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どうして前後トルク配分ばかり注目するの

前回記事で直結4WDおよび直結4WD的状態にある場合は前後トルク配分50:50ではないし
トルク配分は不定であってそんな状態ではトルク配分という概念がナンセンスだと書きました。
なのに何故か自動車評論家とかいった人たちは4WDの前後トルク配分にこだわる習性があります。
いや、自動車評論家だけでなくエンジニアでさえもやたらと前後トルク配分にこだわる人もいますし
それは設計上意味のあることでもあるんですが……
今回はそんなことを記事にしていこうと思います。

先ずは4WDというものがいわゆるクロスカントリー4×4などオフロードだけのモノではなく
乗用4WDあるいはスポーツ4WDとして高速走行や高G旋回走行するようなクルマとして
そのハンドリングなどが盛んに論じられるようになってきたのは
アウディ・クワトロが発表された1980年以降でしょう。

もちろん、スバル・レオーネ4WDは1972年には量産されていたし
アウディ・クワトロよりも前にWRCにも参戦しているのですが
出自はスポーツ性というか速く走るための4WDではなくあくまで雪道や悪路での走破性ですから
まだまだメジャーな存在とは言えなかったですからね。

そして、1980年代中盤以降になると日本メーカー各社から乗用4WDが発売されて
雪国の日常の足やスキーなどレジャーの移動やさらにはスポーツ性のある4WDが出てきて
一気にメジャーな存在になり自動車評論家やメディアも注目するようになってきたわけです。

そんなところで、自動車評論家は4WD車のハンドリングを評するのに2WD車との比較で語るわけで
その2WDにはFWD(FF)車とRWD(多くはFR)車があるのでその中間というか
FF(100:0)とFR(0:100)のどちらに近いのかという目で見ることになったのでしょう。

一方、モータースポーツ・WRCではアウディ・クアトロの活躍の後、1984年には
プジョー205T16というミッドシップ4WDのグループBマシンが登場し活躍します。
このマシンが35:65(など)のリア偏重トルク配分にビスカスLSDを組み合わせたもので
これによってモータースポーツもしくはスポーツ性の高い4WD車を論ずるときには
必ずといっていいほど前後トルク配分という切り口で語られるようになっていったと思われます。

 

しかも、自動車評論家や彼らの影響を受けた素人なのににわか評論家みたいな人には
FWD(FF)は安物大衆車でRWDは高級車や本物スポーツカーだと刷り込まれているし
FWDはアンダーステアで曲がらないけどRWDはよく曲がるとか勝手に思い込んでいるので
前後トルク配分でFWDっぽいのかRWDっぽいのかを決めつけようとするんでしょう。

ステア特性にとっては実際には駆動輪がどこかよりも
前後重量配分やタイヤ選定やサスペンション設定の方が重要なんですが……
モータースポーツにおいては2WDの場合はその駆動輪にどれだけ荷重がかかっているかで
トラクションが決まるしパワーのあるマシンではトラクションが高いほど加速に優れて速いので
結局はレースなどでは加速時の荷重移動も含めてRWDの方が、それもFRよりMRやRRの方が
トラクションに優れるからモータースポーツでも速く走れるということです。

ただ、滑りやすい路面では荷重移動も少ないのでFWD(FF)でもFRよりトラクションに優れ
故にラリーなどでは古くはシトロエンDS、ミニ、サーブ96、ランチャ・フルヴィアなどなど
FFで大活躍するラリー車も多く出ているわけです。

ましてや、モータースポーツとかではなくて普通に公道を走るのにFWDもRWDも大差ないです。
まぁ雪道など非常に滑りやすい道なら差はありますしハチャメチャなパワーがあれば別ですが。
しかも、それが4WDになれば少しくらい前後のトルク配分が変っていても
通常の運転ではほとんど差はないので、そこにあまりにも拘っても大して意味がありません。

 

よくドラテクの理屈とかでタイヤグリップの「摩擦円」の話を持ち出す人がいます。
ようするに前後のグリップ(駆動力/制動力)と左右のグリップ(旋回)の総和が
まるい円のように表されることを指していて、
だから旋回中に駆動力を加えると左右のグリップ力が減るので
FWDならアンダーステアになってRWDならオーバーステアになるという説明がされます。

これはまったく根拠のない話というわけでもないんですけど
摩擦円は単なるグリップ限界だけの話でしかありませんし、
その摩擦円はまん丸といわけではなくかなり角丸四角形に近いグラフで表されるので
限界に近い旋回中に少しぐらい駆動力を変化させてもその影響は大きくないんです。

実際にタイヤが鳴くほどの旋回中に少しアクセル開けたからといって
FWDなら即アンダー(正確にはドリフトアウト)となるわけでもないし
上手く操作すればやや切り込んだ前輪が駆動力で引っ張る形で4輪ドリフトにも持ち込めることは
成田カートランドでのボクのラリっ娘の走りを見た人なら納得していただけるでしょう。

一方、RWDなら即スピンするわけでもないし、むしろ軽くアクセルを開けることで車両は安定し
あるいはいわゆるプッシュアンダーといわれる状態になり逆に曲がりにくくなったりします。
ということもある程度経験を積んだドライバーなら実感として分かっていることでしょう。

ただ、これもアイスバーンだったりとか無茶苦茶パワーがあれば話は別ですけど。
その時は摩擦円ウンヌンといより駆動輪がほとんど空転しちゃってる状態になってしまい
結果的に横方向のグリップも失われてしまい
FWDならドリフトアウトで曲がらない、RWDならスピンアウトしてしまうだけです。

 

この空転によってドリフトアウトしたりスピンアウトしてしまうのは確かに
FWDとRWDでは挙動は違ってくるし4WDでも前後トルク配分の影響で挙動が違ってきます。
けれども、空転をコントロールできるのは一部の高度な運転テクニックを身に着けた人だけだし
実はそれは駆動力をコントロールしているのではなくあくまでのタイヤの空転のコントロールです。

現代ではトラクションコントロールが装備された車も多いですし
そもそも駆動の反対となる制動側にはタイヤロックを防ぐABSがほとんどの車に装備されています。
これも駆動力や制動力を電子制御しているというより
タイヤの空転(タイヤの回転速度と車両速度の差)を検知してそれを制御するという方式です。

 

これらのことから4WDの前後トルク配分が意味を持ってくるのは
パワーのある車で氷雪路面などを走るような場面でタイヤが空転しちゃったその瞬間だけです。
空転が大きくならない限りは前後トルク配分でアンダーステア/オーバーステアなんて違いはないです。
後輪偏重トルク配分だからアンダーステアが弱いとかよく曲がるとかそんなのは迷信でしかないんです。

そして、4WDで前後輪のどれかのタイヤが空転しちゃった場合には
センターデフにLSDがなければ駆動力はゼロになるので前後トルク配分は無意味になります。
一方、センターデフにLSDがあればその時の前後トルク配分は前回記事の通り不定となるので
これまた前後トルク配分という概念はナンセンスとなってしまいます。

そんなわけで、4WDの前後トルク配分ってのはそれほど大した意味はもっていないという話でした。
では、どうして前述のプジョー205T16などのラリーマシンは後輪偏重前後トルク配分にして
さらにラリーコースのコンディションに合わせて前後トルク配分を変更してたりしたのでしょうか。
それについては次回の記事で少し触れることにしましょう。

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