GM共同開発車SGX→00X=トライベッカの初期開発
2000年2月にレガシィ系の操安乗り心地・実験部署から突如、
新設のAWD-CoEという部署に異動になったけど、数ヵ月で分解・崩壊し、
その後2000年10月頃からボクは歓迎されてない操安乗り心地・実験部署に出戻りとなり
同時にSKC勤務となって、AWD関連の基礎研究・先行開発を行なうことになったわけです。
まぁ、AWD関連をやりはじめたと言っても、建前上は操安乗り心地に関する実験評価だけですが、
何故か実験評価全体のまとめ役みたいなこともやっていたのも事実です。
一方で、AWD関連でない仕事もどんどんと舞い込んできて、仕事の内容は多岐に渡っていきます。
その辺のことは、大雑把にはこのSKC勤務中に何をしたのか、その(2)、その(3)で書いてます。
そして、前回までの記事でこの時期のAWD関連の仕事の話はだいたい書き尽くしたので、
今回はタイトルにも書いたようにSGX、その後00Xという開発符号が付いて
最終的には、スバルB9トライベッカとして発売された(日本では未発売)車種の
最初の段階に携わっていた話を書いてみようと思います。
まず、スバルとGMの混合=クロスオーバーなのか両者の掛け算なのか分かりませんが
まぁそんなような意味合いで仮称でつけられた開発符号がSGXです。
簡単に言えば、スバルとGMの共同開発車ですね。
実際には共同開発車というより、スバルとGMで共同で企画して、開発のメインはスバルで、
製造もスバルのアメリカの現地工場で行ない、それぞれのブランドで販売するって形です。
そういう意味では、トヨタとの共同開発のBRZ,86と似ていて、さきがけとも言えますかね。
GMからの企画提案はずばりポンティアックAZTEK(アズテック)の後継車です。
アズテックはここでも何度か書いてますが、「史上最も醜い車」1位の車なのですが、
当時は発売直後なのでまだそこまでの云われようでもなく
(でも、ボクはひと目でこりゃ酷くブサイクだなと思いましたが)、
それに2代目となる後継車を作るのだから、ブサイクなのは別にどうでもいい話ではあるわけですが……
ただ、アズテックはジェネレーションY(’60中~’70生まれ世代)がターゲットで
2代目となるとさらに下の世代であるジェネレーションX辺りの比較的若い世代向けですから
当時も今でもシニア層が多いスバルのターゲット層とはかなり断絶があります。
カニバリしないという点では良い面もありますけど、違いすぎてはまとまりません。
そもそも、GM内でのポンティアックというブランドは、少しスポーティではあるものの安価で、
それによって比較的若年層向けのブランドという位置づけでしたから、
スバルのターゲット層とは違っていたんですけど、GMから見たら年齢層はともかく、
ちょっとスポーティで安価という点で似たブランド同士だと見られていたのかも知れないですね。
なのに、スバルでは北米ディーラーのSOAからはファミリー層向け3列シートSUVが提案され、
つまりトヨタ・クルーガー(日本向けハイランダー、途中から3列追加)や
ホンダ・パイロットなどと同様な車種が欲しいという要望が出ていて、
(それはずいぶん後になって、日本未発売ですが、スバル・アセントで結実したわけですが)
その辺のいいとこどりみたいな感じで企画がスタートしていったんでしょう。
その後、00Xという開発符号が付きますが、スバルは「プレミアムブランドを目指す」と言い出して、
アウディやBMWみたいになりたい、GM内ならキャデラックやサーブと同格だみたいに言い出して、
実際にはレクサスRXやアキュラMDX辺りを仮想競合車と想定していたんでしょうけど、
ただ、SOAから要望が強い3列シートは止めるわけにもいかず(確かGM側は2列シートだけ)
企画もデザインもパッケージングもなんだかわけがわからなくなっていきます。
それとともに、GMを呆れさせてしまい、このSGXの企画はお流れになってしまいます。
まぁGMからしたら初代アズテックが失敗と判明したので、その後継車も要らないとの判断でしょう。
結局、スバル単独で00Xとして開発を仕切り直して、B9トライベッカとして世に出します。
ボク自身は、初代アズテックのAWDシステムの評価などに携わりましたが、
その流れなのか、単にGM関連は全部押し付けられたのか分かりませんが、
このSGXにも企画段階から携わることになりました。
2000年の年末か2001年の年初ごろから、このSGXの仕事をしはじめてますね。
ただし、00Xとして台車(レガシィを切った貼ったして作った試作車)が出来て、
初期評価などをしたぐらいの2002年春ごろまでしか携わってなかったので、
実質的には2年ちょっとしか関与してなかったことになりますし、
量産化に向けた本格的な開発にはほぼノータッチということになります。
まっ、この00Xは日本では販売されなかったし(一部の人が輸入してましたが)
お世辞にも成功作とは言えませんでしたので、このブログ読者でも興味のある人は少ないでしょう。
なので、あまりこと細かく書くことはよして、以降、さらっと行きましょうかね。
と言いつつ、いつも大抵は長々となってしまうんですが(汗)
企画段階では、試作車とかもないので実験部門は暇だと思われがちですが
ずいぶん前のこの記事で書いたようにスバルでは各実験部門が目標性能を設定します。
正確には、各実験部門が提案して、実験総括部がまとめて、
最終的には実験総括部長と商品企画本部の各車のPGM(プロジェクトゼネラルマネージャー)の
両者の承認を得て、目標性能が決定・発行されます。
といっても、実質的に細かな部分はほぼ各実験部署の担当員が目標性能を設定しています。
ですから、このSGX→00Xの操安乗り心地の目標性能もボクが設定することになります。
その時にボクが書いた目標性能案の報告書の控えが手元にあり、
それに面白いことが書いてありましたので、紹介してみましょう。
まずは、SGXのSKS(商品企画室)の狙いを要約しておさらいしている部分です。
・SGXはレガシィGTの走り,SUVの走破性,+2席を装備する室内の多用途性を兼ね備え
た次世代XUV(Cross Utility Vehicle).走りのベンチマークはBMW X5.
・操安性&危険回避性能:5点=$3万のSUVクラストップ,乗心地:$3万のSUV平均を狙う.
・なお,GMでもスポーツセダン(PONTIAC GrandPRIX)のハンドリングと様々なライフスタイル
に適合する多様性と組み合わせたSRV(Sport Recreation Vehicle)と位置付けている.
今読んでも、テンデバラバラの商品企画な車ですね(笑)
なので、ボクは「所見」で次のように皮肉を込めて書いてました。
AZTEK,レガシィ,X5は価格のみならず走りの方向性も大きく異なり,ましてやスポーツ
セダンを持ち出すとまさしく異種格闘技みたいな様相になってしまう.ここではそれらイメージを
抱きつつも極力現実的な線で2005年・$3万SUV(XUV)を想定してクラストップの操安,
クラス並の乗心地となよう目標性能を作成した。
個人的にはクラス並みの乗り心地で良いとは全然思っていませんでしたけど、
商品企画室から“並”でいいというのですし、それが当時の「走りのスバル」の認識だったから、
それに抗うわけにはいかなかったというところです。サラリーマンですから。
ただし、これはGMとの共同開発車としてスタートしているわけですから
GM側の目標性能と整合していなくてはなりません。
スバルとしてはそれまでに他社との共同開発の経験は皆無でしたし、
当然ながらボクもそんな経験はないわけですから、その両者の整合には相当に苦労させられました。
というわけで、ちょっと長々となってきてしまいましたので、この辺でひと区切りとして、
次回はそのスバルとGMのお互いの目標性能のすり合わせの話を書きたいと思います。
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