新書「おいしい味の表現術」を読了
インターナショナル新書の「おいしい味の表現術」瀬戸賢一編 味ことば研究ラボラトリー著を読みました。
本書の帯に「SNS、食レポに即お役立ち!」なんて書いてあるように
味を言葉でどう表現するかについて書かれている本です。
ただし、そういう教科書でも参考書でも練習帳でもありませんから「即」役に立つわけではありません。
それでもボクもこのブログで麺紀行とかカップ麺ネタとかでいろいろ味について書いてますし
食のプロでも言葉のプロでもないので本格的に勉強・訓練する必要はないのですが
それでも自分の語彙の乏しさや文章力のなさ故にうまく表現できなくてもどかしい思いをしてますから
少しでもヒントや気づきが得られればいいかなぁと思いこの本を読んでみました。
本書の「はじめに」には次のようなことが書いてあります。
(以下引用)
いまや日本にいながら世界各国の食材からスパイスまでなんでも揃う。足りないのはことば
によるオーダーメイドの味つけだ。もっと味を表現する努力をしなければ。それも真剣に。こ
とばの貧困は巡り巡って食の均一化と質の低下をまねきかねないから。
それにSNSやブログなどで多くの人が一言も二言も発信する時代である。アップされる写
真の質が驚くほど向上したのに、それに添えられる味の表現は? 「食べればわかる」ではた
だ逃げているだけ。たしかにぴったりのことばがでてこないのは日常のことだが、もっと自分
の実感に近い、個性的で魅力的な、おいしい言い回しはできないのか。 (引用終わり)
さすがにここに書いてあるように「うまっ」「ヤバッ」で終わっちゃうようなことはしてませんが
味の表現の貧困さを指摘されればその通りでボク自身でも情けなくなるほどですからねぇ。
なお、本書の著者としてある「味ことば研究ラボラトリー」=味研ラボとは
全員が言語学に携わっている人たちからなるのだそうですが
かといって何かの法人とかではなく事務所や定例会議があるわけでもない集団のようです。
編集者の瀬戸賢一氏のその味研ラボのメンバーのひとりですし
他に9名ほどが本書の各章を受け持って著しているようですが
まぁ一人一人の名前をここで紹介する必要もないでしょう。
で、この本は教科書ではないので、おいしい味の表現をするのにこうすべきとは書かれていません。
グルメレポーターの発言とかグルメまんがやグルメ雑誌でのことばなどを分析したりして
そのことばの構造やことばの意味や使い方などを分類・整理していたりします。
もちろん、そこにはどんな味をどう表現していくかの手法も少しは垣間見えますが
それらが一覧で解説されているわけでもないですし、ここで紹介する内容でもないでしょう。
ただ、これらを読んでみて改めて自分がどうして味の表現について貧困であるのか分かってきましたね。
そもそも、ボク自身はプロの料理家ではないのはもちろんですがまともに料理すらしませんから
どんな食材をどんな調理をしてどんな味付けするとこんな料理の味が完成するのか理解してません。
適当に焼いたり煮たりして適当に調味料ふりかけて、まっこんなもんかなで食べてるだけですから。
その一方でグルメ番組は地元の店が取り上げられそうな時以外はあまり見ませんし
ましてやグルメまんがとか読みませんから、他人が、特にことばのプロのような人が
味をどのようなことばで表現しているのかに触れることはあまりありません。
だから味も知らないし言葉も知らないのですからまともに表現できるわけありませんね。
ただ、元・職業柄か物事を分析的に評価するクセはついていますから
料理についても多分にそのような分析的な評価をしてしまいます。
それ自体は悪くないとは思いますが、なんせ前述のように食のプロでもなんでもないので
いくら分析的に評価しているとはいえ基礎や理論や経験に裏付けされたものではなく説得力に欠けます。
素人が素直に意見をするのは悪いことではないけど、だったらもっとストレートに書けばいいんですが
そうすると結局ただ「旨い」「美味しい」で終わってしまいます。
分析的ではなくどう美味しいかを書くのなら抽象的な比喩表現を用いればいいのでしょうけど
これまた元エンジニアとしてはそのような抽象的な比喩表現の文章は大の苦手です。
だから、ボクには無理なんですね。
まっ、一朝一夕には無理なので少しでも表現力を養えるよう頑張りますけどね(笑)
なお、ここでは本題とは少し違った部分での面白いなと思ったことなどを紹介しておきましょう。
(以下引用)近ごろ“シズルワード”という用語をよく目にする。(中略)
シズルとは英語の sizzle。意味は肉をジュージュー焼くときのおいしそうな、食欲をそそる
音(ここから、一九八〇年代に日本の広告業界で「シズル感」ということばが使われるように
なった)。日本語のシズルワードは、「おいしそう」「食べたい」「飲みたい」を感じさせること
ばとして主に使われる。飲食欲求を喚起する表現である。しかしたとえば「栄養たっぷり」
「体にやさしい」などもその例であることから、商品を売る戦略に関わる、「あ、買ってみた
い」と感じさせる表現と考えていいだろう。 (引用終わり)
へぇー、“シズルワード”ですか、初めて聞きました(恥)
カップ麺などに商品名の他にやたら長々と色々書いてあるのもシズルワードというわけですか。
もっともペヤングにはシズルワードはほとんど書いてありませんし
個人的にはシズルワードだらけの商品には嫌悪感を抱きますけどねぇ。へそ曲がりなのでね(汗)
また「生」の意味について書いている章ではなかなか面白いことが書いてあります。
(以下引用)
生チョコに続いて生キャラメル、生カステラへと広がった。チョコ、キャラメル、カステラも
どこかの段階で加熱しているはずなのに、生だという。どうなっているのか。
とくに生チョコはブームのきっかけを作ったので、生と称するための基準が公的に作られさ
えした。チョコレートやクリームなどの配合割合が定められ、要するに口で滑らかに溶けるも
のでなくては生とはいえなくなったのだ。(中略)
この意味の生は、ふわふわした食感をよく伝え、「口溶けのいい」を中核とする。
(引用終わり)
生チョコってどこが生なんだよーと思っていたくちですが、単に食感の話だったんですね(恥)
なのに公的基準を作るってどうなんだろうねぇ。
「過熱してるんだから生と謳うな、以上」でいいんじゃない?
麺好きのボクとしては“生”の話をするんなら
生蕎麦(きそば)と生そば(なまそば)の話もしてほしかったんだけどそこはスルーでしたね。
まっ生蕎麦だから美味しいと限らないし生そばだからマズイと決めつけられないですけど。
それから、「苦みばしったいい野菜」と題したコラムとして面白いことが書かれています。
(以下引用)
有機野菜の野菜には野菜本来の苦みもあるが、現代の日本では甘さは正義で、苦さや青臭さ
は悪なのだ。でも、野菜が「糖度〇度以上」「メロンやいちごより甘い」などといわれると、
複雑な気持ちになる。糖度だけで売っていいのだろうか。甘い野菜だけがおいしいのだろうか。
野菜はもともと青臭く、苦み・えぐみのあるもの。それが現代の栽培方法と流通システムな
どで失われてしまった。 (引用終わり)
まさしくその通りだと思う。甘い野菜が食べたいなら果物でも食ってろと言いたいですな。
あるいは砂糖でもぶっかけて食べてろってね。
最後に、ラーメンについての話です。
(以下引用)
「雑誌などの分類で醤油・塩・味噌・豚骨とあるが、実際はあの分類は正しくない」
と指摘する。
タレは、「醤油」「塩」「味噌」の三種のみ。 (引用終わり)
これもまさしくその通り。
やっぱりラーメンは豚骨だとのたまう九州人は多いだろうし別に個人の好みはそれでもいいけど
豚骨はあくまでもダシなのであって醤油・塩などと同列に分類し語るものではないんですよね。
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