« 新書「なぜオナニーはうしろめたいのか」を読了 | トップページ | 今日は蕎麦の気分でしたが大失望の麺紀行となってしまいました »

直結4WDは50:50じゃないよってな話

前回記事では4WDシステムの分類ということで特にスバルのAWDだけに限った話ではなくて
ましてやボクが携わった仕事とは関係なしに一般論的な話を記事にしたのですが、
今回も4WDの基本的な話として4WDの前後トルク配分の話をしておこうと思います。

たまに「直結4WD」という言い方をするのですが
これは元々はパートタイム4WDで4WDに入れた状態を指してして
センターデフがないため前後輪が直に繋がっているというような意味からそう呼ばれるわけですが
そこから発展してセンターデフがあってもLSDが効果を発揮してセンターデフを拘束してる状態や
カップリングを用いたオンデマンド式であってもカップリングの拘束が強くて滑らない状態では
同じようなことになっているので「直結4WD的」な状態などと言われることがあります。

ただ、そんな直結4WDを前後トルク配分50:50と誤解している人が多くて
自動車評論家と言われる人にもそのような人がいるし、まことに情けないことに
スバルの技術者の中にも直感的にそうイメージしてしまっている人もいるようなんですよね。
おそらくディファレンシャル=差動機構というものが理解できていないんだと思うんですが
なかなか実物を見て弄ったりしてないと正確な理解ができないのかもしれません。
子供の頃からラジコンカーとかタミヤの工作キットとかで弄っていれば理解しやすいですけどね。

今回の記事ではまずはそんな基礎的なことを書いておこうと思います。

 

B210904_2

イメージで描くとこのようになります。(すごく久しぶりにエクセルで絵を描きました)
※実際は回転運動しているものを単純な静的な力の釣り合いで書いているのであくまでもイメージです。
直結4WDは一番左側の図のようにE:エンジントルク(本来はトランスミッションを介してますが)で
ピストンを押しているのとF:前輪トルクとR:後輪トルクが作用・反作用の関係にあります。
ですから、数式で書くと E=F+R となっていてそれ以外の制約はありません。

なのでE=100(%)だとすると、F=50,R=50であってもいいですけど
F=90,R=10でも、F=20,R=80でも
あるいはもっと極端な状況では、F=-50,R=150でもあり得るわけです。

現実にも、例えば前輪がジャンプするなりして宙に浮いていればF=0になりますが
後輪がしっかり地面にグリップしていればR=100で後輪だけで駆動することになります。
さらに前輪が引き摺られるような状況ならばマイナスのトルクもあり得ます。

ですから、直結4WDは50:50になっていることはほとんどありませんから
そのような言い方や考え方をするのは間違っていることになります。
直結4WDもしくは直結4WD的な状況に対して前後トルク配分は常に不定ですから
前後トルク配分という概念を持ち出すこと自体がナンセンスな話ということになるわけです。

 

次にセンターデフがあって50:50の前後等トルク配分の場合のイメージが中の図になります。
シーソーのようになっているのでシーソーのバランスを保つためにF=Rという条件が加わります。
ですから、E=100(%)ならいつなんどきでもF=50,R=50しか取り得なくなります。

それから発展してセンターデフがあり前後不等トルク配分の場合のイメージが右図になります。
この図の状態だとおよそフロント30:リア70くらいのリア偏重トルク配分と言えるでしょうか。
シーソーの支点がずれて腕の長さa,bの差に応じて不等トルク配分になるという感じです。
いずれにしてもセンターデフがあってLSDがない場合はトルク配分は固定されていて
直結4WDのように状況に応じてころころ変わるということはありません。

それで、トルク配分が固定されていると、仮に前輪が宙に浮いてF=0になったとすると
R=F=0とならざるを得なくなりますから必然的にE=0になり駆動力はなくなります。
センターデフ(LSDなし)があると一輪でも空転してしまうと4WDではなくなりWDになり
まったく走れなくなり2WD以下に成り下がってしまうというのはこういう理屈になるわけで、
故にセンターデフにLSD(もしくはロック機構)が必要になってくるというわけです。

 

ところが、センターデフがオープンではなくパッシブにしろアクティブにしろLSDが装着されると
そのLSDの効き代に応じて基本のトルク配分から直結4WDまでの間で変化することになります。
つまり強力なLSDで直結4WDと同じ状態になればトルク配分は不定となり
これまた前後トルク配分という概念そのものが意味をなさない、ナンセンスとなるわけです。

トルセンと呼ばれるようなトルク感応式LSDであればある一定範囲までは
上記のイメージ図のシーソーの支点を摩擦で押さえているような感じで
前後のトルクが基本のトルク配分より少しずれてもシーソーがバランスを保つようにしてくれるので
その範囲において前後トルク配分が変動することが許されるというイメージになります。

例えば基本トルク配分50:50でLSDが20%分まで抑えることが出来るのなら
70:30~30:70まででトルク配分が変動することになります。
ただしその中間は不定であり、なので60:40であるか40:60であるかを議論しても
これまたナンセンスであってそこではトルク配分は意味をなさない概念なわけです。

さらに、トルク感応LSDではある範囲でトルク配分が変動するようになるだけで
その範囲を超えるトルク配分(トルク移動)は出来ませんから
これまた前輪が宙に浮いてしまってF=0になればR=0にならざるを得ず
必然的にE=0となってLSDが付いていても空転してしまい駆動力もゼロになってしまいます。

これでは滑りやすい路面でのラリーなどの競技では使い物になりませんから
センターデフにトルセンを使用しているアウディ・クアトロでもWRCなどスポーツ走行では
センターデフを常時ロックしていわゆる直結4WD状態で走行していたというわけです(笑)

一方、回転差(スリップ差)に応じてLSDの効きが変わるようなビスカスLSDなどの場合は
上述のようなイメージ図(本来動的なものを静的に置き換えているので)では表せないのですし
ビスカスの場合はハンプと言って最終的にはロック状態まで行ってしまうので
そうなると直結4WDと同じ状態となりトルク配分という概念がナンセンスとなってしまいます。

 

というわけで、直結4WDはトルク配分50:50ではないし
直結4WD状態ではトルク配分という概念を持ち出すこと自体がナンセンスという話でした。

それにしても、いくらディファレンシャル機構についての理解ができていないからといって
何故こうもトルク配分という概念を持ち出して誤解をしてしまうのか
そのあたりについての考察と前後トルク配分の意味について次回は書いていきましょうかね。

|

« 新書「なぜオナニーはうしろめたいのか」を読了 | トップページ | 今日は蕎麦の気分でしたが大失望の麺紀行となってしまいました »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 新書「なぜオナニーはうしろめたいのか」を読了 | トップページ | 今日は蕎麦の気分でしたが大失望の麺紀行となってしまいました »