新書「生まれが9割の世界をどう生きるか」を読了
SB新書の「生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋」
安藤寿康(じゅこう)著を読みました。
本書の帯にも書いてあるように「親ガチャは残念ながら正しい」という内容の本です。
まぁ「親ガチャ」という言葉が流行ってますから、その言葉をキャッチーに使っているのでしょう。
ちなみに、ボクは「ガチャ」は好きではないのでやりませんし、
ガチャ的な販売手法の(中身が何か分からない)商品も基本的に手を出そうとは思いませんけどね。
なお、著者は心理学、遺伝学、教育学などの専門家ということで、ボクより少し年上の方です。
ボクももう還暦ですから、いまさら親ガチャと言われても「あぁそうですか」という感想しかないし
「どう生きるか」と問われても、どちらと言えば「どう死ぬか」の方が重要になってきてますが……
本書の「はじめに」では冒頭から次のように書かれています。
(以下引用)
2021年に「親ガチャ」が新語・流行語大賞のトップ10に入りました。親の良し悪し
で子どもの人生が決められてしまう。それはスマホゲームやカプセルトイのガチャ同然、
運次第で、自分の努力ではどうしようもない。これがいまの若者を取り巻く閉塞感を象徴
する言葉として流行し、注目されたようです。(中略)
世界は遺伝ガチャと環境ガチャでほとんどが説明できてしまう不平等なものですが、世
界の誰もがガチャのもとで不平等であるという意味で平等であり、遺伝子が生み出した脳
が、ガチャな環境に対して能動的に未来を描いていくことのできる臓器なのだとすれば、
その働きがもたらす内的感覚に気づくことによって、その不平等さを生かして、前向きに
生きることができるのではないでしょうか。 (引用終わり)
この本を読んで、前向きに生きられるかどうかは人によりけりかもしれませんし、
それももしかしたら生まれが9割の親ガチャによって決まっているのかもしれませんが、
ではその9割の根拠とはなんなのでしょうか。
本書では、簡単な問い、例えば「親ガチャに外れたら、負け組決定ですか?」とかに対して、
これまた簡潔な答えが書いてあり、それから詳しい説明が展開されるという構成となっています。
そこでは、遺伝の仕組みから始まり、双生児研究から統計的に遺伝率、共有環境、非共有環境の算出、
さらにDNA分析の結果など様々な科学的なデータを用いて説明されていきます。
ところが、実はそこを読んでも明確に「9割」の正体は読み取れません。
「生まれが9割」と絶望的ともいえる言葉が出てきているのに、先の問いに対しては、
「親による子育てや家庭の収入も、みなさんが思っていほど影響は大きくありません。」と
今度はなんだか救われるというか励まされるようなことも書いてあったりもします。
「9割」については、「おわりに」でやっとはっきりと次のように出てきます。
(以下引用)
前著『日本人の9割が知らない遺伝の真実』で行動遺伝学を紹介させていただいた時は、
(中略) その内容が本当に日本人の9割が知らないというエ
ビデンスなしにそんなタイトルにしたのは御愛嬌でしたが、今回の「生まれが9割」はそ
んなハッタリではありません。生まれとは遺伝と家庭環境(共有環境)の合わさったもの
ですが、知的能力や学力などは、その両方を足し合わせると8割から9割になります。そ
してそのいずれも本人にとってはガチャ、子ども自身の意志ではどうしようもない偶然で
す。 (引用終わり)
なので、生まれ=親ガチャでその人の人生の9割が決まってしまうということではありません。
もちろん、知的能力と学力によってその後の人生、年収などが統計的にはある程度決まることもあるが、
それが9割決まるというわけでもないし、それ以外の能力なども必ず生まれが9割とは言えません。
それに、遺伝でほぼ決まるといっても、親の遺伝子でほぼ決まるというわけでもないようです。
両親のそれぞれの遺伝子がこれまたごちゃまぜにガチャされて子どもの遺伝子となるわけで、
その時点で両親がどちらも(ある分野の特性で)優秀でも子どもがどうなるかは分からず、
ただ生まれた時点(受精卵の時点)で5割くらいはもう決まっているということのようです。
兄弟だって、それぞれ才能も性格も違っていて、得手不得手なこと様々ですからねぇ。
家庭環境についても、極端な環境、貧困、虐待などがなければ、
それほど大きな影響もないと書いてあります。
一方で、環境の中から何を選択して影響を受けていくかも、
実は遺伝で決まっているとも書いてあります。
ですから、子どもの頃から様々な習い事をしたからといって才能が大きく上がることはないし、
逆に子どもがやりたくないことを無理にやらせてもマイナス面しかないのだそうです。
このように、内容をよく読んでいくと、ボクみたいな年寄りになると、
まぁ当たり前になんとなく納得しているようなことが、
ある程度データに裏付けられて書いてあるという感じで、あまり絶望的な内容ではありませんでしたね。
それから、親ガチャとは直接関係ないですが、ちょいと面白いと思ったことを一つ紹介しておきましょう。
(以下引用)
それは「フリン効果」と呼ばれる現象です。
ニュージーランドのオタゴ大学のジェームズ・フリン教授は、1984年に発表した論
文で「IQは1年あたり0・3ポイント、10年ごとに3ポイント上昇している」ことを示
しました。(中略)
「IQが伸びるなんてあるはずない!」と思う人もいるでしょう。私も最初そう思いました。
そもそも、IQというのは平均を100とした相対的な値ですからね。そのスコアが伸
びていくのはおかしいと誰でも感じるはずです。(中略)
フリンの主張が正しいとすれば、今の知能テストを受けてIQが100だと判定された
人が、30年前の知能テストを受けたらIQが110くらいになる。IQのスコアで10も違
うと別人のように見えます。 (引用終わり)
どうやらフリン効果は実際に起こっているのだそうですが、その理由は分かっていないとのことです。
著者は遺伝的進化ではあり得ないので、日常的な思考(抽象的推論)によって脳が鍛えられ、
それによってIQが伸びるのではないかとのことです。
まぁ、ジジイのボクは今さらIQが伸びようが関係ないですけど、
若い世代の人たちの方が(平均的に)IQが高いということは心得ておいた方が良さそうですね。
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