単行本「日本の包茎」を読了
筑摩書房の「日本の包茎 男の体の200年史」澁谷知美著を読みました。
副題にも“男の体の”と書いてある通りで
“包茎”とは何かの比喩で使われているのではなくそのものズバリ男性のおチンチンの話です。
表紙カバーの袖(折り返し)部分には次のように書いてあります。
(以下引用、改行位置変更)
仮性包茎は医学上、病気ではなく、手術も不要である。日本人男性の半数以上が仮性包茎とされ
ている。多数派であるのに多くの男性がこれを恥じ、秘密にしようとするのはなぜか。(中略)
仮性包茎を恥じる感覚は、どのようにして形成されたのか。江戸後期から現代まで、医学書から
性の指南書、週刊誌まで、膨大な文献を読み解き、仮性包茎をめぐる感覚の二〇〇年史を描き出
す。歴史社会学者による本邦初の書! (引用終わり)
なにを隠そう(といってネットに自ら晒すことでもないが)ボクは立派な仮性包茎です(汗)
まっ立派かどうかは分かりませんが……
本書によると包茎ビジネスが最高潮だったのが1985年ごろで
その主なターゲットが20歳前後の大学生などであったとのことなので
ちょうどボクもその真っ只中にいたということになります。
幸いにボクは仮性包茎であってもそのビジネスの餌食になって手術などに走らなかったし
仮性包茎であることで悩みに悩んだり萎縮して精神的にどうこうというほどには至りませんでした。
ただ、やはり男性なら思春期に誰でも考えたであろう
自分のおチンチンは包茎でヤバイんじゃないかとか短小で使い物にならなんじゃないかとよぎり
そこら辺の雑誌とかで得た知識で弄って確かめて見たりモノサシで測って見たりして安堵したり
まぁそんなことをしたりして、やっぱりズルむけ(露茎)の方がいいのかなと
やはり恥じたりコンプレックスを抱いたりしたことがあるのは事実です。
まぁ今ではそれら包茎ビジネスで大儲けしようとした輩が作り出した根も葉もない情報操作である
ということは分かり切っているので、まぁ今さらという感じもする内容ではありますが
本書ではそれを医学や性知識として書いているのではなく
当時の文献資料からどんな形で情報操作が進んで行ったのかを紐解いているものになります。
その包茎治療ビジネスについては、高須クリニックの高須克弥の言葉が紹介されています。
(以下引用) 二〇〇七年のインタビューで高須は次のように語っている。
僕が包茎ビジネスを始めるまでは日本人は包茎に興味がなかった。僕、ドイツに留学してたこ
ともあってユダヤ人の友人が多いんだけど、みんな割礼してるのね。ユダヤ教徒もキリスト教徒
も。ってことは、日本人は割礼してないわけだから、日本人口の半分、5千万人が割礼すれば、
これはビッグマーケットになると思ってね。雑誌の記事で女のコに「包茎の男って不潔で早くて
ダサい!」「包茎治さなきゃ、私たちは相手にしないよ!」って言わせて土壌を作ったんですよ。
昭和55年当時、手術代金が15万円でね。[……]まるで「義務教育を受けてなければ国民ではな
い」みたいなね。そういった常識を捏造できたのも幸せだなあって(笑)。 (引用終わり)
前述のようにボクは直接的に包茎ビジネスの餌食になったわけではないけれども
こんなことしてボロ儲けするだけでなく悪びれず語れることにまことに腹立たしさを覚えますなぁ。
さらに、本書の終盤でも高須氏は登場していて次のようなことが書かれています。
(以下引用)
二〇一三年は「ひとつの時代の終わり」を感じさせる出来事がふたつ起きた。ひとつは、包茎
ビジネスを牽引してきた高須がその終焉を宣言するかのようなツイートをしたことである。「香
料、お茶、阿片と儲かる商品は移り変わる。今度は何かな?包茎は過去の商品になってしまった
な」と書いている。 (引用終わり)
包茎治療を商品というだけにとどまらずにアヘンと同列に語るなんて信じられませんね。
それにアヘンビジネスで大儲けした人だって公にそれを語ることはないだろうに
平気の平左衛門で自らこんなことをツイートするなんてどういう精神構造をしてるんだろうかねぇ。
にもかかわらず、高須氏はさらに次のようなことを言うに至ったとのことです。
(以下引用)
二〇一九年にはとうとう高須が、仮性包茎・短小・早漏は生物学的に最強で優秀なペニスであ
ると『週刊プレイボーイ』で発言にいたる。 (引用終わり)
まったく何を言ってんだコイツは。という感じですけど、本書では坦々と書かれています。
では、高須氏だけが包茎ビジネスをしていたかというともちろんそうではなく多くの医師だけでなく
週刊誌などもそれらの医師やクニックのタイアップ記事(ステマ広告)で煽っていたわけです。
それで年間何億円もの金が動く包茎ビジネスが膨れ上がっていったということだそうです。
ただ、高須氏のような包茎ビジネスだけが包茎=恥を作り出したわけではなく
それ以前から「土着の恥ずかしさ」が日本にはあったと著者は指摘しています。
例えば、M検(エムケン、MはMaraの意)と言われた全裸で股間を検査されるものが
第二次大戦で負けるまで徴兵検査だけでなく入学試験や就職試験でも行われていたそうで
当然ながらそこでは包茎は「恥ずかしいもの」として見られていたのであろうとのことです。
ちなみに、昔は、というより医学用語としては包茎は今でいう真性包茎のことを意味し
今でいう仮性包茎は単に皮かむり(医学用語ではない)と呼んでいたとのことです。
それは、真性包茎は病気だから治療が必要であるが仮性包茎は病気でなく治療も要しないから
医学用語では定められてないということなのだそうです。
とはいえ、これまた戦前から仮性包茎という言葉も使われていたらしいですが。
それから、日本人に仮性包茎が多いのかというとどうもそうでもないらしく
割礼の文化がある地域や宗教は別とすればどうやら人種による差はほとんどないそうです。
また、近年になって増えてきているのかどうかも明確ではなく正確な数値は分からないそうです。
逆に言えば、仮性包茎の定義も曖昧で正確に判定することも難しいということみたいです。
まぁそうでしょう、平常時といってもその時々で状態は違いますからね。
ただ興味深いことに日本人については真意のほどは分からないけど次のように書かれています。
(以下引用)
短小を慰めるために、性科学者の高橋鐡が持ち出すのは「膨張係数」という概念である。これ
は平常時のペニスサイズが勃起時にどのくらい膨張するのかを示す数値である。高橋によれば、
欧米人は一・五倍だが、日本人は一・七倍から二倍になる。したがって、心配はないという。日
本人のペニスサイズは平常時こそ欧米人に劣るが、勃起した時の大きさは欧米人にひけをとらな
いので自信を持て、というのである。 (引用終わり)
どこまでホントなのかも分からないし膨張係数が大きい方が良いのかどうかも分からないですけど……
ボクのなんて勃起時はまぁ平均的ですがちょっと寒くなるとかなり縮こまってしまいますから
それこそその場合は膨張係数(体積比じゃなくて単に長さの比?)は2倍じゃすまない気がします(笑)
本書は総ページ数276とそれなりにボリュームのあるものですが
内容的にはあまり難しくなく複雑なことは書かれていませんのですらすらと読むことができますし
包茎の記述を通して当時の世相なども感じ取ることが出来るし
それらの中にはあまりにもバカバカしくて笑ってしまうようなこともありますが
まぁそれらの紹介はこの記事ではやめておきましょう。
なお、本書の著者は名前からなんとなく女性っぽいですが「あとがき」では次のように書かれています。
(以下引用)
なぜ女が、しかもフェミニストが包茎研究を?
本書を手にした多くの人が持つ疑問だと思う。それに答えておきたい。
それは、男が幸せにならなければ、女もまた幸せにならないと思ったからである。(中略)
こんにち、女が男から受けている有形無形の暴力の少なからずが、男が同性間の関係において受
けた暴力が移譲されたものだと筆者はふんでいる。だから、男同士の関係から暴力を排したい。
そして、男から女への暴力が止む社会を実現したい。本書はそのための小さな布石である。
(引用終わり)
なので、本文中でも包茎による男性間のいじめやヒエラルキーの問題なども多く取り上げられています。
まぁその辺りも含めて興味のある人はこの本を読んでいただければと思います。
ただ、悲しいかな男性間で暴力(言葉の暴力、マウンティング、ハラスメント)を振るうような人は
おそらくこの本を読まないであろうということですかね。
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