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新書「組織不正はいつも正しい」を読了

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光文社新書の「組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには」中原翔著を読みました。

“不正”が“正しい”とはどういうこと? というのも引っ掛かったところですが、
それ以上に帯に「三菱自動車・スズキの燃費不正」などと書かれていることから
どういう指摘をしているのか興味があり、買って読んでみました。

もちろん、本書は三菱自動車・スズキの燃費不正だけを取り上げているのではなく
帯に書いてあるように「東芝の不正会計、製薬会社の品質不正、軍事転用不正」の事例を紹介し、
(軍事転用不正は警視庁公安部による冤罪事件なので、会社企業だけでなく“組織”不正)
それらの事例を題材としてどうしてこのような組織不正が起こるのか、
起きないようにするにはどうすべきなのかなどについて論じています。

なお、本書は2024年5月30日に発行されていますが、直近の組織不正ともいうべき
トヨタ・ダイハツ・日野その他の認証不正や小林製薬の紅麹問題などについては言及されてません。
まぁ、これらはまだ全貌解明されてないですし、時間的にもまだ間に合わないでしょうからね。

 

そして、著者の中原氏については本書の「はじめに」で次のように自己紹介されています。
                                    (以下引用)
 私は中原翔と申します。これまで組織の不祥事(以下、組織不祥事)について研究をして
きました。神戸大学大学院経営学研究科に入学し、大阪産業大学で教鞭をとりようになって
からの約一〇年間を組織不祥事という現象の解明に費やしてきました。二〇二四年四月から
は立命館大学経営学部にて教鞭をとっており、引き続き組織不祥事や組織不正について研究
しています。                             (引用終わり)

つまり、著者は大学の先生であって、組織不祥事・組織不正を研究しているものの、
それぞれの具体的な不祥事・不正について追及をしているジャーナリストとかではないわけです。
ですから、総論というか一般論として組織不正はこのようにして起こりやすいとかは論じられても、
それぞれの組織不正の内実について独自の取材で真相究明をしているというわけではないんですね。

なので、ボクがもっとも興味を持っていた「三菱自動車・スズキの燃費不正」についても
表向きのある面ではメーカー(組織)の言い訳みたいな上っ面の話だけで終わっているというか、
それに基づいたピント外れのような見解で終わっている感じで、ちょぃと物足りない内容でした。

 

このような「言い訳」については著者自身が次のように書いているにも関わらずなんですが。。。
                                    (以下引用)
 そして、不正をしようとする者は、自らを「正当化」するとも言われています。「正当化」
とは、これらの不正行為を行う際に、自分が行ったことに言い訳をすることであり、「この
ような不正行為を行ったことは仕方のないことだ」などと文字通り自分を「正当化」しよう
とするのです。                            (引用終わり)

不正に携わった当事者が「正当化」して「言い訳」するのはもちろん、
組織としても「正当化」して「言い訳」しようとするわけです。

最近の自動車メーカーの認証不正でも「より厳しい条件で試験していた」とか、
「国交省の認証制度が(ガラパゴス化している)」とかは明らかに「言い訳」をしてるのに、
それを真に受けて自動車メーカーを擁護して国交省を批判するようなメディアというか
似非自動車ジャーナリスト(単に自動車評論家などと名乗るならいいけど)などもいるみたいですが、
当事者や組織の「言い訳」を真に受けてるようではジャーナリストとしては失格(力不足)でしょう。

もっとも、ボク自身はジャーナリストでもなんでもない単に早期リタイアした無職のオッサンであり
ちゃんと取材して事実関係をしっかり確認しながら本質に迫るジャーナリスト活動をしてるわけでもなく、
だからこのブログ記事で書いてることも妄想レベルに過ぎないと言われればそれまでですけどね。

 

けれども、これら「正当化」も「言い訳」も必ずしも根も葉もない意図的な詭弁かというと
実はそうではない場合も多い、というか発端は素直に「正しい」と考えてのことだった、
というのが本書のタイトルの「組織不正はいもつ正しい」という著者の主張になっています。

あくまでもその組織内部の理屈では、あるいは近視眼的には「正しい」と考えてしまっているわけです。
なので、先述の認証不正の問題でも記者会見した企業のトップは実は本質をよく理解できておらず、
その部門の代表者やら当事者やらがその時に「正しい」と判断して報告した「言い訳」を
そのまま記者会見で漏らしてしまっただけなのかもしれませんけど。
それでもその責任はその企業トップが負うべきなのは間違いのないことですが。

 

それで、今一度、「三菱自動車・スズキの燃費不正」に関して話題を戻すと、
本書では三菱自動車、スズキだけでなくSUBARU、日産、マツダ、ヤマハも十把一絡げにされてます。
ボクはこのブログでもこの記事のように一度話題にしていますが、
三菱、スズキは開発部門・認証部門での不正であるのに対し、他は製造部門での検査不正であり、
本質的な問題が異なっていますし、三菱とスズキも中身はまったく異なる問題と捉えるべきです。

ただ、本書でも最終的に焦点を当てて論じられているのは三菱、スズキだけに絞られています。
それでも、両社ともに国交省が定めている「惰行法」に従わずに
三菱は「高速惰行法」を用い、スズキは「装置毎等の積上げ」法を用いたため不正となったとあり、

さらに、国交省は日本車の燃費をよく見せかけるために独自の(ガラパゴス化した)測定法を指定して
それが両社の測定法と不一致となった原因である、
つまり最終的には国交省が悪いみたいな話となってしまっています。
もっとも、最後の部分は「私の見立て」という断りのもとで著者の推測で書いているだけですが。

ただ、これは明らかに間違った推測です。キッパリと言わせていただきます。

だいたい、日本で販売される車のカタログ燃費が良くても国交省にはなんのメリットはないし
良くなるのは日本車だけでなく輸入車も同じことですし、
逆に世界各地での販売ではその地の測定法に従いこれまた日本車も日本車以外も同じことですしね。
本書の著者の「私の見立て」は明らかにピントがズレてます。

私も推測でしかないですが、いちおう元・自動車業界で働いてきた人間ですから、
少なくとも業界の内情をまったく知らない大学の先生が聞きかじっただけの話とはまったく違います。
以前のブログ記事内容と重複するところもあるかと思いますが、再度整理しておきたいと思います。

 

まず三菱の場合ですが、日産との軽自動車の共同開発のスタートに当たり
日産が当時の現行車の実力を把握するために燃費計測したらカタログ値との乖離が大きく、
そこから三菱の燃費不正が発覚したという経緯ですし、
その乖離幅が大きく他車種も同様であったことからして単に計測法の差異というより
明らかに意図的にカタログ燃費の偽装をしたということで間違いないでしょう。

※この発覚にはたぶんに政治的というかルノー・日産・三菱の経営権やら株価操作みたいな
キナ臭い話も背後にはあるかと思いますし、ゴーン氏の手腕もあったのかもしれませんが、
それらについては本書で扱う「組織不正」とは次元が異なるので扱わないことにします。

実際に発覚後にも日産との目標値合意のハードルが高過ぎたみたいなことも言ってましたしね。
なので、計測方法をたまたま間違えて結果的にカタログ燃費が実際より良くなってしまったのではなく
カタログ燃費を実際よりもよくみせかけるために意図的に違う計測方法をやったということですし、
その違う計測方法は燃費偽装の手段のひとつに過ぎず、おそらく他にもいろいろやっていたはずです。

また、本書でも出てくる「高速惰行法」ですが、より高速からニュートラルで惰行しようが
その速度低下度合いから走行抵抗(転がり抵抗と空気抵抗)を算出するのでそんな大きな差はないはず。
それよりも、ボクは本書で初めて知ったのですが、三菱はわざわざタイでその計測を行っていたそうです。

どうして国内仕様の軽自動車の(大量生産前の)貴重な認証車をわざわざタイまで運んで計測したのか。
ボクは三菱とタイの事情などはよくわかりませんが、スバルではわざわざスペインまで行って
そこの認証請負機関とテストコースで惰行試験(コーストダウン試験)をしていました。

なんの目的かというと、その方が良い(走行抵抗が少ない)結果が得られるからです。
どういうカラクリかというと、そのテストコースでは僅かに下り坂になってるから(笑)
ただしこれは欧州の認証にて規定されている公差内で僅かに下り勾配になっているだけで、
もちろんその認証請負期間が意図的にそのようなコースを造り上げているのですが、
それでもそれはちゃんと認められた公正なものであり、多くのメーカーもそこで試験しているものです。

そして、それは日本国内の試験法とは違いますから日本での燃費認証には使っていけない結果です。
もしかしたら、タイで試験するとこれと似たようなカラクリで有利な結果が得られるのかもしれませんが、
それでもそれを日本の認証試験に使っていけないわけで、それをやってしまったのが三菱なのでしょう。

ですから、繰り返しになるが、三菱の場合は意図的にカタログ燃費を偽装するという不正をしたんです。

 

なお、カタログ燃費=認証燃費となりますが、工場で大量生産された車はばらつきもありますから、
個々の実燃費はそれとは異なりますし、まぁ一般的にはカタログ燃費より悪くなる傾向にありますが、
(どのメーカーも不正せずとも認められた公差内で最良の値を叩き出したいのはやまやまなので)
それでもある一定の公差内にあることを工場の抜き取り検査で定期的に検査していくことになります。

その時に工場検査での不正が発覚したのが、SUBARU、日産、マツダ、ヤマハだったわけです。
これについては以前のブログ記事で取り上げたので今回は言及しませんが。

 

一方のスズキの場合ですが、発覚後の検証ではカタログ燃費と実燃費との差はあまり大きくなく
車種によってはむしろ実燃費の方が良かったものもあり、
その点から考えればカタログ燃費を偽装するために不正を行ったのではないと考えられます。

それよりもスズキの不正で際立っているのは、その不正を行っていた車種が非常に多いということです。
ほとんどすべての車種で定められた「惰行法」をせずに「装置毎等の積上げ」法でやっていたとのこと。

ではなぜ、定められた「惰行法」をせずに「装置毎等の積上げ」法を用いたのか?
本書ではスズキが言い訳した天候などにより「惰行法」が行えなかったからだと説明していますが、
そんなに1年中天候が悪くて試験できないなんてことはあり得ないし、スズキだけの理由にもならない。

おかしいのはスズキでも試作車の段階ではちゃんと「惰行法」をやっていたとも書いてあることです。
試作車では出来ているのに認証車でほとんどすべて出来ないなんて言い訳にもなっていませんね。

ところで、この認証車を作って一番最初にやらなければならない試験がこの「惰行法」なのです。
そこで得られた走行抵抗がシャシーダイナモの設定に関係してきて、それがなければその次の
燃費・排ガスおよびそれらに関するデバイスの耐久・信頼性などの認証も出来ないからです。

それと、試作車と認証車との違いについてですが、
新車開発では試作車でいろいろと試験をしてこれでもう量産車の仕様は決定という段階まで行って
量産図面にしてそれに基づいて造られるのが認証車となります。
認証車も工場ラインで造らなくていいけど工場で造る車と同一品質というのが認証車の前提となります。

なので、順番としては試作車でいろいろと試験をして量産仕様を決定、
それで量産図面が完成してから認証車を一台一台と造って、
最初に惰行法の試験をして、その後いろいろな認証試験をすることになります。

ただ、こんなに区切ってやっていては開発期間が冗長になってなかなか新車を販売できない。
開発期間が長ければ長いほど開発にかかる資金は膨れるし、新車販売が遅れることは機会損失になる。
だから、実際にはシームレスにかつ部分的には見切り発車にならざるを得ないわけですが、
(見切り発車でも途中で変更を要すれば設計変更=設変するので、そのリスクの大きさの話)

そこで、いっそのこと「惰行法」なんかやらずにそのために認証車も造らずに済めば、
開発期間がぐぐっと短縮できるわけですし、設変リスクも減るし、認証車を安く造れるようになる。
いろいろな条件にもよるけど、これでざっと数億円は儲かりますねぇ。

つまり、そしておそらく、スズキはこれを狙ってやっていたと考えられます。
賢いと言えばそうですが、ルールを無視して自社だけ抜け駆けで儲けようとしていたのは確かなので
ずる賢いというべきことでしょう。
ただし、直接お環境汚染や客さんに不利益を被らせてはいないという点ではまだマシとも言えますが。

 

本書の著者も自称自動車ジャーナリストの方でもこのあたりのメーカーの内情を知らない人が多すぎで、
メーカーの言い訳を鵜呑みにし過ぎてしまっていますね。
なので、本書に取り上げられた他の組織不正の事例についても、それらにはボクは完全に門外漢ですが、
それでもまぁ事の真相には迫っていないのではと思え、故にもうあまり真剣に読みませんでした(汗)

そして、もちろん、国交省側にもまったく非がないわけでもないけど、
そういうことはお互いが議論して修正していけばいいことで、
そういう機会がまったくないわけでははないですし。

それに、各国・各地域の認証制度などはそれぞれで、問題があるのは日本の国交省だけではないし、
むしろ国際ルールまったく無視の米国とかチャイナの独自ルールの方がほんとにやっかいですし。
それでも、それもこれも含めてルールに従ってやるというのは大前提であり、
ルールを破っておいてあれこれ言い訳するのは、企業倫理として最低なことだと言わざるを得ませんね。

ただ、そのルールを破った言い訳をメディアが見抜けないのがいまの日本のメディアの実力のなさ、
ジャーナリズムの衰退とも言えるのかもしれませんけど。
そして、それは最近のトヨタ・グループなどの認証不正でも同じことが言えるみたいですけど。

ただ、メディアがすべてていたらくかというとそうでもないとは思いたいですけどねぇ。
最近の認証不正問題ではこちらの時事通信の記事などはかなりまともなことが書いてありますしね。

 

P.S.:書き忘れてたので追記しておきます(7月7日 AM)

認証が国交省の立ち合いでなく書類審査だけであったとしても、
排ガス・燃費・走行抵抗にしろ、衝突安全試験にしろ、結果の数値だけとか〇×だけ報告するわけでなく
技術報告書である以上は5W1Hを明記しなければ審査に通るわけはありません。

いつ(日付だけでなく天候等も)、どこで(どこの国のどこのテストコースで)、誰が、
何を(試験車の仕様、試験車ナンバー、部品刻印など)、なぜ(これは明らかですがどんな目的で)、
どのように(試験方法、計測装置・計測器など)を事細かに明記しなければなりません。

ですから、手違いとか勘違いとかで、タイで試験したとか、速度が違っていたとか、
そもそも試験せずに計算だけで済ませていたとか(認証車すらなかった?)とかあり得ないことです。
つまり、それらはすべて捏造されて国交省に報告されていたということであり、
それをさも故意ではなかったかのようにメーカーが言い訳してもウソはバレバレなんです。

同じように直近の「より厳しい条件で試験していた」とかも明らかに言い訳でしかなく
違った条件で試験した結果をさも正しい条件で試験した結果のごとく偽装したり
あるいはありもしない結果を捏造したりして国交省に虚偽の報告をしていたことになります。

それをあとから言い訳で「より厳しい条件で試験してるので安全です」とか強弁したり、
「より厳しい条件で試験してるのに認めない国交省が悪い」みたいな言外の含みを醸し出すのは
卑怯極まりない、少なくとも技術者としてはあるまじき姿勢だと断罪されるべきでしょう。

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