新書「老人支配国家 日本の危機」エマニュエル・トッド著を読了
文春新書の「老人支配国家 日本の危機」エマニュエル・トッド著、堀茂樹&大野舞訳を読みました。
本書では歴史学者・磯田道史と本郷和人とのそれぞれの対談も含まれています。
磯田氏も本郷氏も歴史学者としてテレビなどでも露出が多い方々ですけど
国際情勢や政治的なところではあまり発言してないようなので少し意外でしたけどね。
なお、フランス人の歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏については
こちらの「自由の限界」の世界の知性21人のうちの一人としてこのブログでも登場してますが
ブログ休止中の2016年にも新書「問題は英国ではない、EUなのだ」を読んでいます。
こちらの本も同じく文春新書であり、かつ堀茂樹訳となっています。
この2016年の本はイギリスのEU離脱=ブレグジットに関するタイトルになっていますが
内容的にはそれだけにとどまらず世界情勢全般に及んでいます。
そして、今回読んだ本も老人支配国家と(老人にとっては)かなり強烈なタイトルですけど
内容的には日本だけにとどまらずこれまた世界情勢全般に及んでいます。
出版社も同じことからも分かるように、2016年の本の続編というか2021年版が本書です。
しかも、中身は2013年、2014年にトッド氏が語ったことなども含まれていることもあり
内容的には重複する部分もかなり多いものとなっています。
まっその分ボクにとっては分かりやすいというところでもありますけどね。
そのような成り立ち・構成の本ですから、刺激的なタイトルの割には内容は
日本の為政者や権力者たちの老害を紛糾しているというほどでもないし
日本人高齢者全体に向けて具体的にどうこうと苦言を呈しているというものではありません。
それらだと、もうすぐ還暦を迎えるボクにとっては耳の痛い話になるわけですが
それでもそんなところを鋭く突いている内容なのかと期待して読み始めた部分もあるんですけどね。
とは言え、「少子高齢化」や「人口減少」が日本の最大の問題点・危機であるという指摘は
裏を返せば「老人支配国家 日本の危機」とも言えるわけですし、
新型コロナ騒動でも「高齢老人の寿命を延ばすために若者が犠牲になっている」という話も
(日本だけでなく世界的な)もっともな考え方であるとは思いますが……
そして、まずは「少子高齢化」「人口減少」についての部分を紹介しましょうかね。
著者は、日本はもっと移民に積極的であるべきとは提言していますが
それでもチャイニーズだけに偏らないように注意すべきということと
同化、つまり外国人が日本人と同様に日本語を話し日本文化の中で生活すべきだとし、
それには時間がかかるから急速な移民増加は控えるべきだとも指摘しています。
それ故に、移民だけで「少子高齢化」「人口減少」問題は解決しないという立場から
次のように問題の本質を述べています。
(以下引用)
「絶対核家族(親の遺言で相続者を指名)」の英米や「平等主義核家族(平等に分割相続)」
のフランスよりも、日本で老人が敬われるのは、「直系家族(長子相続)」という日本の家
族構造が関係しています。「家族」を重視することで、日本の優れた社会の基礎が築かれ
てきたわけですが、例えば、子育てのすべてを「家族」で賄うことなど、もはやできませ
ん。老人介護も同様です。「家族」の過剰な重視が「家族」を殺す――「家族」にすべて
を負担させようとすると、現在の日本の「非婚化」や「少子化」が示しているように、か
えって「家族」を消滅させてしまうのです。「家族」を救うためにも、公的扶助によって
「家族」の負担を軽減する必要があります。 (引用終わり)
日本でも法定の遺産相続では平等分割相続なんですけど
土地や家(実物というより家業、屋号など概念的な“家”)の相続となると
そこには長子(というより日本では長男でしょ)相続が暗黙に当たり前となる社会なのは確かですね。
とは言え、ボクが未婚・子なしなのはそのようなことが足枷になっていたわけではなく
なりゆきというか単に女性にモテなかっただけのことだと思いますが……
それよりも個人的にはフランス的な平等主義核家族の方が心情的に近いので
そこが日本社会の直系家族という空気に馴染めず
それが間接的に家庭を築きたいという気持ちを萎えさせていたのかもしれませんが……
なんにしても、トッド氏が示すように家族観が違うわけですから
出生率の高いフランスの政策の真似をしても、英米の真似をしても
日本の出生率アップにつながるわけではないということでしょう。
だからといって、トッド氏は具体的な施策を提案しているわけでもないので難しい問題なのでしょう。
とりあえず、夫婦別姓を認めて従来の“家”の概念・呪縛から脱することから始めるのがいいのかなぁ。
それから、移民の話でも出てきましたが、国としてのチャイナについては
トッド氏はチャイナがアメリカに替わる世界覇者にはなりえないとした上で次のように書いています。
(以下引用)
では、そうした中国に日本はどう向き合うべきなのか。
まずイデオロギー面と軍事面においては、毅然とした態度を取るべきです。そのために
日本は、必要な軍備を整えればいい。歴史問題をしつこく蒸し返されるのであれば、「第
二次大戦はもう終わったのだ」と言えばいい。南京虐殺を毎度持ち出されるなら、死者の
数から言えば毛沢東の圧政による方がはるかに多いと返せばいい。日本がキッパリと語れ
ば、中国首脳はかえって聞く耳を持つでしょう。その一方で、経済問題に関しては、協力
的な態度を明確にすべきです。中国経済は、日本が援助すべき多くの問題を抱えているか
らです。 (引用終わり)
歴史問題うんぬんの部分はまことにその通りだと思いますが
トッド氏は日本は核武装すべきとの主張をしているようにその前に核保有が必要でしょうね。
でないと、シーさんは聞く耳を持たないでしょうから……
※習=シー=xi=ξ(ギリシャ語のクサイ),故にWHOは新型コロナのクサイ株ではなくオミクロン株と命名?
経済的にはチャイナに協力するのはイイと思いますがチャイナに依存するのは良くないですね。
チャイナ経済に依存しすぎるから毅然とした態度が取れないわけですし。
いずれにしても、これもまた難しい問題ですねぇ。
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