単行本「運動脳」アンデシュ・ハンセン著を読了
サンマーク出版の「新版・一流の頭脳 運動脳」アンデシュ・ハンセン著、御松由美子訳を読みました。
前回紹介の「ストレス脳」とそれ以前に読んだ「スマホ脳」とは同じアンデシュ・ハンセン著ですが、
前2冊はともに新潮新書で訳者も久山葉子であるのに対して
※他にも「最強脳」ってなアンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳の新潮新書もあるようですが
こちらは出版社も本のサイズも異なりますし、訳者は御松由美子と違っています。
それでも、「〇〇脳」という日本語タイトルの付け方は共通性があると感じられます。
ただ、この「運動脳」というタイトルを見た時の第一印象は、
運動神経が良いというのはどういう脳、たぶん小脳なのか、
あるいはどう鍛えると、もしくは育てると運動神経の良い子ども、そして人間になるのか、
そんなことが書かれているのかと想像しちゃいました。
ボクは正直言って、子どもの頃、今もそうですが、あまり運動神経が良くはありませんでした。
全然、運動が苦手で何やってもダメというほどではありませんでしたが、
いわゆる運動神経が鈍いというか器用ではなく、
バランス感覚が悪く、球技、特に小さな球を使う野球、卓球、テニスとかダメダメでしたし、
逆立ち、宙返り、バク転なんかも全然できませんでした。
なので、そういうのをすぐに出来てしまう運動神経の良い子には憧れがあったし、
逆にボクは劣等感を感じていたものです。
体力(筋力や持久力)はあるのに上手く身体が使えないので、
運動神経というか脳の違いだと思ってたから、その脳についての本なら面白そうだと考えたわけです。
でも、実際に読んでみると中身は全然それとは違ってました。
「スマホ脳」、「ストレス脳」を包括するような内容となっているというか、
いや、むしろ、「スマホ脳」、「ストレス脳」よりももっと根源的な内容な感じです。
「スマホ脳」より、「ストレス脳」より衝撃的だったのがこの本の内容でした。
そもそも、「スマホ脳」は2020年11月に日本で発行されて売れたわけで、
その後、2022年7月に「ストレス脳」が発行され、
この「運動脳」は2022年9月発行という流れになってはいるものの、
「スマホ脳」の原題「Skärmhjärnan」は本国スウェーデンでは2019年3月発売で、
「ストレス脳」の原題「Depphjärnan」はスウェーデンでは2021年10月発売ですが、
この「運動脳」は元は「一流の頭脳」(原題は長いので省略)として2018年3月に発売されてるので、
いくらか加筆・修正されているとはいえ、この「運動脳」こそが大元の内容だったとも言えるわけです。
邦題の「スマホ脳」がインパクト大でウケたので、
それにあやかって主タイトルを「運動脳」にして新たに発刊したのが本書とも言えますかね。
で、本書の内容は具体的にはどんなことかというと、本書の冒頭に次のように書かれています。
(以下引用)
アンデシュ・ハンセンからのメッセージ
――新版刊行によせて、日本のみなさんへ
脳にとって最高のエクササイズとは何か? 15年前にそう聞かれたら、たぶん私は
クロスワードパズルなどを思い浮かべたことだろう。ところが、多くの人が驚いたそ
の答えは、身体を動かすことだという。
身体を動かすと、気分が晴れやかになるだけでなく、あらゆる認知機能が向上する。
記憶力が改善し、注意力が研ぎ澄まされ、創造性が高まる。それどころか知力にまで
影響がおよぶという。 (引用終わり)
つまり、運動するのに最適な脳とはというお題ではなく、
脳の機能を高めるには、あるいは脳を育てるには、もしくは脳の老化を食い止めるには、
とにかく運動をしろということが書いてあるのが本書です。
運動のための脳ではなく、脳のために運動をしろということです。
それが単にハウツー本や自己啓発本みたいなものではなく、
科学的・医学的に検証されたデータからの結論からその事実を引用してきて、
さらにどうしてそういう結論になるのかのメカニズムという生物の仕組みから解説しています。
もちろん、すべてが解明できているわけではないので、そこは正直に未解明だと断った上で、
人類進化などからの考察も含めて著者の推測なども加えて解説されています。
そして、本書では、ストレスやうつについても、スマホやSNSの害についても触れられています。
そういう意味でも、「スマホ脳」、「ストレス脳」をも包括する内容になっていますし、
これを読んでおけば、その2冊はもう読まなくても良かったかもとも思えるくらいです。
ともかく衝撃的なのは次のような事実です。
(以下引用) スタンフォード大学とマックス・プランク研究所の主催により、
世界の名だたる神経科学者と心理学者70名が立ち上がった。そして専門家たちの手で、
認知トレーニングの分野に科学のメスが入り、「コンピュータゲームが本当に脳の認
知能力を高めるのか」という問いに答えが出たのである。
その答えは、容赦なく否定的なものだった。コンピュータゲームやアプリが提供す
る様々な認知トレーニングは、確かにゲームそのものは上達しても、とくに知能が高
くなったり、集中力や創造性が改善されたり、あるいは記憶力が向上したりといった
効果はないことがわかったのである。単に、そのゲームがうまくなるだけだ。
また、やはり脳を鍛えるといわれるクロスワードパズルも同じだった。クロスワー
ドパズルを解いてもパズルが得意になるだけで、それ以上の効果はないという。
(引用終わり)
ボクは「脳トレ」ゲームやアプリで脳トレに勤しんでいるわけではないので、愕然とはしませんが、
それでもそんなものがなんの効果もないという結果が出ているというのは驚きでしかないですね。
そこまでいかなくとも、やはり頭を使ってないとボケるんじゃないか、認知症になるんじゃないか、
そんな強迫観念は抱いてましたけど、そんなの関係ないんですね。
それよりも、とにかく運動をすべきということです。
運動すれば、ストレスがなくなり、集中力が増し、記憶力を高め、創造性が発揮されると。
もちろん、認知症だけでなく高血圧、高血糖、心筋梗塞などの生活習慣病のリスクも低下し、
脳も身体も心も健康になるというわけです。
そんなバカな。と思うでしょう。確かにボクもそう思いながら読み進めていきましたが、
確かにそう納得できるようなデータや理論や推察が展開されていきます。
まるまる鵜呑みのするのはどうかとは思いますが、批判的に見ていってもかなり納得させられます。
運動だけが絶対かどうかはさておき、運動することが脳にとっても良いことというのは納得です。
その運動の具体的な内容については、認知機能の種類によって少し違いがあるようですが、
概して心拍数を少し上げる持久系の運動、ランニング、ジョギング、サイクリング、ウォーキングなど
週に3~5回、20分~1時間という感じになるようです。
ただ、やり過ぎると、つまり運動強度が高過ぎたり、ヘトヘトになるまでやるとマイナスだそうですが。
ボクの場合はもう還暦過ぎのオッサンですから、今もやっているように
晴れた日はほぼ毎日小一時間の早足ウォーキングとたまにサイクリングという感じで丁度いいかもね。
最後にもうひとつ、雑学的な話題で「コラム」として書かれていたことを紹介しておきましょう。
(以下引用)
さあ、「人間は脳の10%しか使っていない」という神話に終止符を打とう。
(中略) 本当のところ、私たちは脳をすべて
使っているが、何をしているかによって使う場所が異なるのだ。
今の科学では、脳が主な燃料であるブドウ糖と酸素を消費しながら、絶え間な
く電気活動を行っている、つまり「脳は常に活動している」ことが分かっている。
そして健康な脳であれば、休止している場所は一つとしてない。脳は、90%の能
力を休止させておいたりはしないのだ。 (引用終わり)
ということだそうです。
なので自分は実際には今発揮している能力の10倍の潜在能力があると思うのは間違いとなりますね。
一方で脳細胞の数は成人となってからはどんどん減る一方で
歳を取るとどんどん余力がなくなっていくという神話も聞いたことがあるけど、
どうやらそれも間違いのようで、人間は老衰で死ぬ直前でも脳細胞が新しく出来ているのだそうです。
まぁ、これを知って希望が持てるか絶望するかは人それぞれでしょうけど……
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