実
質的な初日を迎えた。
東京・銀座8丁目、リクルート本社ビルの10階。私たち新入社員3名は、簡素な会議室に
通され、山積みになった各種資料に囲まれながら、ある人物の到着を待っていた。社長室長
――これから我々が所属する部署の責任者である。 (中略)
「組織っていうのはね、いいニュースは放っておいても上に上がる。でも、悪いニュースは
上がってこない。だから、君たちの仕事は、担当部門の“悪いニュース”をいち早くトップ
に伝えることなんだよ」
(中略)
それからわずか1年3カ月後、あの「リクルート事件」が世間を揺るがす。
創業者・江副浩正会長だけでなく、社長室長も、未公開株譲渡をめぐる贈賄容疑で逮捕さ
れた。そして有罪判決。執行猶予付きとはいえ、犯罪者になってしまったのである。
(引用終わり)
社会人2年目であんなに大騒ぎされた事件の当事者ではないけどすぐ傍らで経験したというわけですか。
もっとも、ボクなんかは世間で騒がれていたのは覚えてますけど
事件の内容についてはそんなに興味はなかったし「リクルート事件」の名前以外は忘れてましたけど。
当然ながらリクルートの江副氏はなんとなく記憶がありますが、
その社長室長のことなんか知らないし、だからどんな人物なのかもイメージすらないですが、
著者にとっては「あの人がそんなことするはずがない……」という感覚が強くあったのでしょうかね。
それが本書のサブタイトルにもある「『普通の人』を悪者に仕立てる……」に通じているのでしょう。
本書の「はじめに」では、さらに次のように続いていきます。
(以下引用) 初めから悪意があったわけではない。誰かの指示に従った結果、想定外の失敗
を取り繕おうとした結果、あるいはなんらかの状況に追い込まれた結果として、違法の段階
に至ってしまう。ひどい場合は、違法行為でなかったものが違法行為になってしまう。
(中略)
だからこそ、私はこの本で、企業不祥事をより広い視野から読み解いてみたいと思ってい
る。ニュースでは語られない、“もうひとつの真実”を伝えたい。
私は本書を通じて、悪意がないのに不祥事の当事者になってしまう構造、人に問題行動を
させてしまう組織のあり方を、語っていきたい。そして、経営者が悪い、組織風土が悪いと
いった単純な世界ではなく、企業不祥事をもう少し多角的にみるための視点を提供したいと
考えている。 (引用終わり)
確かに組織の不正はさまざまな形態がありその原因もさまざまであり単純な世界でもなく
だから多角的な視点で捉えなければならないものですから、
この「はじめに」を読んだ段階では本文というか中身にかなり期待したんですけどね。
もちろんすべてににおいて期待はずれというわけでもなかったですし、
ボクの知らない世界=ニュースでは語られない真実が書かれてると感じることも多くありましたが、
それでも少なくともボクにとっても身近な話題ともいえる自動車メーカーの不正に関する部分では
ちょっと単純というか表層的な感じでさらなる深堀りをして欲しかったという感じですかねぇ。
その自動車メーカーの不祥事として本書で最初に取り上げられているのがダイハツです。
(以下引用)
次に取り上げるのは、ダイハツ工業(以下、ダイハツ)の試験不正問題である。ダイハツ
で発覚した試験不正とは、本来であれば車両の安全性を厳正に確かめるための認証試験にお
いて、データの捏造や虚偽の報告、あるいは部品・試験装置に対する不正加工をした等の行
為を指す。(中略)
2013年以降、トヨタから小型車を中心に多くのOEM(相手先ブランドでの製品の製
造)供給を任されるようになり、その開発負担がダイハツに大きくのしかかった。
さらに、「短期開発」の成功体験がかえって「次も同じリソースで、同じか、あるいはさら
に短い期間で開発できるはずだ」という無謀な計画を正当化してしまったのである。トヨタ
側も「ダイハツならば短納期・低コストでやり遂げられる」と過度な期待をかけてしまった。
(引用終わり)
開発期間短縮のため余裕というかバッファがなくなって、
認証試験で何かあった時にやり直しの時間がなくなり、結果的に不正になったという話です。
まぁ、ありがちな話で、同時期に発覚した他メーカーだけでなく親会社のトヨタの不正も同じ構造です。
スバルでもずーと昔(ボクが入社する前)に「鉛事件」がありましたし、
似たような不正に近いことをやりかねないような一部の発言も見聞きしていたりしたので
ある意味で自動車メーカー開発(認証)現場あるあるネタですが、
だからこそそこで本当に不正をしてしまうかどうか、
そうならないための組織、開発(認証)手順、風土、人材つくりが大切になるわけです。
個人的な感覚で言えば、会社上層部の問題もあるけど、末端の個人の資質の問題もあるので、
「普通の人」でも不正をしてしまうと言い切るのもどうかと思いますけどねぇ。
かといってやはり会社上層部の責任が重いことは事実ですけど。
それと、「トヨタ側も……過度な期待をかけてしまった」というのはちょっと違和感を覚えます。
だって、結局、トヨタ自身も同じような不正を平気でやっていたことがこの直後に発覚してますし、
トヨタが出来ない短期開発をダイハツが出来ていたのなら単に期待するだけでなく
その要因をトヨタ自身の短期開発につなげるように取り込もうとしているはずですから、
おそらくどこまでかはさておきトヨタ側もダイハツが(トヨタと同様に)認証不正していることは
織り込み済みでダイハツ側に短期開発を強制・強要していたと見るべきでしょう。
それに、おそらくスバルに対してでもそうであったように、
トヨタはそれ相応の開発技術者のトヨタ出向も強要していたはずで、
短期開発だけでなくダイハツ側の開発リソースはかなりトヨタに搾取されていたと見るべきでしょう。
なお、本書では、トヨタ本体の認証不正問題にも同グループの日野自動車、豊田自動織機の不正も
基本的にはスルーされています。トヨタは販売店の車検でも不正が発覚してますがそれもスルーです。
本書の発行は2026年1月、トヨタ認証不正の発覚は2024年6月ですから書けないのに書いてない。
確かに不正の構造はどれも同じようなものなのでダイハツだけで代表させたのかもしれませんが
それでも世界のトヨタでも、というか世界のトヨタだからこそより大きな問題が孕んでいると、
あるいはあんなに莫大な利益を上げているのにもかかわらず不正をせざるを得ない状況に
末端の社員を追いこんでいるというところにこそ問題の根っこがあることを深堀りして欲しかったな。
まぁそこまで不正ギリギリのことをやっているからあんなに利益を出せているのかもしれませんが(笑)
それにも関わらず、なぜか三菱自動車の燃費不正については時間的に前後するにもかかわらず
本書では別章として詳しく扱っています。
(以下引用)
三菱自動車の燃費データ偽装は、2016年に発覚した。同社が定められた試験方法とは
異なる不適切な方法で燃費を測定し、実際より良く見せかけたデータを国に提出していた問
題である。 (中略)
三菱自動車の燃費不正は、「不正をすれば有利になる」という誘惑ではなく、「不正をしな
ければ競争の舞台に立てない」という深刻な競争力不足の表われとも解釈できる。すなわち、
本件は、企業が実力を超えた無理な競争に参加した場合に、どのような不適切行為が生まれ
るかを示す典型的な事例ともいえるのである。 (引用終わり)
こちらはそもそも競争力がないのに無理な競争に参加したのが主原因みたいな話となっており、
もちろんそれはそうなのですが、こちらも日産との関係もあってそのような舞台に立たされたわけで、
そちらの視点での検証がないのは物足りなさを感じます。
むしろ、無謀な競争の結果の不正という点ではVWのディーゼルゲートこそその象徴ですし、
世界中に与えた影響の大きさで言ったらくらべものにならないくらい大きな問題なはずですが、
なぜかそちらのディーゼルゲートはまったく触れられていないのもちょっと合点がいかないですね。
その一方で、後段に次のようにも書いてあります。
(以下引用)
三菱自動車は2004年の再建計画で「2005年度営業黒字化」「2006年度最終黒
字化」を至上命令に掲げ、聖域なきコストカットを断行。結果、「利益計画を狂わせる開発
遅延を容認されない」という空気が開発現場に蔓延し、発売スケジュール厳守が最優先と
なった。エンジニアは目標燃費未達の現実から目を背け、遅延や仕様変更による損失計上を
避けるため、データ改ざんという禁じ手を選択した。 (引用終わり)
あれれ、結局は発売スケジュール厳守から優先されて不正につながったというのなら
前述のダイハツの場合と根っこの原因は同じじゃないのということになっちゃいますねぇ。
でも、燃費未達は少々開発期間の遅延(順延)や仕様変更したりしても簡単に挽回はできませんよ。
他にも試験設備更新が遅れたのも原因みたいに書いてありますが、そんなのも言い訳でしかない。
燃費性能は技術的には総合力がものをいうので、
基礎研究や先行開発を含めて最初(企画の前段階)から取り組んでないとどうにもならないです。
だから三菱の場合も企画段階で前のモデルの燃費にて不正していたことが日産により発覚したわけで、
不正の上に不正を積み重ねないといけなくなってしまっていたということですね。
こういう部分も元自動車エンジニアとして見れば、話がすり替わってしまってると感じるのですが、
著者自身はあまり自動車開発にも技術にも詳しいわけではないのでしょうし、
企業内部にも深く取材しているわけでもなさそうなので、なんか上滑りしちゃってるみたいです。
そうそう、燃費は総合力がものをいうと先ほど書きましたけど、
スバルなんかも相当に厳しい戦いを強いられましたね。
幅広い分野の基礎研究や先行開発となると当然ながら資金も研究者も潤沢な大メーカーが有利ですが、
それ以上にスバルは一時期(2000年代前半くらいまで)「走りのスバル」とかいって
燃費なんか悪くてもいいんだみたいな勘違いをしてしまってたし、
社内的にも水平対向エンジンだから燃費悪いのは当然というエンジン屋さんの開き直りというか
自己擁護=甘えの状態にもなっていて
競合他社との比較においても勝手に「水平対向係数」みたいな話をしてたくらいですから(汗)
なので、2000年代後半に入って「走りのスバル」って言うのは一度封印しようとなっても、
そしてその頃からボクは開発車の性能全般を総括する部署に移って
エクジーガをはじめ幾つかの車種のまとめをする立場になってからも、
燃費に関する社内的な攻防(調整?)はかなり熾烈を極めることになりましたからねぇ。
まぁ攻防というのは変な表現かもしれませんが、不正は絶対にやってはいけないことだけど、
かといってそれを盾に甘えて楽をしようとする部署や自己保身に走ろうする人が出るのもまた事実。
そこをいかに見極めて、不正を正しつつも甘えを許さない開発にしていくかが腐心のしどころでしたね。
だからね、やっぱりそんな単純な話じゃないのよ。
でも、やっぱり不正する人は不正するし、不正する組織は不正するのよね。
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