「バギー司郎」は結局は尻切れトンボで終わった
あら、気が付いたらこのスバルカテゴリーの記事は8月下旬の「X-MODE」命名の記事を最後に
2ヵ月近くものずいぶんと間が空いてしまっていました。これぞ間抜け(汗)
その記事の最後にも次は「バギー司郎」の話をしますと予告してしまってたので、
もうそろそろ書かないと詐欺みたいになってしまいますから、重い腰を上げて書いてみることにします。
で、「バギー司郎」ってなんぞやということですが、
とある先行開発用の試験車のことをボクが勝手に「バギー司郎」と名付けてしまっただけのことです。
その当時の画像などがあれば分かりやすいのですが、あいにく撮影などしていなかったので画像はなし。
ただ、その試験車が一見するとバギーカーみたいだったので「バギー台車」とか呼ばれるようになり、
でも、それだと可愛げがないので、マギー司郎っぽい響きで勝手に「バギー司郎」と呼んだだけです。
なので、若手からは「バギー審司」じゃないの?とか訊かれましたが、別にどっちでもよくて、
でも、2000年前半だったのでまだ審司より司郎かなというところだっただけです(笑)
その後、その「バギー司郎」が独り歩きしてしまい今となっては本名がよく分からなくなりましたが。
先開サス台車とか先開操安台車とか呼んでいたのかな。
そして、バギーっぽい見た目ということなわけですが、それは
車体骨格がマグネシウム合金のチャンネル材やパイプで構成されていて
外板がなくてそれらの骨格が剥き出しになったままなので、そのような見た目になっていたんです。
さらに、そのマグネシウム合金の骨格は、フロント/センター/リア・モジュールと3分割されていて、
将来的には幾つかのモジュールをとっかえひっかえして組み合わせられるようにと作られていました。
なので、例えばリア・モジュールとしてストラットサスペンションのもの、Wウィッシュボーンのものなど
付け替えてその操安乗り心地の違いを試験することができるというわけです。
あるいは、各モジュールの間にスペーサーなどを介すことでホイールベースが可変にもできます。
また、どうしてマグネシウム合金なんかで骨格を作ったのかというと、とにかく軽量化が目的です。
ここで軽量化を図っているのは何も軽くして運動性能を高めて速く走ろうということではなく、
元々を軽く作ることによって、いろいろな場所に重りを取付けることで重量合わせをして、
それで車両の重心高やヨー慣性モーメント(車両諸元)を可変にすることが可能になるからです。
もうひとつ、マグネシウム合金のチャンネル材やパイプなどで骨格を作ったのは、
複雑な形状のものを使ったりモノコック構造などにすると構造解析が複雑になり、
車体剛性の計算がしにくく、シミュレーションに適さないからです。
逆に言えば、特定の部分に筋交いを入れたり外したりして車体剛性を可変にすることが可能なわけです。
つまり、このバギー司郎は、サスペンション形式などの違い、車両諸元の違い、車体剛性の違い、
それらと操安乗り心地の計測値や官能評価の違いとの相関を研究し、
さらにシミュレーション(CAE)との相関を研究するための実験車両ということになります。
なお、このバギー司郎はたしかサスやステアリングなどを設計する機構設計課からの企画で、
実際の車体骨格の製作は、、、うーん昭和電工だったっけ? かどこかに作ってもらいました。
いちおう、ロールバー風の構造材はあるので転覆してもなんとかなりそうですが、
衝突安全性は衝撃吸収構造でもないし試験もなにもしてないのでまったく保証されてませんし、
エアバッグは皆無ですし(そもそも操安性の試験ではエアバックは非作動にすることが多い)
フロントウインドスクリーンもドアもボンネットもありませんから、怖いし異様です(笑)
もっとも個人的には風を切って走れるので爽快な感じでもありましたけどね。
重量合わせをしなければ軽量そのものなのでキビキビ走るし、やはり軽さは正義だと実感しました。
なんにしても、そんな異様なバギー司郎でテストコースを走って実験しようというんですから、
関係各所との調整にまぁいろいろと大変でした。
上司が協力してくれればなんてこともないのですけど、当時は完全に上司に疎まれていたので、
背後から刺されることはあっても、協力なんて一切してくれませんでしたからねぇ(笑)
それに、これよりさらに10年以上も遡ること、幻の77Sの開発で外板もドアも屋根もない
日産マーチの試験車をテストコースで走らせて大問題となってこっぴどく叱られた身としては、
このバギー司郎を走らせて同じような騒ぎを起こすことはなんとしても避けたいということで(笑)
テストコースで走らせるための関係各所との調整がこのバギー司郎で最も苦労したところとなりました。
おかげで何故か専用のヘルメットを貰えることになったのはある意味でラッキーでしたけど。
フロントウイドスクリーンがないからシールド付のヘルメットを新調してやるから
それを被れという管理課の言い分だったんですね。
で、このバギー司郎の成果は? うーんですorz
実際は上述のように設計部署が主導だったことや操安乗の計測は部下(別会社)に委任してたりして
ボク自身が直接動いていたわけではないのではっきり覚えてもいないのですけどね。
少なくとも当初構想していたような違うサスペンションのモジュールも製作して
とっかえひっかえ比較するまでは至らなかったし、
それが出来てればマルチリンクサスvsWウィッシュボーンサス(スバル独自の分類)も
はっきりさせることが出来たんですけどね。
重心高やヨー慣性モーメントによる違い、それらの実験値とシミュレーション値との相関などは済んで、
ちゃんと合っていたというのは確かだったと記憶していますが、
そんなのは簡単な運動方程式からちょいちょいと計算しても合う話ですからバギー司郎の成果じゃないし。
車体剛性についても少しやったけど、そっちは結局なんだかよく分からないで終わったと記憶してます。
それはLMSへの業務委託の顛末ででも書いたように、あるいはLMSがそう言っていた通りで、
「車体剛性なんて必要十分あればそれで良い、CAEには関係なし」が改めて分かっただけのことですね。
そんなのボクは最初からそう考えてましたけど(笑)
あっ、でもあれですよ、官能評価という点では車体剛性の違いは感じられる部分ではありますよ。
走り味とか乗り味とかそういうところには影響はあるんだけど、それは何も車体剛性でなくても変わるし、
大量生産の新車を開発するのに走り味・乗り味を車体剛性の微妙なところでチューニングしてたら
衝突安全やボディ耐久性の試験からまたやり直しになってしまい、いつまで経っても開発できませんわな。
当時のスバルには共通プラットフォームという概念はありませんでしたけど、
既に大手自動車メーカーでは共通プラットフォームから何車種もの新車を開発するというスタイルで、
それだと余計に各車種ごとに車体剛性を弄って走り味・乗り味を変えるなんてことはできませんし。
だから、基本的なところをしっかり押さえていって、そこはCAEでもかなり出来るはずですが、
走り味・乗り味は最終版にダンパーの減衰力とかブッシュのゴム硬度とかでチューニングすべきで、
その段階では計測数値だけでなくしっかり走り込んで官能評価で仕上げるべきなんですよ。
走り味・乗り味なんかどうでもいいというメーカーならCAEだけでハイ終わりもありなんでしょうけど。
そんなわけで、この記事自体がなんとなく尻切れトンボみたいな感じになってしまいましたが、
実際にもバギー司郎は尻切れトンボで終わってしまったみたいです。
ボクも途中で異動になってしまったので、バギー司郎の最期を看取ることもなかったですしね。
注記)尻切れトンボ:トンボのお尻というか胴体の後半を切ってしまうなんてなんと残酷な。
と思ったけど、草履の鼻緒部分をトンボに見立てて、その草履の後ろ半分を切った、後ろがない。
というとこからでてきた言葉なんですって。へぇーですね。
さて、次回は、いつになるかさっぱり分かりませんが「キネティックサスペンション」の話ですかね。
| 固定リンク
コメント