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SGX→00Xの台車段階までは後悔・反省しかない

前回記事では、2000年の年末ごろから企画・構想がはじまった
スバルとGMの共同開発車である仮称SGXの操安乗り心地の目標性能について、
GMとのすり合わせに大変な労力を費やすことになって、テンテコ舞いだったことを書きました。

このSGXの当初企画の発売予定日はもう失念したし、史料も持ち合わせていませんが、
その後にスバルだけでB9トライベッカとして発表したのが2005年1月ですから、
結果的には企画段階から約4年の開発期間を経て発表・発売に至ったことになります。

この時代のスバルでは、通常の新型車は4年ほどの開発期間をかけていたので
SGXが特に短かったわけではないのですが、それまでに経験のない3列中型SUV、
新規(一部大幅改修)のプラットフォーム、新開発リアサスペンション、
アメリカ工場のみでの製造などの要件を鑑みると、かなりの短期間開発ということになります。

それまででは、新開発のサスペンションなどの場合には、サスペンション開発だけの先行台車を作り、
基本的性能や安全性を確認してからその車種の台車を作る手順を踏んでいたのですが、
SGXではその手順を踏む時間もなくて、いきなり台車製作へと進んでいくことになります。

なお、当初は当時のレガシィのマルチリンク・リアサスを流用する案もありましたが
3列乗車のSGXでは強度的に成立しないことが判明して、新開発リアサスとなりました。
個人的にも、あのマルチリンク・リアサスは根本的にダメダメなので流用しないで正解と考えましたが
それでも全く新しいリアサスを短期間で開発すのもかなりリスキーだなと痛し痒しでしたね。

 

そこで、とにかくシンプルに考えようということで
サスペンション部材を捩じったり曲げたりするようなマルチリンクではなく
幾何学的に成立する(すべてのサス・リンクの可動部をピロボールにしても動作できる)
普通のダブルウイッシュボーンにしましょうと提案したら、
設計からは、ならいっそのこと他車のダブルウイッシュボーンを完コピしようという話がでました。

その他車とは何?と聞いたら、トヨタ・アルテッツァにしようというのです。
アルテッツァがそんなにイイ車とも、そのリアサスが最高のモノとも考えてなかったけど、
設計にしたらトヨタ車だから品質・性能・コストなど平均的に80点はあるだろうって考えたのでしょう。

そんなわけで、アルテッツァのサス基礎特性(ジオメトリ変化などの特性)を台上試験機で計測し、
さらに3次元測定器(当時は接触型)で各ピポット位置を計測したりして、
あとはもうその通りに設計に作ってもらうことにして、台車に装着して、
最後にブッシュとバネ・ダンパーのチューニングでなんとかしのぐしか間に合わないとなったわけです。

もっとも、強度的にはアルテッツァのモノそのまんまでは成立しませんので
SGXの要件に応じて各部材の強度および剛性は設計し直しているのは当然のことですが……

 

そして、SGXの企画というか構想スタートから1年ほど経った後、
2002年初頭にやっとその新開発サスを搭載した台車が完成してきます。
その頃には既に仮称SGXではなく、00Xという正式な開発符号がついていますが、
たぶんまだGMとの共同開発車というスタンスは続いていた段階です。
00x_dsc00016 00x_dsc00015 
たまたま北海道出張中に撮影した画像が手元にあったので載せておきましょう。
台車というのはこのように既存の車、この場合はレガシィをベースに中身を改造した試験車です。

ルーフボックスが装着されているのは、何もこれからスキーやバカンスに行くわけではなく(笑)
そこにバラスト(重し)を載せて、重心高を合わせるためのものです。
これはボクが79V(初代フォレスター)を開発した時からやりだした手法です。

なお、重心高を合わせるためには基準となるというか目標となる重心高が定まってないとなりません。
でも、不思議なことにこの当時は操安乗り心地部署のボクが重心高の目標も提案してたんですよね。
重心高だけでなく、前後重量配分やヨー慣性モーメントなんかもボクが提案してました。

もちろん、あまりに適当に提案するわけにもいかないから、他車を調べて、
車両重量や全高、トレッドなどからしかるべき理屈を立てて、あるべき目標値を設定してね。

重心の位置なんて実験の一部署で目標提案するものじゃなくて、
諸元のひとつですから企画部門で決めて、開発に伴って管理していくもののはずなんですけど、
当時のスバルでは企画部門だけでなく全体としても質量管理しかしてなかったんですから(呆)

余談ですが、スバル360の開発の時の資料によると(社内資料はなく社外の本でですが)、
企画構想段階からちゃんと重心高の目標値は設定されていました。
航空機なら重心位置を決めておかないと設計検討も何も始まらないはずですから当然でしょう。
でも、少なくともボクが入社してからは重心高が出来なりとなってしまってたんですよね。

中島飛行機がルーツだとか言っていながら、そして水平対向で低重心とか言っていながら、
実際には重心高の目標設定もしてないし、その管理もしてないんですから、何をかいわんやですな。

 

それから、いくら目標性能のGMとのすり合わせやAWD関連業務でテンテコ舞いだったといっても
その重心高などの目標値設定だけでなく、新開発サスに対する基本的な要望も少しは検討はしてました。
特に、レガシィ用マルチリンクの最大の欠点であった、リバウンドストローク不足については、
当時の設計者がリバウンドストロークなんてほとんどなくてもいいという間違った認識だったので
シミュレーションをかなりして、リバウンドストロークの重要性を説得してたりもしてました。

そうそう、こういうシミュレーションも実験が主体となってやるしか無かったんですよね。
衝突安全性などのシミュレーションでは専門部隊で設計も実験も携わってシミュレーションするんですが
操安性とかになると設計部門(機構設計課)はほとんど性能予測には関わらずに
実験だけで簡単なシミュレーションツールを使ってやるという形でしたね。

というか、操安性の実験でも、ボクのようにシミュレーションとかやってた人はごく少数に限られて、
課長以下大半の人はそんなもんは実際にやってみなきゃ分からんし、
実物(試験車)を造ってから試験すりゃいいんだよって態度の人が大半でしたから。。。

サスペンション部材を曲げたり捩じったりして使うマルチリンクサスの設計ができないくらいですから
当然ながら有限要素法などを用いたサス部材の変形シミュレーションもできてなく
だから非線形領域などでの高度で精度の良いシミュレーションもできるわけはなく、
そもそも設計部署もそんなのやる気にもなってないので、
ともかく他車のものまねしたサスペンションで台車作ってから考えようってな感じだったんですよね。

で、冬期試験・雪上試験は時期が限られているから、ともかくそれめがけて台車を急造したわけです。
それで、なんとか初期の性能確認、雪上試験もいちおう終えて、
まぁ大きな問題はないだろうというところでした。
少なくともレガシィのマルチリンクよりはまともなサスになったかなという感触は得ました。

ただ、この時の雪上試験などでもAWD関連の試験も目白押しとなっていたので
00Xについてもあまり深堀りすることが出来なかったというか、結果的におざなりになってました。
とはいえ、耐転覆特性など走行安全性に直結する重要項目などはこの時期に目途付けしてましたけど。

で、そうこうしているうちに、ボクは00X開発からはお役御免ということになります。
その辺の経緯はよく覚えていないというか、上司からはっきり伝えられてないのですが、
まぁ初期検討段階は終わったからなのか、他の担当(係)が新設されたからなのか、
それともGMとの共同開発解消でスバル単独の開発になったのがその頃だったのかな……

 

で、タイトルのように何が後悔・反省なのかというとですね、
アルテッツァのリアサスを完コピしたとひと安心していた新開発リアサスですが、
実は完コピではなくてあっちこっち設計が勝手に弄り回していたことが後で発覚したんですよね。

それを図面段階でも台車段階でも見抜くことができずに指摘できなかったのが後悔・反省なのでした。
特に問題となったのは、操安乗り心地にも関係はあるのですが、それより耐久性の面で、
ロシアやチャイナ市場など路面の悪い地域で頻発したのが、ダンパーのトップエンドの折損でした。

00x_dsc00014 ※向かって右側が車両前方の画像です。
このダブルウイッシュボーンのサスではトレーリングリンクを水平から角度を付けて取付けてるので
バンプする時に赤矢印ように後退しながら上にバンプします。
そうすることによって突起などに対して力を逃がして乗り心地を良くすることが狙いのひとつですが
この時にバネ・ダンパーユニットは緑矢印の方向に、黄色線から橙色線のように傾きます。
すると、トップマウントがある赤丸の位置ではダンパーのトップエンドを抉るような動きになり
そこに大きな力がかかってしまい、一発破壊や疲労破壊でそこが折損しちゃうわけです。

破損するかどうかは操安の実験責任の範疇ではありませんが、
それでも開発中にそれに気が付かなかったのは情けないことですし
無理な力がかかるということはダンパーをはじめサスペンションがスムーズに動かないことですから
操安性にも乗り心地にも悪い影響が及んでいることは間違いないことです。

完コビするはずなのに完コピしなかった設計にも文句はいいたかったですが、
先行開発の重要性、シミュレーション活用の重要性、そして台車段階で基本的開発を終えることなど
普段からそうあるべきだと自分で言っていたのに、それがことごとく実践できてなかったわけで、
やはり新規サスペンションの開発などは車種開発よりも前に先行開発として進めておく必要があり、
また各種のシミュレーション技術も高めておく必要があると痛感した次第なのです。

まぁ、それでもレガシィのマルチリンクサスに比べればそこそこ素性は良くなったと考えてますが
別にボクが頑張ったからそうなったわけでもなく、完コピまでせずとも真似したからの結果ですね(汗)

 

さて、この辺りの反省については、いちおうその後の様々な先行開発などで活かそうとしたのですが、
まぁそれでも完全に解消するほどには至らず、どれも不完全燃焼みたいな感じでしたね。
次回はそれも含めて、NR1という途中でお蔵入りとなった車種(?)の話をしましょうか。

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コメント

https://a15ff11300g.sakura.ne.jp/catalogue/exiga/exiga.html
これでいうと3代目インプレッサ以降でしょうか。

投稿: j | 2022-12-31 16:42

>jさん

初めまして(ですよね)

この記事での00Xのリアサスは3代目インプレッサ以降のと形式的には同じと分類されるでしょうけど、
中身はまったく別物です。
3代目インプレッサ以降のリアサスについては以下の記事を参考にしていただければと思います。

https://jet-stream.air-nifty.com/jetrc/2022/12/post-990e7e.html

投稿: JET | 2022-12-31 18:26

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