新書「新版 動的平衡3」福岡伸一著を読了
目次を見ても、「老化」「遺伝子」「がん」などはまぁ生物科学=理科の話でしょうけど、
「科学者の捏造」「芸術論」「コロナ」とかになってくると、理科より社会の話となっています。
だからといって面白くなかったというわけでもないのですが、少し内容的にはモワッとした印象です。
それでも、いくつか面白そうなところを断片的に紹介しておきましょう。
(以下引用)
インターネットの情報にないものは何か。それは、その答えに到達するまでの時間の経
緯だ。そこには時間軸が決定的に欠けている。私は、きちんとプロセスをたどって答えに
到達しないと、そこに至る喜びが味わえないのはもちろん、その答えをほんとうに理解し
たことにならないと思う。
「教養」と「物知り」の違いも、この辺にあるのではないだろうか。教養とは、知識が時
間軸に沿って、その人の体験の中にきちんと組織化されていること。一方、物知りはネッ
トのアーカイブのような、知識の羅列でしかない。 (引用終わり)
インターネットと一括りにしてしまうのがいいかどうかはさておくとしても
確かにこの指摘はごもっともだと思います。
インターネットに限らず「映画を早送りで観る人たち」とかネタバレサイトを積極利用する人たちとか
つまりは「教養」ではないということなのでしょう。
なので、ボクも「これ知ってる?」とか「こんなんも知らないの?」とかいう人は嫌いですね(笑)
いっとき話題となった「STAP細胞」の話にも触れておきましょう。
(以下引用)
そんなところに、ES細胞でもなく、iPS細胞を作るような複雑な操作を施す必要も
なく、極めて簡単な方法で、多分化能幹細胞を作り出せる可能性が示されたのである。そ
れがSTAP細胞。弱い酸性の溶液に細胞を浸けるだけでよい、というのだ。世界中が
瞠目した。(中略)
ひとつ言えることがあるとすれば、iPS細胞作製の成功以来、生命科学がテクノロジー
に走りすぎ、「作りました、できました」という成果がもてはやされすぎる風潮がある。
この問題もその延長線上に起きたのは間違いない。科学は本来、もっとじっくり「How(ど
のように生命現象が成り立っているのか)」を問うべきものだ。 (引用終わり)
ボクは当時STAP細胞が何かすらよく分かっていませんでしたが
(この本を読んで少しは理解が深まりましたけど)、最初から何か違和感を抱いたし、
それは良い意味でもそうでない意味でもリケジョとしての彼女に対する違和感だったり
その報道の過熱ぶりへの違和感だったりしたわけですが、
結果的にはやはり残念な結末になってしまったというところですかね。
ここでの残念というのはSTAP細胞ということよりも、
科学に対する信頼とか女性(リケジョ)の進出・活躍とか非常に多岐に渡る意味ですけどね。
ただ、科学や研究はテクノロジーつまり技術や工学とは違うという著者の主張はその通りですが、
それを世間はなかなか区別できないし、それ以上にマスコミも区別できずに問題を大きくするけど、
でもそれ以上に研究予算の配分などの問題が大きいのかなとは思いますけどね。
ちゃんと「動的平衡」に関する内容も書かれていますので、軽く紹介しましょう。
(以下引用)
私たちの身体は、絶え間ない分解と合成の流れの中にいる。私はこれを「動的平衡」と
呼んでいるが、動的平衡の主役は身体のタンパク質である。私たちを構成するタンパク質
は絶えず分解され、捨てられ、一方で新しく合成される。新しく合成されるためには絶え
間のない供給が必要であり、それが肉や魚を食べ続けなければならない理由なのだ
(引用終わり)
まぁだから先日紹介した「食欲人」に書かれていたように、
人間(だけに限らずほとんどの生物)の食欲はタンパク質欲が最優先されるというわけですね。
最後に免疫の話を紹介しましょう。
(以下引用)
そして、ここがもっとも重要な点なのだが、この旅の途中で、自分の身体を構成する細
胞や自分のタンパク質と結合してしまう抗体を産生してしまったB細胞は、(ランダムさゆ
えに必ずそういうB細胞が生じる)、なんと自殺してしまうのである。(中略)
それがゆえに、免疫システムの初源的な本体と先に書いたB細胞集団の中から、ぽっか
りと抜け落ちた空疎な空間、それが免疫システムにとっての“自己”なのである。
自分の内部に、ほんとうの自分を探してはならない。なぜなら、自己はどこまでいって
も、虚無であり、空洞(ヴォイド=void)なのだから。
これもまた、生命が本来的に宿命としている過剰さと彫琢(この場合は、刈り取られたほう
に“自己”がある)の物語である。このメタファーはあらゆるところに見え隠れして、私た
ちを喚起し続ける。 (引用終わり)
最初のうちは科学的な話ですけど、最後はなにやら示唆的というか哲学的な話になっちゃいます。
まぁでもそこが著者の面白味でもありますし、やはり「自分探し」とやらはやめた方がいいですね(笑)
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