キネティック・サスペンションって何?
前回の「バギー司郎」の話から、そしてそこで次回は「キネティック・サス」の話をすると予告しながら
またまたずいぶんと間が空いてしまいました。楽しみにしている方がいたらもうしわけない<m(__)m>
さて、キネティック(kinetic)というと、「動的な、運動力学的な」という意味だそうですが、
そもそもサスペンションというものは動くものなのでキネティック・サスペンションと言っても
なんだそりゃということでしかないと思います。
ここでいうキネティックとはそのような「動的な」という意味というよりも
単にキネティック(Kinetic Suspension Systems)社が開発しているサスペンションという意味で
キネティック・サスペンションと呼んでいるということです。
なので何かの分類とかの呼び名ではなく、あくまでも固有名詞、商品名という理解となります。
ネットでキネティックと調べるとセイコーの自動巻き発電クォーツ時計がよくでてきますが、
キネティックサスですとランドクルーザー200のキネティック・ダイナミック・サスペンションや
シトロエン・クサラWRCのリバースファンクションスタビライザーや
マクラーレンMP4-12Cのプロアクティブシャシーコントロールなどがこれにあたります。
これらはまったく同じシステムというわけではないですが、
キネティック社の特許により開発されているサスペンションとなります。
なお、シトロエン・クサラWRCには当時、キネティック社もスポンサーとなっていて
ボディサイドなどに「Kinetic」のロゴがあるのが見てとれるはずです。
そんなキネティックサスはいろんなタイプがあるのですが、その特徴をおおざっぱに言えば、
油圧で4輪または前後を繋いで前後左右のサスの動きの連携を図るというものです。
と書くと、シトロエンのハイドロニューマチックみたいなモノ? という感じに聞こえますし、
実際にそういう部分もなきにしもあらずですけど、主な構成には違いがあります。
ハイドロニューマチックは基本的にはエア(ガス)サスであり、
それはバネ定数を低く設定し、バネ上固有振動数を低くし、乗り心地を良くすることに繋がり、
一方で油圧システムにより車高を一定に保ち(場合によって車高を上げたり下げたりでき)、
それによって多人数乗車や積載時にはそれに応じてバネ定数が高まるのでバネ上固有振動数は一定で
サスの底付きや乗り心地の悪化、さらには操安性の変化を抑えようというのが狙いです。
それに対して、キネティックサスはオプションなどにもよってそれらの機能も追加可能ですが、
基本的な狙いは4輪を前後左右に油圧ラインで繋ぐことで連携させて
特に前後同相のロールには対抗するけど前後逆相のロール(ストローク)は許容させることです。
なので、メインのバネは金属製のコイルバネのままでもいいし、もちろんエアにしてもいいです。
また、油圧で4輪をつなげば金属製のスタビライザー(アンチロールバー)も不要となりますが、
ランドクルーザーは前後の金属製スタビライザーを残してその前後間だけを油圧連携していますけど。
それでも前後同相のロールは抑え、前後逆相のロール(ストローク)は許容する狙いは変わりません。
では、どうやって前後同相のロールを抑え、前後逆相のロール(ストローク)を許容しているのか、
つまりキネティックサスの構造・構成はどうなっているのでしょうか。
キネティックサスの構造はいろいろな種類があり、かつオプション的に付加機能があったりして、
多くのバリエーションがありますし、知的財産的な問題もあるでしょうからあまり詳細に書けませんが、
概念図として当時スバル向けにプレゼンされたものは以下のようなものでした。
4つの筒状のモノは4輪それぞれに繋がっている油圧複動シリンダーです。
ダンパー(ショックアブソーバー)とは違いますのでピストンにバルブ機構などはありません。
この図では4輪位置が規定されてないですが、仮に右上奥が車両前方と考えることにしましょう。
前輪の左右サスではX字型に油圧ラインが配管されているので、
右前輪がバンプするとピストン上部のオイルが押され、
油圧ラインで繋がっている左前輪のピストン下部に油圧がかかり、左前輪をバンプしようとさせます。
逆に、左前輪がバンプすると右前輪もバンプさせようとする力が働きます。
なので、例えば前輪が左右同時に突起を乗り越えようとすると左右両輪ともにバンプしますが
この時はX字型配管の中をオイルが互いに行き来するだけで自由にバンプすることが可能です。
※なので、サスペンションとしては別途車重を支えるバネが必要なのですが。
けれど、右前輪がバンプしようとして、かつ左前輪はリバウンドしようとすると
X字型配管の中のオイルは互いに行き場がなくなるので、そうならないような抗力が発生します。
例えば、左旋回で車両が右にロールするような場合ではロールしないような働きになるわけです。
これは後輪の左右サスでも同じ動きになるので、普通のロール、前後同相ロールはしにくくなります。
でも、上図をよく見ると前後の各X字型配管のそれぞれが前後につながった配管になってます。
例えば、右前輪がバンプ/左前輪がリバウンド、かつ右後輪がリバウンド/左後輪がバンプ、
こんな動きをしようとすると、右前輪のピストン上部の油圧の左前輪のピストン下部の油圧が
前後配管を通じて右後輪のピストン上部と左後輪のピストン下部に加わえられるため
前輪左右と後輪左右は前後逆相のロール(ストローク)をしようとすることになります。
実際にそうなるかどうかは路面状況や車両の運動状態との兼ね合いになりますが、
前後逆相のロール(ストローク)をする時は前後配管の中をオイルが行き来するだけなので
なにも規制されることがなく自由にサスペンションが動くことができるというわけです。
なお、後側の配管の一部に球状のだんごみたいなのがくっついてますが、
まぁこれはシトロエンのハイドロにもくっついているガス封入のスフィアみたいなもんで
概念的にはシリンダのロッドの体積分を吸収したりする程度のモノとここでは理解していいでしょう。
実際にはこのようなガス封入のスフィアを幾つか配置することでロール剛性やピッチ剛性を変えたり、
油圧配管の途中にオリフィスを設置してダンパー効果を加えて
ロールやピッチに対する減衰や過渡特性を変えたりすることも可能ではありますが、
キネティックサスの肝になるところ、その概念および構成は以上のようなものとなるわけです。
さてさて、ではどうしてキネティックサスは
前後同相のロールは抑え、前後逆相のロール(ストローク)は許容しようとするのでしょうか?
これによってどんないいことがあるのでしょうか?
なんだか目的と手段が逆になった順番での説明となってしまってますが、
もちろん目的があってのこの構成=手段ですので(勘のいい人はもう目的は分かっているでしょうけど)
次回はそのキネティック・サスの目的の部分について書いていこうと思います。
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コメント
いつも楽しみに…だとイヤミっぽいですかね(笑)
後側の配管に付いている円筒みたいなものはどういった役割なんですか?
投稿: いくら | 2024-01-27 21:41
>いくらさん
楽しみにしていただいてありがとうございます(笑)
それで、後側の円筒ですけど、なんですかねぇ、はっきり記憶が……
たぶん、ロール剛性を調整しているものでしょうね。
普通にスタビライザーが付いているクルマだとスタビを弱くして前後バランスを調整するようなものでしょう。
投稿: JET | 2024-01-28 05:34