新書「未完の敗戦」を読了
集英社新書の「未完の敗戦」 山崎雅弘著を読みました。
本書の「まえがき」では次のように書かれています。
(以下引用)
一人一人の市民の暮らしを豊かにすることや、暮らしの安全を確保することが、なぜか社会
の優先順位で第一位にならない。
それよりも、国や企業などの集団の都合や利益が優先される。
個人の自由や幸福よりも、集団全体の秩序や平穏に保つことの方が優先される。
そして個々の人間の価値は、自然な形でありのままに存在するものとは認められず、上位者
や集団全体への奉仕と貢献の度合いによって評価され、各人は必要とあらば、集団のために自
分の生活の豊かさや幸福をあきらめることを求められる。
その構図は、先の戦争の日本社会、すなわち「大日本帝国」時代とそっくりです。(引用終わり)
まぁ、独裁国家や共産主義というか全体主義の国家であればもっと酷いところはいくらでもあり
それらに比べれば日本はまだマシともいうことができるかもしれませんが、
民主主義国家を掲げていて、「人命は地球より重い」(福田赳夫元首相)が今も否定されてない国なのに
それは建前に過ぎず、政治体制だけのことではなく、
個人が集団の犠牲になることを強いられ、それが美徳とされるような社会であるのは事実でしょう。
まっ、それが「大日本帝国」時代とそっくりなのかどうかはボクはなんとも言えませんが……
かくいう著者もボクより若いバリバリの(?)戦後世代なのでよく知らないはずなんですが、
著者は戦史・紛争史研究家という謎の肩書を持つので、よく研究・勉強されているのでしょう。
そして、「まえがき」ではさらに次のように続いていきます。
(以下引用)
現に、戦後の日本では今に至るまでずっと、「大日本帝国型の精神文化」を色濃く持つ政治
家や政治団体、言論人が「保守派」と呼ばれます。「保守派」とは、その国の「本来あるべき
姿」を守ろうという考えを持つ人々を指す言葉ですが、「大日本帝国型の精神文化」を継承す
る人々が「保守派」と呼ばれ、そのことに疑問を抱く人が少ないなら、それは社会全体が暗黙
のうちに「大日本帝国型の精神文化」を継承している証となります。
そうした事実にきづくことが、それを克服する第一歩となるはずです。(中略)
したがって、もし日本を「本物の民主主義国」として成熟させたいと願うなら、日本国内に
残る「大日本帝国型の精神文化」を一つずつ消し去る作業が必要になります。
このように、本書は現代の日本社会に存在するさまざまな社会問題について、「大日本帝国
型の精神文化」によって生じる弊害という観点から検証する試みです。
大きな「全体」のために奉仕や犠牲を強いられることなく、一人一人の人間が大事にされる
社会を創るために、本書の論考がお役に立てれば幸いです。 (引用終わり)
日本での「保守派」って言葉遣いはおかしいなと思っていたことがズバリかいてありますな。
ただ、その保守派ってな政治家や政治団体についてはほとんど具体的に言及してませんし
どうして彼らが「大日本帝国型の精神文化」を継承、もしくはそこに回帰したいのか、
その意図というかそれにより彼らにどんなメリットがあるのかなど
その真相・深層まではこの本では追求されていませんので、
なんとなく歯切れの悪さというか煮え切れないという印象をもってしまったのも事実です。
そして、本文中の内容はあまり詳しくは紹介しませんが
その「保守派」と呼ばれるような人たちについて次のように書いていることは少々笑えます。
(以下引用)
現在の日本国は、日本国憲法の理念に基づく民主的な国であり、そこでの「愛国者」は当然
「日本国憲法を擁護し、大日本帝国を否定する考え」を持つ人間のはずです。
なのに、どういうわけか戦後の日本では相も変わらず、大日本帝国型の「愛国」思想を抱き、
一九四五年の敗戦で滅びたはずの大日本帝国を擁護する人たちが「愛国」という錦の御旗を独
占的に振り続けています。ネットのSNSでは、そんな人々はアイコンやハンドルネームに日
の丸や旭日旗をあしらい、プロフィールの文には「日本が大好きな普通の日本人です」などと
書いていたりします。 (引用終わり)
あはは、そういうわけですか。
自分が生まれ育った国に愛着を持つのは家族を愛するのと同様に人間として自然な気持ちですけど
それをことさら「愛国者」だと名乗るような人は要注意ですね。
って言われなくても薄々そう感じてましたけど(笑)
さて、どうやってこの「大日本帝国型の精神文化」とおさらばするかについては難しいわけですが
著者はそのひとつに「批判的思考」を持つこと、
それを教育の場で身に着けることの大切さを訴えています。
(以下引用)
批判的思考は、英語では「クリティカル・シンキング」と呼ばれますが、単に物事のあら探
しをするような考え方ではなく、物事を道理立てて考えることや、問題の解決における前提条
件を疑うこと、状況を客観的に俯瞰して分析すること、自らが気づかないうちに陥っている思
い込みを自覚することなどを指します。 (引用終わり)
そうなんですよね。ボクも自虐的に自分のことを天邪鬼だとかひねくれ者だとか書いてますけど
何でも他人のことを否定したり、あら探しするようなことではなく、
ここに書いてあるような批判的思考=クリティカル・シンキングをしようとしていただけなんですよね。
とはいっても、この最後の「思い込みを自覚」するのはなかなか難しいことではありますけど……(汗)
その他にも、東京オリンピック強行開催についてや戦時中の特攻についての考え方など
さらには靖国神社とは何かとか、なぜ楠木正成が戦前・戦中そして現代の自衛隊でも出てくるのかなど
そういうことだったのねと色々合点がいくことも多くて面白い内容の一冊でした。
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