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「操安性 限界横力飽和比による旋回性/安定性 への一考察」

このスバル・カテゴリーの一連の記事ではボクのサラリーマン時代の回想として書いていますけど、
今回はボクが操縦安定性乗り心地(操安乗)の実験部署に在籍していた最終盤となる2005年末くらいに
ちょいちょいと考えてタイトルに記した報告書(実際、操安乗時代の最後の報告書)を書いていたので、
その内容を思い出しつつかいつまんで記事にしてみようと思います。
前回の記事でも予告してしまいましたしね(笑)

ただ、タイトルからして小難しいし(汗)、
実際にその報告書も表紙のみの控えがあるだけで肝心の中身の方はないし、
数式などももう記憶がかなり曖昧となってきてしまってるし、イチから考え直すような気力もないし。
(それ考えると当時はやる気スイッチが入ってましたなぁ(笑))

でもでも、当時に計算に使っていたエクセルのファイルが見つかりましたので
それをちゃんと見返せばどんな計算式で計算していたのかも判明するんですが、それも面倒なので(汗)、
適当に端折ってエッセンスだけという感じでここに書くことにします。

なお、この元ネタって確か自技会(公益社団法人自動車技術会)の自技会誌に掲載された論文だかです。
なので、ボクのオリジナルでもなんでもないのですが、それを応用して当時のスバル車に適用して、
社内的な検討資料にした、というかちょいと問題提起をしてやったというところです。

 

そうそう、ここではつきものの脱線をしますけど(と前もって断っておきますが)、
ボクは少なくとも当時は、いちおう技術者=エンジニアの端くれでしたから自技会誌に限らず
業界の関連する技術動向にはなるべく注視しようとしていましたけど、
当時の上司も含めて周りの人を見てるとあまりそのような他社の技術動向とかに無頓着な感じでしたね。
※もちろん、そういう人ばかりじゃなくてエンジニアとして尊敬できる方もたくさんいましたが。

自技会には半強制的に入会させられてるだけで自技会誌なんてまったく読まないから会費の無駄だ
なんて豪語している人がかなりいましたからねぇ。
ボクなんかは大学生の頃から自技会には入会していたので、なんか嘆かわしいなと思ってましたが。

そんなですから、他社がこんな研究をしているとか、こんな試験法をやってるとか、
そんなことにもまったく無頓着な人がほとんどで、
なのでこの記事のようにGMとの目標性能(VTS)や試験法の摺合せについてもまったく興味なしでしたし。

スバルごとき(あえてこう表現するけど)の予算も人員も限られている弱小メーカーなんだから
他社みたいにあれもこれも手広く研究するなんて出来ないわけだから、
猿真似はダメですけど他社の知見は有効活用しないともったいないですからね。

まっ、当時の操安性・乗り心地の評価については他社がどんな評価をしているのかよりも
従来のひと通りの試験をして、後は官能評価でサスをとっかえひっかえしてチューニングっていう
エンジニアリングというより町のチューニングショップか
ダートラやジムカーナなどのサンデーレースのメカニックみたいな
そんな感覚の延長に近い形で“実験”の仕事を捉えていた人が多かったのかもしれませんけどね。

ただ、今はどうなったのかは知りませんけど(笑)

 

さてさて、話は戻りますが、本題の「限界横力飽和比」とは何か? 何を示しているのか?
それについては、当時の報告書(の控え)に次のように書いてますのでそのまま抜粋しておきましょう。
B250218_b0
現実のタイヤ特性というのは、タイヤの銘柄などによって微妙に違ってきますし、
こんなにカクッと角があって変化するわけではないし、
CFmaxも一定ではなくスリップ角が大きくなると徐々に低下するので余計にやっかいなんですが、

それでもタイヤが鳴かないくらいの領域ではこのようにスリップ角に比例して横力が増して
その傾き=比例定数のことをCP:コーナリングパワーと呼ぶわけですし、
そしてタイヤが鳴き出すような限界に近くなるとスリップ角が増えても横力は増えなくなり
やがて上述のように実際にはむしろ横力が低下することになってしまうことになるわけです。

それで、操安性の専門用語であるアンダーステア/オーバーステアはスタビリティファクターと同義で
それは主としてこのタイヤ特性の比例している領域において定義される特性を意味しているのですが、
素人あがりの自称自動車評論家などの人が知ったかぶりでその専門用語を誤用して
カーブを曲がり切れずにコースアウトする(しそうになる)ことをアンダーステア、
逆にカーブの途中でスピンする(しそうになる)ことをオーバーステアと言い出してそれを広めたわけで、

正確にはそのようなタイヤ横力がもう増えなくなった領域での限界挙動を表現するには
プラウもしくはフロントドリフトアウト/スピンもしくはスピンアウトなどと呼ぶべきことなわけです。

そして、まともな乗用車はすべて程度の差こそあれアンダーステア特性に作られています。
オーバーステアの車なんてまともには作れないし、まともには運転できないし、
実際にこれまで乗った車の中でオーバーステア特性の車は一台もなかったし
過去のデータベースにもないし、聞いたこともありません。

それでも、車はスピンするし、スピンしやすいかどうかも差があります。
それは上記のようにタイヤの横力が限界を迎えた時にどのような挙動になるのかによるし、
それにはその時の車速やハンドルの操舵周波数(操舵の速さとイメージしてもよい)にもよるわけで
だから、例えば高速道路では急ハンドルは厳禁と言われるゆえんでもあるわけです。

なお、ハンドルの操舵量にはここでは触れていませんが、
それはちょっとしか切らないならそもそも限界領域に入らず問題にならないだけのことです。
また、タイヤの横力の限界はその時の路面μ(雨とか雪とか)によるのですが、
ここでは先ずは通常のドライの舗装路として検討をしています。

 

それで、その限界飽和線図がどうなるかというと、レガシィ(21Zの開発時の想定値)を例にとると、
B250218_b1 B250218_b2
車速と操舵周波数に大して横力飽和率がどうなるかなので左図のように3次元グラフになりますが
むしろこれだと見にくくなるので、右図のように等高線図で2次元で示すことにします。

レガシィに限らず市販されてる乗用車はまぁどれもだいたいはこんな感じなのですが、
低速で急ハンドルではプラウ(フロントドリフトアウト)しやすいが高速では逆にスピンしやすくなる。
特に操舵速度1.2~1.3Hzあたりで高速になればなるほどスピン傾向が強くなり大事故になりやすいが、

これは車両のヨー運動の共振周波数がだいたいこのくらいにあるからこうなるのであるし
これまたレガシィに限らずだいたいの乗用車なら似たよな感じではあります。
まぁ0.8Hzだったり2Hz近いのだったりもあるにはありますが。。。

 

そして、ずいぶん前の79Vのロングリアヘルパーの記事の中で
前後のロール剛性配分と限界付近の操安性の関連に少し触れましたけど、
前後サスのバネ定数やスタビの効き(スタビ径など)を変更することで限界付近の特性が調節できます。

※逆に誤解される方がいますが、バネやスタビでは限界領域手前のアンダー/オーバーステア特性は
 基本的には変わりませんので、それをいくらチューニングしても意味がないんですよね。
 もっとも、普通のユーザーがステア特性をチューニングする必要性もありませんが。

B250218_b7 B250218_b8 
試しに、フロントのロール剛性を10%高く(例えばフロントスタビを極太に)してみると左図のようになり
低中速のプラウ(フロントドリフトアウト)が酷いことになってしまいます。
こういうのを俗にドアンダーというんでしょうけど、これまた正しい言い方ではないんですけどね。

逆に、フロントのロール剛性を10%低く(例えばフロントスタビを外す)してみると右図のようになり
今度は高速でスピンしやすい危ない車になってしまいます。
※これって、前後バランスの話なのでリアのロール剛性を10%高くしても同じく危ない車になります。
つまり、無暗にリアスタビを付ければいいってもんじゃなく場合によってはバランス崩すだけなのよね。

低速のプラウと高速のスピンをどちらも改善できるようなサスチューニングはないんですよね。
それなら、車の基本性能で両立できるようなものはないんでしょうか。
というのを検討するのがこういったツールの活用目的のひとつとなってくるわけですが。

 

B250218_b3 B250218_b4 
簡単ではないですが、仮に前後重量配分を60:40(イニシャル状態は約56:44)にしてみると(左図)、
プラウ領域はあまり変わらないけどスピン領域はより高速域にずらすことができます。
逆に、前後重量配分を巷では理想と思ってる人も多い50:50にしてみると(右図)、
これもプラウ領域はあまり変わらないけどスピン領域は明らかに低速域まで広がり、
かつ操舵周波数の低いところまで広がり、さらに等高線が密になる=唐突な挙動変化になります。

これを見ても前後重量配分50:50なんてのは理想でもなんでもなく
基本性能というか本質的に高速域でスピンしやすい危険な特性をはらんでいるわけです。
ただ、まぁ、最近の高性能なESC(横滑り防止電子制御、スバルならVDC)があれば救われますけどね。
とはいえ、安易にESCに頼るクルマ造りには好きになれないところも心情的にはありますが……

 

また、前回には(正規化)ヨー慣性モーメントおよびホイールベースの話をしたので、それ絡みとして
B250218_b5 B250218_b6 
左はヨー慣性モーメントを10%低減させた場合、右はホイールベースを10%伸ばした場合です。
それぞれ影響のでかたは同じではありませんが、どちらも低速のプラウを悪化させることなく、
高速でのスピン領域をより高速域に、より操舵速度の速い領域に押し上げていて、
高速でスピンしにくい=安全な操安性能に寄与していることが分かるというものですね。

まぁ、とはいえ、ここに書いたことだけで車の操安性が決まるわけでもなくもっともっと複雑ですし、
それに操安性だけで車の良し悪しが決まるわけでもないので、
普通にクルマに乗る時は気にする必要なんてなにもないとも言えますけどね(笑)

でも、決して知ったかぶってアンダー/オーバーとか、ましてやFFだからアンダーだとか、
前後重量配分は50:50が理想だなんて吹聴しない方がいいかとは思いますけどねぇ~。

今回はこれで終了とさせていただきますが、さぁて、次回はどうしましょう。
だいぶネタ切れになってきたのですが、まっ今のところは未定ということでorz

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