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新書「かたちには理由がある」を読了

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ハヤカワ新書の「かたちには理由がある」秋田道夫著を読みました。

帯に「プロダクトデザイナーは何をしているのか?」と書いてあるように、
著者自身がフリーランスのプロダクトデザイナーとして活動している方であり
その仕事について、またその仕事への考えや思いについて書いている本になります。

なお、著者はトリオ(現JVCケンウッド)、ソニーを経てフリーランスになっているそうです。
トリオなんて懐かしい名前が出てくるほどですから、ボクよりひと回りほど年上の方になります。
秋田氏の名前は知りませんでしたけど、信号機や交通系カードチャージ機なども手がけてるそうで、
とするとどこかで秋田氏のデザインしたモノを見かけているのかもしれませんね。

本のページをそのままスキャンして載せるのはもしかしたら著作権で問題になるのかもしれませんが、
誰かにこれといった損害を与えるものでもないでしょうから載せてしまいますが……
本書の「はじめに」は次のようなクイズではじまります。
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クイズというより、「三つの中でどの図形がお好きですか?」というアンケートに近いですが。
その次のページで著者は次のように書いています。
                                  (以下引用)
 なかなかに「困る」質問だろうと思います。好きも嫌いもないという方もいらっしゃ
るかと思いますが、わたしがデザインに用いてきたのは圧倒的に正円(①)です。
                                 (引用終わり)

ボクも後出しジャンケンでもなんでもなくて、①だと感じました。
だからといって著者のようにプロダクトデザイナーのセンスがあるわけでもないのですがね。
そして、著者はその理由を次のように説明しています。
                                  (以下引用)
 楕円(②)は、短径と長径の比率を自由に決められるので、そこに時代と個性が入り
込みます。
 球(③)は、時代や個性を吸い込むことはないのですが、呪術的な意味合いを帯びて
います。ちょっと、「怖い」かたちです。
 正円は、最も「何の変哲もない」かたちです。だからこそ、使います。すでに飽きら
れているので、飽きようがない。                  (引用終わり)

ボクが直感で正円が好きと感じた理由は確かに最もシンプルだと思ったからですけど、
それをきちんと言語で説明してくれて、かつそれがある程度説得力を持っているのが凄いです。
まぁ、これを読んでも納得できない人もそりゃぁいるでしょうけど、
芸術家なら分からんやつは分からんでいいで済ませられるものの
プロダクトデザイナーというのはそれでは務まりませんから。

 

だから本書のタイトルの「かたちには理由がある」いうことになるわけです。
そして、「はじめに」ではさらに次のように続いていきます。
                                  (以下引用)
 ものにはかたちがあり、かたちには理由があります。「なぜ、これはこういうかたち
なんだろう?」「こういうかたちにするには難しい事情が何かあるのかな?」と観察し
てみれば、日常の風景がこれまでとは違って見えるに違いありません。デザイナーにと
って観察は基本業務ですが、デザイナーに限らず誰にとっても、これは感性を磨きなが
ら日々を過ごすための有効な楽しみになると思います。「観察はデザインに勝る」。

 本書では、わたしがデザインを手がけた様々な製品を題材に、そんなことを考えてみ
ました。                             (引用終わり)

ということなので、本書ではこの「はじめに」の前に8ページに渡って
著者がデザインを手がけた製品の一部がカラー写真で掲載されています。
それらを見ながら、本書を読んでいき、またその写真を見返すと、なかなか面白いなと思えてきます。

 

ボクが勤めていた自動車メーカーでもデザイナーという肩書・組織の人は当然いて
彼らもそのプロダクトデザイナー、あるいはインダストリアルデザイナーであるわけで、
でもボクはデザインというかカッコとはむしろ対立しがちな機能・性能に携わっていたわけですが、
まぁでも一緒に仕事をしてきた人たちですからだいたいのところは分かっているつもりです。

でも著者はクルマなどのモビリティのデザインは今まで手掛けたことはないみたいです。
                                  (以下引用)
 小学校の卒業文集に「カー・デザイナーになりたい」と書いていました。でも、格別
に車が好きだったわけでもないし、運転免許を今まで持ったこともありません。なによ
り「スピード」が怖い。ジェットコースターは苦手です。       (引用終わり)

まぁ、自動車メーカーのデザイナーになるような人はやはり大半はクルマ好きなのでしょうけど、
個人的には大して自動車好きではない人でもカー・デザイナーとして成功できるはずだし、
むしろ少しクルマに距離を置けるぶんだけプロダクトデザイナーとして
プロフェッショナルな仕事に徹することができるのではないかとも思っちゃいますけどね。

スバル360のデザイナーの佐々木達三さんにしてもそれまでカー・デザイナーではなくて
工業デザイナー(インダストリアルデザイナー)だったわけですからね。
と、あまりに昔の話をしても現代にはそぐわないかもしれませんが、特にスバル車の場合は
単にカッコイイとかだけよりも安全性や実用性などの理由があるかどうかが優先されるべきですから。

一方、自動車メーカーの実験とかだと、特にスバルのようにテストドライバーという専門職がないと、
さすがに極端にスピードが怖いとか、ジェットコースターのようなGが苦手となると務まりませんが。
ただ、台上テスト、机上テスト、数値シミュレーションだけを専門にする人もいますけどね。

 

さて、本書の内容そのものについてはあまり細かく紹介はしませんが、少しだけ。

(以下引用)             「自分のオリジナル」にこだわる必要はないと
いうのがわたしの考えです。過去の優れた製品も、もとをたどればさらに過去の優れた
製品の影響から誕生しています。プロダクトデザインの目指すところは個人性ではなく、
とにかく美しく使いやすいものを多くの人に提供することに尽きると思います。
                                 (引用終わり)
そうなんですよね。
よくクルマなんかでも昔の他社の〇〇〇に似ているとか、パクリだとか、そんな軽口を叩く人はいますが、
もちろん完コピみたいな模造品も昔のチャイナとかであったしそれらは論外なのですが、
そうでなければなんとなく似ているからといって、それを面白おかしく揶揄するのは下品な行為だし、
プロダクトデザインというものへの理解不足を露呈しているに過ぎないと思うんですよね。

もうひとつ、次のような話はなかなか具体的には難しいところがありますが示唆に富むものです。
                                  (以下引用)
 ただ、いつも気をつけているのは、手にした人が「乱暴に使いたくないな」と思って
しまうような気配を持たせることです。少し緊張感があって、いざとなればラフにも使
えるけれど、なるべく大事に使おうと思ってもらえるようなデザインは心がけています。
日常的に使うけれども、落書きはしちゃいけない、といったくらいの、薄い緊張感の膜
で包まれているような気配。
 たぶん、それが「品」を生むと思うんです。大事にしすぎるのも、乱暴にしすぎるの
も好きじゃないということなんでしょうね。             (引用終わり)

よーく分かります。共感しちゃいました。
かたちではなく、デザイナーでもないですが、クルマの性能、特に感性の部分には
このような視点が必要だと常々思って現役時代を過ごしてきましたから。

乱暴な運転をするような人が好む車はやはり運転すればそんな雰囲気を持ってますし、
いい加減というか漫然と運転する人が好む車はやはり運転すればそんな雰囲気があります。
例えば、あおり運転の投稿動画でよく出てきそうな車とか暴走のニュースで出てきそうな車とか(汗)

ただ、なかなか言葉や数値で示すことができないような話ですし、
会議でこれらのことを語ってもキョトンとされるだけで伝わらないことがほとんどです。
相手もそのような意識を持ってなければまったく会話にならないことですから仕方ないのですが。
だから、まぁ自分のテリトリーの中でこっそりと出来ることだけをやるしかなかったんすけど。

特にスバルなんかは決してプレミアムじゃなく「日常的に使う」実用的なクルマを作っているんだけど、
じゃぁ単に道具としてだけの使い捨てのような、言い換えればすぐに陳腐化し愛着も湧かないような、
そんなクルマ造りをしてはいけないブランドなので(企業規模からしてもその戦略となるので)、
この「乱暴に使いたくないな」と思わせる感覚は本当は非常に大切なものであるはずですからね。

この辺の「大事にしすぎるのも、乱暴にしすぎるのも好きじゃない」というサジ加減が難しいのよね。
特に個人ではなく組織として意思統一するというか落としどころを見つけるのは至難の業。
それをするのがブランドイメージであったり伝統であったりするんでしょうけどね。

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