新書「22世紀の民主主義」を読了
まぁ、でも、あの事件直後は「民主主義への攻撃・脅威」みたいな論調が強くあって、
確かに法律の基での制度によらず武力・暴力によって何かを解決しようという容疑者の姿勢は
民主主義を攻撃していることであって許されざる行為なのは紛れもない事実ですが、
ただそれを言ったらほとんど全ての殺人・暴行などは民主主義への攻撃ですから
例え被害者が元首相でも現職議員でも、そして選挙演説の場であっとしても、
それをもって「民主主義への否定・脅威」との論調は、個人的には少し違和感を抱きましたけどね。
そして、それを機に露呈された旧統一教会がらみの様々な問題は
暴力とは別の意味での民主主義の脅威とも言えるようなものとも言えるのではないでしょうか。
まぁ、その問題の根幹に迫り、それをどうするか、という議論よりも
誰それがどうしたとかの表層的な報道合戦でしかないのは、なんだかなぁの気分ですけど。
その参院選当日のことですが、ボクはもちろん選挙に行ったのですが、
たまたまですが、そこに若そうな、というかまだ子どもみたいな男性が投票所から出てきて、
もうひとりひと足先に出てきていた人に向かって、
「あぁー全然わかんなかったから、〇〇党に入れたよ」なんて大声で話してました。
おそらく18歳になって初めての選挙だったのでしょう。
投票率の低下、特に若い人の選挙ばなれが著しい昨今で、若い人が選挙に行くのは大歓迎なことです。
でもね、たまたまn=1の話ではあるんですが、その〇〇党ってのが
明確に宗教団体が母体になっているとされる幾つかの政党のうちのひとつなんですよね。
その宗教団体はカルトと断罪するものではありませんが、その線引きは曖昧です。
そして、もちろん、その宗教の信者でなくてもその政党に一票を投じてもなんら問題ないのですが
全然わかんない人が票を入れるようなことはちょっと不思議に感じました。
選挙行くならそのくらいは最低限調べないのかな?
現代ならネットでちょっと調べれば分かるでしょうし、
分かった上でそこに投票するのなら、それは個人の自由意思なので、外野がどうこういう話ではないですが。
まぁ、そもそも赤の他人に聞かれるような状況で
自分が投票した政党や候補者をベラベラ喋ることも憚らないということからして不思議なんですけど……
それでも、意外とこんな感覚だけで適当に選挙で票を入れている人も多いのかなぁ。
と考えると確かに民主主義は劣化し機能不全に陥っているのかも、と考えざるを得ないです。
投票率の低下でますます特定の団体などの集票が相対的に力を持つことになり、
さらに投票に行った人でも無自覚であっても特定の団体に票を投じているのであれば、
国民全員の利益より特定団体の利益が優遇されるようなことになりかねませんし、
それはもはや民主主義、民意の反映ではなくなってしまいますから。
と、いうよなこともこの本では書かれていません(汗)
ただ、根っこではまったく無関係でもなく、根っこで繋がっている部分も多々あるでしょう。
特に、政治、宗教、暴力ということだけでなく、マイノリティや逆にSNSなど様々な要素が出てきます。
本書の冒頭「A.はじめに断言したいこと」では次のように書いてあります。
(以下引用) 政治だろう。どうすれば政治を変えられるのか? 選挙だろう。若者
が選挙に行って世代交代を促し、政治の目を未来へと差し向けさせよう。選挙のたび
にそんな話を聞く。
だが、断言する。若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない。
(引用終わり)
そもそも日本は少子高齢化で若者世代の人口が少ないんだから、
若者の多くが選挙に行ったところでマイナーなままで影響はしないという話です。
確かにそうだろうけど、個人的にはこの論理の高齢者重視の「シルバー民主主義」に疑問を持っていて
そんなに高齢者が高齢者だけ優遇されるような自己中の政治を求めて投票してるとは思えないのですが、
それでもこう言われると、若者の多くが選挙に行っても日本の政治は変わらないのでしょうね。
実際に著者はシルバー民主主義を打倒すべきとかはこの本では主張していませんし、
今の若者は実は高齢者などと同じような政治趣向を持っているとのデータから
若者の多くが選挙に行っても選挙結果は変わらないという予想もしていますし。
結局は、今までと同じような選挙制度、同じような民主主義のシステムでは劣化し詰むだけだ。
じゃぁどうしたらいいのか? それを考えようというのがこの本の主旨です。
では、どんな新しい民主主義が提案されているのか?
本書では、冒頭部分の「B.要約」で文字通り要約が書かれていますので主張は明確です。
最初に「要約」があるのは面白い構成なんですが、それについてこんな風に書いてあります。
(以下引用)
ほとんどの読者には馴染みがないだろうけれど、学術論文にはだいたい要約・要旨
(abstract)と呼ばれるものが付いてくる。「要は何を主張したり発見したり証明したり
した論文なのか」を短くまとめたもの、つまりアンチョコやカンニングペーパーである。
この要約が好きだ。忙しい読者はそこだけ読めば要はどんな話なのかざっくりわか
る。それをネタに飲み会やカフェでおしゃべりし、著者をディすることもできる。と
いうことで、この本にもはじめに要約を付けてみたい。 (引用終わり)
といわけで、この「要約」をさらに要約すれば、著者の主張をここに紹介することは可能です。
でも、それはネタバレでもあるわけで、当然ながらここには書きません。
そもそも、著者は次のようにも書いていますし。
(以下引用)
ということで、この要約をできれば二回読んでほしい。一回は今すぐ本体を読む前、
もう一回は本体を読んだ後だ。そうすることで、この本が何を主張しているのか、前
からそして後ろからより立体的につかんでいただけるはずだ。 (引用終わり)
当たり前のことだが、要点だけを聞きかじって分かったような気になるだけでは無意味なのです。
ただし、本書のサブタイトルに「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」とあるので
なんとなく想像ができてしまう人もいるかも知れないですけどね。
なので、少しだけ補足しておきますが、“アルゴリズム”=AIではありません。
機械学習され思考過程がブラックボックス化されたAIではなく
あくまでも論理過程がオープンに見えるようにされたアルゴリズムが選挙の代わりになるということです。
また、本書の本体では政治家はネコだけでなくゴキブリも出てきます。
全部書いてしまうのこれもネタバレになるので次の一文だけ紹介して終わりにしましょう。
(以下引用)
そうなれば政治家の好かれるキャラはネコで、嫌われるキャラはゴキブリか何か
に分解しておけばいいのではないか? 本気でそう考えている。 (引用終わり)
まぁ、内容そのものには突拍子もなく感じてしまう部分もなくはありませんが、
でもよくよく考えると何かそこにヒントとなるようなものがあるのではないかと感じます。
そのような意味でもとても面白く考えさせられる内容となっている一冊でした。
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