プロドライブのATDというAWDシステムを評価した
このスバルカテゴリーでは、最近は、21世紀初頭のスバルのAWD関連開発について書いていますが、
新ACT-4制御、そしてボツになった新型VTDと書いてきましたので、
今回はハイパースポーツ用というかまぁインプレッサWRX狙いのAWDの先行開発のひとつとして
プロドライブ社から提案されたATDというAWDシステムについての話を書きましょう。
なお、プロドライブ社とはまぁ業界人やスバル好きの人なら誰でも知っているであろう
スバルが本格的にWRC(世界ラリー選手権)に参戦していた頃のパートナーであった
というよりラリー参戦の主導権を握っていて
プロドライブがなかったらスバルのWRC本格参戦・チャンピオン獲得は絶対になかったであろうという
イギリス本拠地のモータースポーツ・コンストラクターおよび参戦チームですね。
ただ、モータースポーツだけでなく、アフターパーツなどの開発・販売もしていますし、
それだけでなく自動車メーカーに売り込むような技術開発などもしている企業です。
今回、記事にするATDだけでなくAMT(自動変速MT)などもスバルに提案してきていました。
内部の組織的にもモータースポーツ部門とそれらの技術開発部門とは
かなり線引きされて別々の組織として存在しているという印象でした。
もちろん、それらの中からモータースポーツに応用できたり
逆にモータースポーツの技術からのフィードバックなどもあったのでしょうけど。
そして、そのATDとは、Active Torque Dynamics の略だそうですが、これじゃ意味不明ですよね。
簡単に言っちゃうと、前後のデフのファイナルギヤ比をワザと変えて、リヤ側をハイギヤ比にして、
それをセンターの電子制御油圧クラッチで制御しようという代物です。
さらに、ATDではリアLSDも電子制御していましたが、まぁここは目玉技術ではないです。
リヤ側がハイギヤなのでリアトルクが僅かに低くなるのはどうでもよいことで、
前輪より後輪を増速しているのでセンターのクラッチを繋ぐと後輪トルクが高まるから
アクティブにトルクを制御して車両運動(ダイナミクス)を改善しようという意味ですかね。
ただ、直結4WDは50:50じゃないのと同様に、後輪トルクが高くなるのは結果論であって、
それよりも後輪を増速して前後回転差を制御しようという考え方だと理解すべきです。
つまり、車両を限界走行させて、特にドリフトコントロールなどをしようという場合には
後輪の空転の方が前輪よりも常に多くなり、パワースライドのコントロールがしやすくなるわけで、
その点では、このATDの後輪増速は工学的にはまっとうな技術と言えるのだと思います。
あくまでも、そういう走りをする場合はという感じですけどね。
だから、こんな発想は結構昔からあって、確か1980年代のラジコンカーなどでも存在したし、
実際にボクは1990年代ころにはそんなラジコンカーを使って、
後輪増速量をあれこれ変えて走りがどう変わるかなんて試してみて、遊んでましたからねぇ。
もっとも、ラジコンなので電子制御などの高度なことはやってませんけど、
でもドリフトコントロールに入っちゃえばどのみち直結状態なので電子制御もなにもないですから。
なお、ATDでリアLSDも制御しているのは、
ドリフトコントロールするのに後・内輪が空転してはダメなのでそれを抑制するためと、
あとはグリップ領域で左右回転数を強制的に同一にして旋回しにくい、つまり安定性を上げるためです。
この時から10年後くらいになると、こんなことするよりVDC(ブレーキ制御デバイス)でやった方が
はるかに精度よく、滑らかで、効果的なことが可能になるんですが……
まぁ、でもいくら電子制御で高度で緻密に制御できたとしても、原理的には無理がある技術です。
ドリフトコントロール以外の場面では、前後回転差を半クラッチで制御し続けなければならないからね。
というわけで、これは量産車としてはモノにならないだろうから個人的には乗り気ではなかったものの、
WRCでお世話になっているプロドライブからの提案なので、スバルとして無下にするわけにもいかず、
まずはイギリス・プロドライブ社まで出張して、プロドライブが独自試作した試験車に試乗してきました。
それに、単に試乗だけでなく、キャリブレーション(制御定数の設定)なんかもやりましたけどね。
プロドライブ社の建物や施設など内部の写真はありませんでしたので、どこかのお城の写真です(笑)
たぶん、ホテルの近くを夕方に散策しただけですね。
この出張では、シャシー設計部のM氏(AWD-CoE在籍時のボクの直属の上司)と
現地集合みたいな形で(スウェーデン出張も一緒だった)ドイツ駐在のS氏との3人で
2004年8月に、イギリス・オックスフォード州のプロドライブ社を訪れています。
いちおう、お約束で、ラリー部門のマシン製作ファクトリーなども見学させてもらいましたし、
近隣に新設したF1関連のファクトリーや研究施設などもこっそり見学させてもらいましたね。
こっそりなのかどうかよく分かっていませんが、ホンダがやってるのにスバルが勝手に入れるの?
って感じですが、まぁそもそもスバルはF1やってないし、相手にもされてないですけどね(汗)
とはいえ、さすがに写真撮影は厳禁でしたから画像などは残っていませんし、
これまた上述のように個人的にも量産化に繋がるとは思っていなかったので
評価結果などもちゃんとした記録にも残してなかったのでもう曖昧な記憶しかありませんけどね。
ただし、このプロドライブ社で作られた試験車は、その後、日本まで輸送されてきて、
SKCでも何人かの方にも評価をしてもらいました。
まぁ、当初の予想通りで、競技マシンなら可能性はあって面白いとも思えましたが、
とても量産化になる代物ではなく、それで終了と相成りました。チャンチャン(笑)
次回は同じくハイパースポーツ向けAWDの先行開発として携わった、
左右トルクベクタリングであるTVD(旧称・YMG)について書きましょうかね。
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