新書「ダーウィンの呪い」を読了
本書の「はじめに」では次のようなことが書かれています。
(以下引用)
これが「呪い」のせいだとすれば、いったいそれはどこから湧き出てきたのだろう。
どうやらこの呪いには三つの効果があるようだ。「進歩せよ」を意味する“進化せよ”、
「生き残りたければ、努力して闘いに勝て」を意味する“生存闘争と適者生存”、そして、
「これは自然の事実から導かれた人間社会も支配する規範だから、不満を言ったり逆らった
りしても無駄だ」を意味する、“ダーウィンがそう言っている”である。それぞれ「進化の
呪い」、「闘争の呪い」、「ダーウィンの呪い」と名付けたい。 (引用終わり)
要するにダーウィンの唱えた進化論が誤解または歪曲され拡大解釈されたことによって
「進化の呪い」、「闘争の呪い」、「ダーウィンの呪い」が現実社会に起きてしまったということで、
本書ではタイトルこそ「ダーウィンの呪い」となってますが、
これら3つの呪いをそれぞれ、およびまとめて歴史を紐解いて解説しているという内容になります。
もう少し説明を加えるなら、進化とはある目的や理想に対して直線的に向上すること=進歩と違うし、
ましてや人間が進化の最終形・最高の形でもないということです。
また、生存闘争とか適者生存も生きるか死ぬか(生物は個体としてはいずれ死ぬ)や食うか食われるか
といったことではなく、たまたまある環境に適した種が増えたか減ったかの話でしかないわけです。
さらには、そのような進化の仕組みを単純に人間社会の制度や経済活動などに当てはめても
それは正しくはないということであるわけです。
まぁ、ボクはいちおう進化の理屈はある程度正しく理解できていると自負してるので
「進化の呪い」と「闘争の呪い」にはかかってないと思ってますが、
世の中的には確かにその2つの呪いにかかってるところはあるのかもしれません。
つまり、進化について誤解されていることも多いのでしょう。
そして、その誤解された進化を人間社会に当てはめてさらに歪曲や拡大解釈が加わって
もっともらしいことを言うような人も多くて、ボクも含めてしらずしらずのうちに
「ダーウィンの呪い」にそれこそ呪われてしまってる部分のあるかもしれませんねぇ。
そして、本書では進化への誤解にもとづいたような「優生学」の話が中心となっていきます。
優生学の歴史と変遷が半分くらいを占めるといってもいいかもしれません。
そこからさらに、人ゲノム改変(遺伝子編集)への議論へと繋がっていきます。
本書は総ページ数で350ページほどにも及ぶのでややぶ厚くて内容的にも盛りだくさんで
かなりの読み応えがありますが、それだけ考えさせられることも多く、充実した中身でした。
ただ、本書には結論めいたことがはっきり書かれているわけではありません。
それでも、最終章の終わりの方に次のように書かれていて、ボクはこの考え方が気に入りました。
(以下引用)
人類として普遍的な善悪はあるし、自明な善意も悪意もあるだろうと私は信じる。だが
善であるためには、悪でないことを祈りつつ、一つずつ善意のレンガを置いてみるしかな
い。 (引用終わり)
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