新書「味なニッポン戦後史」を読了
料理研究家のリュウジが発端となって味の素(うま味調味料)論争が再燃しているらしいですが、
本書の帯にも「『味の素はヤバい』ってどうして信じたの?」なんて書いてあるので
その味の素論争に関する本かなと思い、手に取ってみました。
ただ、本書の「はじめに」では冒頭から次のように書かれています。
(以下引用)
昭和生まれの私には、もはやついていけない味なのだろうか。初めて魚介豚骨系のラー
メンを食べたとき、そう思った。
(中略) 分厚い脂の膜でコーティングされたうま味の濃縮液は、舌や喉に貼りつくよ
うだった。鶏ガラスープのあっさりした、昭和の醤油ラーメンに慣れ親しんできた私にと
って、そのおいしさは過剰に感じられた。
こってりしたラーメンといえば、一九六八年(昭和四三)創業の「ラーメン二郎」(創業
当時は「ラーメン次郎」)や、一九八〇年代にブレイクした「背脂チャッチャ系」が浮かぶ。
この手のラーメンは、そこからさらに自分の舌では味わいがたい領域へと突入したのかも
しれない。 (引用終わり)
あぁ、分かる、分かる~。それ、分かる~。って感じ。
やっぱりラーメンはグイグイ飲めるくらいすっきりなスープが基本でしょう。
と、この「はじめに」を読みだしたら味の素がどうこう関係なく読んでみたくなる本ですね。
もっとも著者は昭和生まれといっても1974年生まれだそうなのでボクよりひと回り若いです。
なので、「昭和の醤油ラーメンに慣れ親しんだ」といってもその感覚は同じではないでしょうし、
胃もたれゆえに脂っこいものは……というような理由もないのではないかと思われますけどね。
もっとも、ボクも胃もたれうんぬんは特にないですけど。
そして、さらに「はじめに」では次のように続いていきます。
(以下引用) たし
かにいつの頃からかトマトはフルーツのように甘くなり、梅干しは、はちみつ入りのマイ
ルドなものがスーパーの売り場の大半を占めるようになった。
ならばいつ、どんな状況の下で人々の嗜好は変わっていったのだろう。巷でなんとなく
語られていることを時間軸に位置づけて変化を追ってみたい。それが、本書の出発点だ。
(引用終わり)
あぁ、これも分かる~。
トマトに限らずなんで野菜はあれもこれも甘くなっちゃったんだ。
酸味や苦味がしっかり感じられない野菜に味わい深い美味しさなんて感じられないだろうに。
そして、その「人々の嗜好」の変遷を追うのが本書の内容だというのなら、そりゃぁ興味津々ですよ。
味の素のうま味だけでなく、ラーメンの脂っこさだけでなく、トマトの甘味だけでなく、
本書では基本五味のうま味、塩味、甘味、酸味、苦味、さらに味覚ではないけど辛味、そして脂肪味、
この7つについてそれぞれの章で、戦後日本の嗜好の変遷が分析されていきます。
もちろん、それぞれの味を数値化して科学的に分析されているわけではないですが、
当時の商品やその謳い文句、評価・評論、流行・ブーム、
一方では健康にまつわる話や原材料の輸入・調達の話題など様々な視点から
かなり継密に調べられていて、わかりやすい内容になっていると感じられました。
ただし、著者自身が「味の素はヤバくない」とか「トランス脂肪酸はヤバい」などと
ことさらに主張していたり結論づけたりしているわけではなく、
あくまでもそんな議論がいつ、どうようにして起こり、変遷していったのかを検証するスタイルです。
なので、そんな主張も結論もないのでそれを紹介しようとしても出来ないのですが、
いくつか面白いと思った雑学的な話を紹介しておきましょう。
(以下引用)
そうした翻訳書の一冊、カナダのサイエンスライター、ボブ・ホルムズによる『風味は
不思議 多感覚と「おいしい」の科学』(堤理華訳、原書房、二〇一八年)は味覚のみならず、
嗅覚や触覚などあらゆる感覚からおいしさを解剖しようと試みている。同書によれば、苦
味をキャッチする味細胞の受容体は少なくとも二五種類はあり、この世に存在するさまざ
まな苦味化合物と結合するという。甘味やうま味の受容体がそれぞれ一種類しか確認され
ていないのとは対照的だ。 (引用終わり)
へぇー、そうなんですね。
てっきり、基本五味に対する受容体はそれぞれ1種類づつだと思い込んでいましたよ。
それだけ苦味はヒトにとっては危険察知に重要だし、逆に味の奥深さに関係するんでしょうね。
それに、そのボブ・ホルムズ著の本も読んでみたくなりましたけど、まぁ専門書だとハードル高いかな。
次は辛味についての話です。まっ辛味は味覚ではなくて痛覚ですけど。
(以下引用) 四川料理の特徴は「麻辣」といわれ、「麻」は花椒
の清涼感のあるしびれる辛さを表し、「辣」はトウガラシのホットなヒリヒリする辛さを
意味する。(中略)
余談だが、日本語では辛味を表現しようとすると、すべて「辛い」のひと言に集約され
てしまう。中国語では「麻」、「辣」以外に塩辛さを意味する「咸」もあるし、英語でも
「hot(トウガラシの辛さ)」、「spicy(香辛料の辛さ)」、「salty(塩辛さ)」などと呼び分けられて
いる。その解像度の低さからいっても、日本はもともと辛いものに対する関心が薄かった
ことがよくわかる。 (引用終わり)
確かに日本語だと「辛い」種類を的確に表現する言葉がないので苦労します。
薬味程度、あるいはかくし味程度に辛味を使うのが少なくとも和食本来の使い方ですからね。
ちなみに、「咸」は本書では「シュン」とふりがなが振ってあります。
「鹹」という漢字だったり、「カン」とか「ゲン」と読むとかいろいろあるみたいですが。
辛味についての話をもうひとつ紹介して終わりましょう。
(以下引用)
二〇一二年(平成二四)に「ペヤング 激辛やきそば」で市場に参戦したまるか食品は、
その後も激辛商品を投入してきた。「ペヤング もっともっと激辛MAXやきそば」(二〇一
七年)、「ペヤング 獄激辛やきそば」(二〇二〇年)、「ペヤング 獄激辛やきそば Final」(二
〇二二年)、「ペヤング 速汗獄激辛やきそば一味プラス」(二〇二三年)と辛さのハードルを
どんどんと上げ、激辛YouTuber に格好の話題を提供している。 (引用終わり)
まっこれ自体はボクはもちろんよく知っているわけですが、でも「もっと」以降は食べてないけど。
それに、ペヤングは痛覚異常者集団だと信じているのでどうでもいいんですけど。
「激辛YouTuber に格好の話題を提供 」が狙いなんですかね(笑)
個人的には激辛 YouTuber にも大食い(爆盛) YouTuber にも嫌悪感しか感じませんけどねぇ(笑)
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