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文庫「クリスパー CRISPR」を読了

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文春文庫の「クリスパー CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見」を読みました。
ジェニファー・ダウドナ著、サミュエル・スターンバーグ共著、櫻井祐子訳となっています。

まず、著者紹介ですけど、表紙カバーの袖の部分に次のように書かれています。
                               (以下引用、改行位置変更)
ジェニファー・ダウドナ Jennifer A.Doudna
1964年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校化学・分子細胞生物学部教授。フランスのマニュ
エル・シャルパンティエ博士と、細胞のDNA塩基の「回文」構造CRISPER(クリスパー)が細菌の
ウイルス感染防御システムであり、タンパク質酵素Cas9がウイルスのDNA塩基を切断することを
つきとめた。2012年、CRISPR-Cas9が遺伝子編集にも使えることを発表。2020年にシャルパンティ
エ博士とノーベル化学賞を共同受賞。

サミュエル・スターンバーグ Samuel H.Sternberg
共著者。ダウドナ博士の研究室で、CRISPR-Cas9の研究に従事。        (引用終わり)

と、共著でありながらもサミュエル(愛称サム)の紹介はとってもあっさりしています。
というのも、「プロローグ」の中で本書のスタイルについて次のように書かれています。

(以下引用)                           本書では、私
(ジェニファー・ダウドナ)が語るというスタイルをとることにする。執筆はサムと私の
二人で行い、ここで表明した見解のほとんどは二人のものだ。でも話を簡潔にするため、
また私が長年のうちに独自に経験した幅広いできごとを余すところなく伝えるためにも、
一人が語るというスタイルを採用した。              (引用終わり)

 

それから、タイトルにもなっているクリスパー(CRISPR)についてですが
DNAにおける「クラスター化され、規則的に間隔が空いた短い回文構造の繰り返し」の略だそうです。
回文ってのは「タケヤブヤケタ」みたいな右から読んでも左から読んでも同じ文章のことですね。
ボクはそのクリスパーって言葉を聞いてもあまりピンと来なかったのですが
そのクリスパーにCas9というタンパク質酵素を用いることで
遺伝子編集がピンポイントで短時間に超低コストで誰でも(高校生でも)できることを発見したのが
著者のダウドナ氏であるということです。

なので、その遺伝子編集手法をCRISPR-Cas9と呼ぶそうで
ボクはそれならなんか聞いた事あるなぁという感じがしましたけど
もちろん内容的にはほとんど理解できていませんでしたからこの本を読んでみたわけです。
ただし、本書では遺伝子編集のCRISPR-Cas9のことを略してほとんどの場合は
ただCRISPRとだけ書いてありますので、ここでもそれに倣うことにします。

そして、本書ではCRISPR以前の遺伝子編集技術から順を追って説明されているのですが
純粋な科学解説本ではないので著者の研究の振り返りや回想のように物語が進んで行きます。
けれども物語的とは言えその内容は専門的な話ですから専門用語がバンバン出てきて
聞きなれない人名どんどん出てくるしで完全に理解しようとするにはボクには難解過ぎましたorz
例えば次のような文章です。
                                 (以下引用)
 二〇一二年に「サイエンス」誌に掲載された論文でマーティンとクシシュトフが行っ
た実験は、画期的な事実を明らかにした。ヒト喰いバクテリアから抽出したCRISP
R関連タンパク質Cas9が、二種類のRNA分子と相互作用して、RNA配列に対応
するDNA配列中の二〇塩基を標的化し、切断するのである。RNAは攻撃目標のGP
S座標にCas9を誘導するガイド役で、Cas9はその標的を取り除く兵器だ。ウイ
ルスに感染した細菌は、適応免疫応答の一環としてこのCRISPR機構を動員し、特
定のDNA分子を切断、破壊している。              (引用終わり)

なんとなく分かったような気にもなるけど顕微鏡でも見えない世界のことなので比喩表現も多く
それがどこからどこまでが比喩なのか、実際は分子レベルでどんなことなのかよく分からないです。
また、訳者が遺伝子研究の専門家とかではなく経済学者というのもあるのかもしれません。
というわけで、CRISPRについて、あるいは遺伝子編集についてはなんとなく分かった程度です。

けれども、本書は単にCPISPRの解説本ではないし、その凄さを誇るような内容でもなく
またこんなに大変だったよー(実際は偶然の発見から始まった)とかの内容でもなく
その主たる主張はむしろCRISPRをフランケンシュタインや核兵器などと並べて
これから(といっても喫緊の)これを使って人類はどうすべきかを問うているところにあります。

従って、本書は総ページ数で400ページを超えるほどの文庫本としてはやや厚めで
その前半は上述のようにかなり難解な内容となっていて読み進めるのに苦戦しましたが
後半は文章としては読みやすくそれでも考えされられる内容となっています。

 

本書は単行本として2017年10月に発行されたものを2021年10月に文庫化したものです。
そして、2017年11月にあの事件が勃発してしまっています。
本書の末に「解説」として科学ジャーナリストの須田桃子氏が次のように書いています。
                                 (以下引用)
 残念ながらこの年の一一月、彼女の懸念は現実となる。中国の南方科学大学の賀建
奎副教授(当時)が、CRISPRを使って遺伝子改変したヒト受精卵から双子の女児
を誕生させたことが明らかになったのだ。双子の父親はエイズウイルス(HIV)の感
染者で、遺伝子改変の目的はHIVにかかりにくくすることだった。 (引用終わり)

この件は日本でも一般のニュースとしてかなり大々的に取り上げられたのでボクも覚えています。
その賀建奎(フージュンケイ)氏が論文発表の場で世界中の研究者などから
痛烈な批判に晒されていたニュース映像をはっきりと覚えています。
まっボクはその時はそれほど理解できていないままにただ末恐ろしさだけを直感してただけですが。

著者はCRISPRの発見・開発者だけでなくあるいはCRISPRの利用・応用の研究だけでなく
倫理的に遺伝子編集、特にヒトの生殖細胞に対する遺伝子編集の是非を問う活動をしています。
著者の考えは基本的には今はヒトの生殖細胞に対する遺伝子編集は行うべきではないという主張です。
ただし、この辺りの考え方も著者自身変化もしていると書いていて
何が正義なのか世界中の人々が議論してコンセンサスを作ることが重要だと言っています。

確かに、このCRISPRによって多くの遺伝子疾患を無くすことは可能ですが
遺伝子疾患と遺伝性疾患(の可能性)との線引きは曖昧ですし
拡大解釈が進めば遺伝的多様性との線引きも曖昧となりますし
優生学的なものに繋がったりあるいは遺伝子編集が新たな格差社会を作ることにもなりかねません。
まさにディストピアの出現につながりかねないわけです。

ちなみに、HIVの子どもへの感染を防ぐ方法は遺伝子改変以外にも既にあるとのことなので
上述の賀建奎氏のCRISPRベビーには妥当性がないとされているとのことです。

 

まぁ、ボクの場合はもうこんなジジイですから今さら自分のDNAをどうこうとか
子どもが欲しいとかそんなこととはまったくもって無縁ですし、
今の時点でデザイナーベビーが作られはじめたとしても彼らが社会に大きな影響を与える頃には
ボクはもうこの世にいないか未練もなにもない状態でしょうからどうでもいいんですけどね。

ただ、若い人には是非この問題について真剣に考えてほしいですねぇ。
地球温暖化なんかよりもっと重大な問題なんかじゃないかと思います。

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