AWDの先行開発でもブリヂストンに嫌われた?
21世紀初頭のスバルにおいて、新型VTDと呼ばれたMT用AWDの新システムがボツになったことを
前回記事までに、途中愚痴の記事も交えながらも書いてきましたが、
そこで、ブリヂストンタイヤとの諍いの件をぶり返して書いてしまいましたので
今回はちょいとこぼれ話みたいな感じで、当時のブリヂストンとの他愛もないことを書いてみます。
2000年から2005年くらいまでの間、ボクは操安乗り心地の実験部署に在籍していたのですが、
その間は基本的にAWDを初めとした先行開発やまだ構想段階の新型車の検討が主な業務で、
新型車(量産車)の開発には直接携わっていなかったので、タイヤ開発もノータッチ状態でした。
なので、好き嫌いに関係なくタイヤメーカーと共同試験をしたり打ち合わせをしたりといったことは
本当ならまったくないはずだったんですが、意外や意外と何故かブリヂストンとだけは接点がありました。
それも、ボクの方からコンタクトを取って、スバルからお願いする形のものもありました。
初代フォレスター、2代目インプレッサ(の途中まで)のタイヤ開発であれだけ揉めた
ブリヂストンに対して、平気な顔してこちらからお願いするわけですから厚顔無恥ですかね。
ただ、タイヤ開発で揉めたといっても、ボクとしてはあくまでも技術的なことで揉めただけですから
仕事は仕事であって、そこに感情を持ち込むべきではないと割り切って考えてました。
まっ、感情は感情で、今でもブリヂストンに良い感情は抱いていないのも事実ですけどね(笑)
さてさて、嫌われているのにその時ボクは何をブリヂストンにお願いしたのかというと、
北海道士別にあるブリヂストン北海道プルービンググラウンドの使用をお願いしたわけです。
名称が長いのでBS士別PGとでも略しますが、そこは1996年開設ということになってます。
でも、確か開設当初はさほど設備は整っていなくて、スバルの美深試験場と似たレベルでしたが、
2000年頃にはかなり本格的に整備されて、スタッドレスタイヤ等の試験が実施されてました。
一般的に新車開発などにおける純正タイヤの雪氷上試験(チェーン装着時含む)は
自動車メーカー側だけで自動車メーカーのテストコースで実施されるので、
(というか、純正タイヤの雪氷上試験もしない自動車メーカーもあるそうですが)
自動車メーカーの技術者がそこのBS士別PGに行って試験をすることはないのですが、
設備が整っているそのBS士別PGでAWDの評価試験ができないかということで打診したのです。
なんせ、スバルの美深試験場なんて、まともな雪上スキッドパッドも雪上登坂路もなくて、
ただ広場(しかも僅かな傾斜地)の圧雪を重機で均しただけの場所をスキッドパットと呼んでたり、
傾斜角度も一定でなく管理もされていない単なる通路の一部の坂道を登坂路と呼んでいただけです。
ましてや、氷上スキッドパッドとか氷上登坂路なんて、それに近いものも皆無ですし、
それを設置して管理する能力もまったくない状況でしたから。(今も大差ないかも)
って似たようなことをこの記事でぼやいていましたし、
その時もちょろっとBS士別PGの話もしてましたね。
逆に言えば、2000年ころのBS士別PGにはそれらは既にちゃんとあったわけで、
だからこそ使わせて欲しいとお願いをしたわけです。
それに、BS士別PGは士別といってもかなり北寄りのところにあって、
スバルの美深試験場は山奥にあるものの、それでも車で1時間ちょいで行けるのも好都合でした。
それにしても、このときのミシガン出張の記事でも書きましたけど
「AWDのスバル」とか「AWD-CoE」なんて威張っていながら
これらのAWD氷雪上試験設備もまともに持っていないってどういうことよって感じですな。
もっとも、それは氷雪上試験設備に限ったことではなく、
SKCでのAWD関連評価設備もまことにお粗末な状態だったし、
今はその頃より少しはマシかもしれませんが、おそらく似たようなものでしょう。
これらの設備が整ってないってのは、経営陣がケチということもありますけど、
AWDについて体系だった評価をしていない、その必要性が分かってないということでもあります。
ボクはそれじゃイカンと思ってあれこれやったものの、力及ばずでしたというわけですな。
まぁ、体系だった評価はせずとも泥臭く評価していたのは事実ですし
それがスバルらしいと言えば確かにそうとも言えますけどね。
両方やるのが理想的なんですけどねぇ。
で、BS士別PGを借りたのは2002年2月某日、1日だけです。
もちろん、BSとしてはスタッドレスタイヤなどの開発に追われている最中ですから
貸し切りでもなんでもなく、それらの中に混じって使わせてもらうというやり方です。
自動車メーカーの試験場と違って発売前の機密車で試験しているわけでもないので
ちょいと試験風景を撮影していましたので、ここに載せておきましょう。
ちゃんと路面勾配、路面の雪質などが管理された何本もの登坂路が設置されています。
右の写真は、電制カップリングAWDに改造したオペル・ザフィーラAWDですね。
素晴らしいAWDに仕上がったのにオペルからもスバルからも世に出ませんでしたけど。
で、評価試験自体にはBSは関与してませんので、当然ながら技術的な揉め事はありませんでした。
が、しかし、、、
たぶん、相当に嫌われました。
どうしてかというと、評価路面を使い過ぎて、氷雪上路面を荒らしてしまったからですorz
試験走行する人を評価実験部員の2,3名に限定して試験すれば良かったのですが、
せっかくの機会だからと、設計などAWDに関係している全員に運転させちゃったら
サル状態(サルにオナニー覚えさせる……の喩え、実際は死ぬまでしないそうですが)になって
何回でもいつまでも色んな試験車で走りまくってしまい、収拾がつかなくなっちゃったんですね。
ボクの部下の若手も連れて行っていて運転させたのもあるんだけど、
それ以上に設計部門(三鷹にあるAWD-CoE部署の若手)含めて何人もいたので
彼らに対してはボクは上司でもなんでもないから直接命令する権限もなく
(作業安全上の問題なら厳しく指導・命令しますけど)
でもサル状態で周りが見えなくなってしまってるから、どうしようもなかったです。
BS側で対応してくれていた方の顔はもう強張っていたし、そうでなくても
こっちもプロですから路面を見たり走ってみれば、
路面が荒れて評価試験としては使い物にならなくなってきていることくらい判断できますからね。
最終的には、半ば強制終了にして、BSには平謝りして帰ることになりましたよ。
ボクからBSにコンタクトして貸してもらったのだから、まぁボクの責任ということでしょう。
そうそう、ブリヂストンとは関係ありませんが、この2002年の冬季試験では小樽にも行きました。
それまでも、その後も、北海道の長期出張中の土日には観光で札幌や小樽などには行ってましたが、
港沿いの運河を見て、ガラス工芸店やオルゴール店を覘いて、海の幸の旨いもん食って……でした。
ですが、この2002年には走行試験および実態調査目的で小樽に一泊の出張をしていたんです。
どうして、小樽まで出張したかというと、小樽には街中でも結構坂道が多くて、積雪・凍結により
AWDでも走行困難になることもあるほどの道路環境だよとの情報があったからです。
情報があったからという程度ですから、スバルの関係者は誰もそれを把握してなかったんですが。
おそらく、それまでスバルの技術部隊は誰も冬季の小樽の実状を認識してなかったようです。
で、夕方近くに小樽入りして、先ずはホテルにチェックイン。
そしたら、フロントの人が「ニッサンの方ですか? あっマツダですか?」とか訊いてきます。
聞けば、近くにに有名な長い急坂道があって、冬季は積雪・凍結で登るのが困難なほどで、
自動車メーカーやタイヤメーカーの人がよく来てそこで試験をしていくとのことです。
「へぇーそうなん!」って思わず群馬弁で聞き返してしまうほどでしたよ。
そんな話はスバルの諸先輩方の誰からもまったく聞いた事なかったですからね。
他のメーカーが知っていて来ているのに、「AWDのスバル」が無知とは。情けないですねぇ。
ということで、恥を忍んでそのフロントの方に有名な坂道の場所を教えてもらって行ってみました。
残念ながらその時はもう除雪されて雪が融けてしまってましたが、路面勾配など計測してきました。
もちろん、当初の予定の街中での路地裏の坂道なども調査して、試験走行もしてきましたけどね。
ブリヂストンとの話に戻すと、2003年にもプルービンググラウンドを借用させてもらってます。
これは北海道士別ではなく栃木県黒磯市(現・那須塩原市)にあるBS黒磯PGです。
目的は、スバルAWDの特徴(優位性)をアピールするためのビデオ撮影のためです。
これはBS黒磯PGだけでなく成田モーターランドやGKNドライブジャパン(旧・栃木富士)など
いろいろとサーベイしたなかのひとつでしたが、BS黒磯PGには
低μのWETハンドリング路などが設備されていたので、その使用が主目的でした。
逆に言えば、スバルのSKCには残念ながらそういう設備はなかったということなんですけどね。
何故かSKCのハンドリング路はサーキット並みのハイグリップ舗装で造ってしまっていて
後に部分的に散水施設を設置したり、路面研磨などをしてみたものの、グリップ高過ぎのままでした。
で、このBS黒磯PGの借用では、ボクが窓口に立ったわけでもないですし、
参加メンバーも良識ある人ばかりでしたから(笑)、何も問題なく嫌われずに終わりました(爆)
ただ、この時にいろいろ撮影した映像などはほとんど世に出なかったし、どこに行っちゃったのかな?
また、2004年にはブリヂストンからエアサスペンションのプレゼンを受けて、
BS黒磯PGでそのエアサスを装備した試験車=2代目インプレッサWRXに試乗させてもらってます。
ブリヂストンがサスペンション製造ってなんだか妙に感じましたが
アメリカで開発して既にアメリカのアフターマーケットでキット販売されていたモノだそうで
おそらく実際の製造は関連会社に丸投げしてたんじゃないかと思われましたね。
まっ、たぶんブリヂストン側からオファーがあったのだと思いますが
特にその後の進展もなく、だからといって嫌われたとかもなかったはずです。
最後に、2005年には東京都小平市にある技術センターに出張しています。
何の目的で出張したのか忘却の彼方なのですが、帰り際に
ブリヂストンTODAY(現 Innovation Gallery)という博物館での写真が残ってました。
普段、部品メーカーとミーティングなどする時でもビジネススーツなど着ないのですが
何故かこの時にはスバルから参加の全員がスーツ姿なのが滑稽です。
かといって、なにかやらかして謝罪に行ったわけでもないのですけどね(笑)
というわけで、21世紀の初頭は量産車の開発、タイヤ開発とは無縁なボクでしたけど
犬猿の中とも言えるブリヂストンとは意外に接点があったという、他愛もない話でした。
で、次回はどうしましょう。
まだAWDネタということでプロドライブ発案のATD、及びプロドライブ出張の話でもしますかね。
| 固定リンク
コメント