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日産のEVがテストコースを走るCM「THE WALL篇」って変?

少し前から気になっていたことなんだけど
いっときあまり放映されなくなったと思いきや最近また頻繁に見かけるようになったあのテレビCM、
そう日産の電気自動車アリア、リーフ、サクラがどっかのテストコースのバンクを走って
「3台とも最高角度だ 挑戦成功」とかテロップが入るあれなんですけど、

何が言いたいというか伝えたいのか……

現役時代にはあの手のバンクのあるテストコースを嫌というほど走ってきたボクですから
云わんとするところは分からないではないですけど、
そういう経験も何もない視聴者にその云わんとするところは伝わるものなんでしょうかねぇ。

というか、なんか分けわかんないことたいそうなことをやって盛り上がってるテイを出してるので
「よくわからんけど日産車スゲー!」と思わせられちゃってるんでしょうか???
でなければ、あんなCMをいまだに流しつづけられるわけないですからねぇ。

あのCMが日産車の販売にどれだけ貢献しているのかは簡単には判断できないでしょうけど、
少なくともあのCMを観た人とかのアンケートでも嫌悪感はないのは当然ですが
「意味不明」とかで一刀両断されてるわけでもないから、今も続いているんでしょうし。。。

 

ちなみに、冒頭に「加速力はあるのか パワーはあるのか」とテロップが出てきますが、
加速力はまったく関係ないですね。
高速周回路の1周とか半周の間にバンクの最上部まで到達するという課題が課されているなら別ですが、
そうでなければゆっくり加速していってもまったく同じことになるだけですから。

ただ、最高速度についてはまったく関係ないわけでもなく、高速周回路のバンク角と旋回半径によっては
ある程度の最高速度がないとバンクの最上部まで登るのはかなり難しいことになります。

つまり、このCMで日産が伝えていることは「電気自動車でも最高速はそれなりに出ます」ということ。
そして、それなりの最高速を出すにはそれなりのパワーが必要です。
もちろん、そのパワーを少なくとも数十秒間は持続できるだけの電池やモーターの能力も必要ですが。

 

ところで、このCMの中では「最高角度だ」ということになってますが、何を持って「最高」なの?
確か、世界中ではメルセデスベンツがかつて90°バンクのテストコースを持っていたと思うけど。
少なくとも日本国内での最高はスバル本工場のテストコースで45°以上(一説では48°)のはず。
ですが、本工場のテストコースは今は一部しか残ってないらしいので「最高」からは陥落したのか(笑)

調べてみるとこのCMが撮影されたのは福島県いわき市にある曙ブレーキ工業の「Ai-Ring」で、
高速周回路は1周3,016m、最大バンク角44°、バンク部旋回半径200m、
そして設計最高速度157km/hというスペックになっているようですね。

なお、2016年完成とのことですし、ブレーキメーカーとは直接仕事はなかったので、
ボクはこのテストコースには行ったことはありません。

 

ところで、設計最高速度とは最大バンク角を手放しというかハンドル操作なしで
遠心力とバンクからずり落ちる力が釣り合った状態で走れる最高速度という意味ですので、
このCMに登場する3台がすべて157km/hで走っているという意味ではありません。

※逆に、通常のカーブを曲がるようにハンドルを内側に切って走れば、
 タイヤのグリップ力にもよるけど設計最高速度よりはるかに速い速度でバンクを走ることも可能。

というか、軽自動車のサクラは130km/hで速度リミッターが働くらしいので
157km/hも出るはずはなしい、広報チューン(懐かしい響き(笑))で出ても誇大広告なので、
そんなことをやるわけはないんですけどね。

というか(連発ですが)、そもそも130km/hで速度リミッターが働くのなら、
最高速度は130km/h(±δ)でしかないので、こんなCMで訴求することでもないんですが(爆)

 

ではでは、最高速度130km/hしか出せないサクラにとって
この最高角度(44°)挑戦(?)はどれだけ大変なことなのでしょうか。
ちょいと計算でもしてみましょうかね。

B240729_1 ※汚い手書きですいません。敢えてバンク角少なめの図としてます。
図にするとこんな感じ。
遠心力によるバンク角分の成分であるF’と重力によりずり下がる成分W’が釣り合うのが設計速度。

  mℊ・sinθ=(mv²/r)cosθ
  v=√(rℊ・tanθ)=√(200×9.8×tan(44°))=43.5(m/s)
    ∵ sinθ/cosθ=tanθ 、 tan(44°)≒0.9657

  ※m:車両重量ですが、サクラの車両重量を調べるまでもなく左右辺で消去されます。

単位を馴染みのあるkm/hに変換すれば、V=156.6(km/h)となるので、
確かにこのテストコースの最高設計速度である157km/hとピタリと合いますね。

では、最高速度が130km/h(36.11m/s)しか出ないサクラが走るとどうなるのか。
遠心力によるバンク角成分F’が重力によるずり下がり成分W’より少なくなりますが(F’<W’)、
その分はハンドルを外側に切ってバンクを登ろうとする力を発生させなければなりません。

通常のカーブを曲がる時は旋回内側にハンドルを切って横Gを発生させるのですが、
今回はそれとは逆のことをして逆の横Gを発生させるということになります。
その必要な横GをG’とすると、

  mℊG’=W’-F’ =mℊ・sinθ-(mv²/r)cosθ
  mℊG’=sinθ-(v²/r/ℊ)cosθ
    G’=0.6947-(36.11²/200/9.8)×0.7193=0.216 (G)

およそ 0.2G しかありませんね。
普通の乗用車・軽自動車でも旋回横Gは最大で0.7~0.8Gは出ますけど、
もちろんそんな限界で走ることは少なくとも公道ではご法度ですが、普通の運転でも
タイヤがキーキー鳴らない程度の旋回で0.4~0.5Gくらいは出しても全然大丈夫です。

というわけなので、初めての人だとバンク走行に慣れるに30分とか1時間とかかかるかもですが、
何もレーシングドライバーとかテストドライバーとかが登場するまでもなく、
サクラはほぼ誰でも130km/hのリミッターが働くまでバンク角44°で走れるということですね。

※なお、工学的・物理的にサクラでもバンク角44°を楽勝で走れるといっても、
 実際の開発現場でテストコースを様々な車両が混走して試験をしている状況では、
 130km/hで最外車線を(ふさいで)走ることは禁止されている場合がほとんどです。
 なぜなら、仮に180km/h超で試験走行している車両からすれば走るシケインと同じであり
 相対速度50km/h以上もあるので回避困難だし衝突時の衝撃も致命的になりますから。

 

 

それにしても、公道では120km/h以上は合法的に認められていない日本において
それ以上の最高速をCMで訴求する意味はまったくないし、
ましてやそれが一方で「エコ」とか装ってるクルマが訴求することではないんだけどねぇ。

やっちゃってますねぇ(呆)

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