新書「ストレス脳」アンデシュ・ハンセン著を読了
新潮新書の「ストレス脳」アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳を読みました。
帯の最下端に書いてあるようにボクも読んだ「スマホ脳」の著者・アンデシュ・ハンセンの最新作で、
今年の7月に発行されています。また、出版社も訳者も「スマホ脳」と同じとなっています。
本書のまえがきには次のように書かれていて、ちょっと驚きました。
(以下引用)
スウェーデンでは大人の8人に1人が抗うつ薬を飲んでいて、世界保健機構(WHO)
の試算によると世界で2億8400万人が不安障害を抱え、2億8000万人がうつに
苦しんでいる。あと数年もすれば、うつが他のどんな病気よりも大きな地球規模の疾病
負荷になるという。 (引用終わり)
サラリーマン時代では確かに身近に抗うつ薬などを服用していたり休職中となっている社員もいましたが、
それでも10人に1人とかそんな割合ではなく桁が違っていましたし、
おそらく日本社会全体でもそれほど多くはないのかなという感覚です。
それなのに、幸福度ランキングで上位に位置するスウェーデン(著者の母国)で
8人に1人も抗うつ薬を服用しているというのは驚きの事実でした。
まぁ、精神科医療へのアクセスのしやすさとか、製薬会社の金儲け主義の裏返しかもしれませんが(汗)
著者自身も精神科医としてその点については疑問に思っていて、次のように続いています。
(以下引用)
こんなに快適に暮らせるようになったのに、私たちはなぜ気分が落ち込むのか――精
神科医になってから、ずーとそのことを考えてきた。本当に2億8400万人が脳に病
気を抱えているのだろうか。それとも8人に1人もの大人が間違って精神伝達物質を処
方されているのか? (引用終わり)
そして、著者はそれについて次のように考えていって、本書を著したということのようです。
(以下引用)
暮らしそのものそ良くなったのに、なぜ気分が落ち込むのか。私が思うにそれは、自
分たち人間も生物であること、そして何によって気分が良くなるのかを忘れてしまった
せいだ。だから本書では、脳の見地から情動と心の健康を考察し、脳がなぜあえてそん
なふうに機能するのかを解き明かしていく。 (引用終わり)
ということなので、基本的には本書は「軽いうつと不安についての本」ということですし、
「双極性障害や統合失調症に関しては触れない」とされていますし、
うつになったらどうするか、うつの人とどう接するか、など具体的なハウツー本でもないので、
もうリタイアしてなんのストレスもなくのほほんと生きているボクにはほぼ関係ない話でした。
とはいえ、ストレスに対して脳がどのように反応しているのか、
それは人類進化においてどのように機能して獲得してきた反応なのかなど興味深いものがありました。
なお、先ほど、ボクにはほぼ関係ない話などとのたまってしまいましたが、
唯一直接関係する厳しい話が載っていました。
(以下引用)
3人に1人以上がその状態になり、12人に1人は非常に深刻でタバコを1日1箱吸う
のに等しい危険にさらされる医学的状態、そういう状態が本当にある。それが孤独だ。
(引用終わり)
独り暮らしで日常的に会話することもほとんどないボクですから、孤独と言えば孤独です。
幸いタバコはいっさい吸いませんが、それと同じくらいの危険性があると言われるとグサッときます。
ただし、その孤独とはどんな状態なのか? については次のように書かれています。
(以下引用) 孤独というのは具体的には何だろうか。極めて無味乾燥な医
学用語で言うと「求めている社会的接触と実際のそれに、不安を感じるような差がある
こと」だ。(中略) つまり孤独感というのは主観的なもので、独りでいることとはまた
別なのだ。独りで過ごしていても他の人と親密さを感じていることもあるし、周りに大
勢人がいても独りぼっちのような気分になることもある。要するに、あなたが孤独だと
感じるならあなたは孤独なのだ。孤独だと感じないなら、あなたは孤独ではない。
(引用終わり)
なるほど、ボクは少なくとも孤独感で不安になったりはしてないので
その意味では孤独ではないと考えてもいいですかねぇ。
深層心理でどうなのかはボク自身もわかりかねますが……
また、本書はハウツー本ではないと書きましたが、それでもうつを防ぐ方法なども書いてあります。
もちろん、それについても脳のメカニズムや人類進化からの説明が加えられていますし、
ここでは細かく紹介はしませんが、なんと運動をせよ、ということです。
単なる気晴らしになるから運動せよという単純な話ではないので、
興味のある人は本書をじっくり読んでいただきたいと思います。
最後にストレスと対極にあると思われる「幸せ」について次のように書いてあり示唆に富みます。
(以下引用)
多くの人が「幸せ=精神的に元気」だと考えているだろう。常に楽しみ、満足を感じ
ている状態だと捉えているわけだが、研究においては「人生の方向性に対する満足度」
と定義される。つまり幸せというのは常に最高の気分でいることではなく、長期的に人
生に意義を感じていられるかどうかなのだ。その定義に賛同できて、幸せになるために
最大限の努力をしたいなら、一番重要なのは幸せを無視することだと私は思う。幸せな
んて気にしていてはいけない。そのほうが幸せになる可能性が高まる。
脳は何かが起きるのを待っているわけではなく、何が起きるのかを予測している。そ
れからその予測と実際に起きたことを照らし合わせる。 (引用終わり)
幸せになりたいと思う、幸せにならなければならないと思う、
だからこそ他人と幸せ比較を勝手にしてしまって幸せでないと思ったり逆にマウントしたりしてしまう。
そんなことより、「一番重要なのは幸せを無視すること」というのは名言でしょうね。
自分が好きな事だけして他人がどうとか気にしない(迷惑かけてはダメですが)のが一番ですな。
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