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新書「毛」を読了

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光文社新書の「毛 生命と進化の立役者」稲葉一男著を読みました。
前回の「サバイバルする皮膚」では体毛を失った人の皮膚についての話だったのですが
今度は毛の話かよ、それも毛が立役者って一体毛は必要なのか不要なのかどっちだよ、とか。
あるいは薄毛に悩む人にとっては切実なる思いでこの本に注目したのかもしれません。
ボクはいちおうまだ頭皮には毛がありますし、逆に体毛は薄い方の部類の人間ですが……

実は毛といっても頭髪や体毛の話ではなくひとつひとつの細胞に生えている毛のことで
つまり鞭毛とか繊毛とか呼ばれるものの話となっていました。
精子に生えているような毛をイメージすればいいわけですし
実際に著者はウニの精子なども研究対象としているみたいです。

 

その精子については、どのように鞭毛が形成されていくかとかその構造がどうなっているのか
さらにはどのようなメカニズムでそれが駆動されて精子が動くのか(泳ぐのか)
もっというとどうして目的地に向かって動けるのかなど詳しく説明されています。
また、精子が精巣の中で動くのにも子宮の中で動くにもそこにある細胞の繊毛にも助けられるそうです。

まっそれらをここで詳しく説明する必要もありませんので興味のある人は本書をお読みください。
ただ一つだけ紹介しておきましょう。

(以下引用)             慣性と粘性のどちらの影響を受けるかを知る指標
「レイノルズ数」は、ざっと計算すると、精子では10⁻³、ウナギでは10⁷ほどになり、両者で
1億倍の違いがあります。
 つまり、精子は慣性の影響をほとんど受けず、ドロドロの粘性抵抗の中で常に動いている
ということになります。後ろに流体(水)を動かすことによってのみ前に進む推進力を得ま
す。だから、鞭毛が動きを止めてしまうとその場で運動が止まってしまいます。
                                  (引用終わり)

こんな大変な環境でけなげに頑張っているんですね(笑)
なのにその頑張りを無意味にしてしまうという意味でやはりオナニーはうしろめたいかな(爆)

 

閑話休題。
そんな精子や単細胞生物の運動としての鞭毛だけの話ではなく
多細胞生物でも細胞の毛は臓器や感覚器官などいたるところにあり様々な役割をしていることなど
それらもメカニズムとともに詳しく書かれています。

それ以上に面白いというかヘェ~と驚かされるのは次のようなことです。
                                   (以下引用)
 繊毛にまつわる『ブラック・ジャック』のもう一つのストーリーは内臓逆位です。ブラッ
クジャックの助手、ピノコには、近くに住む仲の良い少年がいました。ある日、少年は突然
腹痛をうったえ、その子の親は近くにいたブラックジャックのところに駆け込みます。聴診
器で調べたところ、心臓が右にあること、つまり内臓逆位であることがわかります。(中略)
 さて、通常、心臓はやや左、肝臓は右、大脳は反時計回りであるなど、私たちの臓器には
非対称性があります。実は、この非対称性は、発生のごく初期に現れる「ノード」と呼ばれ
る部分にある繊毛の働きで決められています。(中略)
 ノード繊毛は、胚に対して左向きの水流を発生させます。その結果、左右の領域で働く遺
伝子が異なってきて、心臓は左、肝臓は右といった具合に非対称性が生じるのです。そのメ
カニズムについては、遺伝子を制御する因子が運ばれるとか、水流の機械刺激を感知する繊
毛が左側にあり、その刺激により左右非対称ができるとか、いろいろな説が提案されていま
すが、まだ結論は出ていません。                   (引用終わり)

少々長い引用となってしまい恐縮ですが、左右非対称が生まれるのが
細胞の繊毛の動きというのは不思議な気がしますし
そもそもその繊毛の動きが非対称なのはどうしてなのかと生物の神秘性に驚かされます。
地球の重力や自転なども影響してくるのかもしれませんし
それこそ量子論での対称性の破れなどとも関連があるのかもしれないですね。

なんてワクワクしますけど、まだまだ詳しいことは何にも解明されていないというわけです。
そう、この本ではこの「詳しいことは分からない」のフレーズは何度も出てきます。
それ故にいろいろと想像力を掻き立てられて読んでいて面白いわけですけど。

なので、本書の「おわりに」にも次のように書かれています。
                                   (以下引用)
 本書は、細胞の毛の話ですが、もしもこのことを今までまったく知らない方が、本書を読
んで少しでも新しい発見があったらうれしく思います。また、少しだけ知っていた方が本書
を読んで、さらに知りたいと思っていただけたらこの上ない喜びです。  (引用終わり)

ボクはまったくと言っていいほど知らないことばかりでしたからとても楽しめました。

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