新書「本能」を読了
中公新書の「本能 ――遺伝子に刻まれた驚異の知恵」小原嘉明著を読みました。
本書の「まえがき」には次のように書かれています。
(以下引用)
動物が繰り広げる超能力ともいうべきこれらの信じがたい行動を、動物は一体どのように
して身につけたのだろうか。一説にそれは本能だといいます。動物は生まれながらにして、
このような超能力を授かっているというのです。しかしこの説明に十分に満足する人は必ず
しも多くはないのではないでしょうか。それは科学的にすっきり説明できないことを、本能
という言葉で包み込み、単に問題の本質を覆い隠しているだけのことではないか。皆さんの
中にも、そんな疑問を抱く人は少なくないと思われます。 (引用終わり)
確かに、人間も含めた動物の様々な行動について「本能」であると理解していることも多いし
「本能」という言葉で分かったような気になってそれ以上考えようともしなかったですが、
よくよく考えると遺伝子のどこにどのようにしてそれが入れ込まれているのかなど
不思議というか信じられないようなことだなと疑問に思ってしまうわけです。
では、その疑問に対してこの本がばっちりと答えを与えてくれるかというとそんなことはありません。
そもそも、人間も含めた動物の身体の構造や機能についても遺伝子が設計図ともいわれるわけで
最近は急速のその解明が進んできているとは言ってもそれでもまだまだ謎だらけなわけですから
本能と言われる行動と遺伝子の関係についてもまるっきり科学的に解明されていないということです。
ですが、本書では動物や人間の本能としての行動などについてあれこれ紹介しています。
そして、それらについて科学的に実験して、練習や学習などの後天的に習得した行動なのか
それとも本能と言われる生まれながらに備わっているものなのかを研究した結果や
少し分かってきた詳しいメカニズムなどを解説しているというような内容になってます。
例えば渡り鳥などについて次のようなことが書かれています。
(以下引用)
プラネタリウム内で行った実験によって、ルリノジコは夜空の星を手掛かりにして渡りの
方位を見出すことが分かりました。ルリノジコは天球の回転中心、つまり北極星の近くのお
おくま座やカシオペア座など、複数の星が作る星座パターンを手掛かりにしていることが分
かったのです。つまりルリノジコは夜間にゆっくり回転する星座を見て、その回転中心を北
と認知し、これに基づいてどちらの方向に飛び立つかを決定します。 (引用終わり)
昔は鳥には第3の目とも言われる器官があってそれがコンパスみたいな機能をはたして
それによって方位を決めているのだなどと聞いたことがあって
ボクは「そうなんだぁ」と疑うことなく信じてましたけど、
第3の目が全否定されているわけでもないけど星座の回転だとは驚愕ですね。
しかも、鳥や昆虫はみんなそうなのかというとそうではなく種によって違っているそうです。
ホシムクドリやハトやミツバチは太陽を羅針盤にしているとのことで
体内時計を用いて太陽の動きを補正して正しい方位を得ているのだそうです。
人間でもそのような知識を学習して簡単な道具とかを使えば方位は分かりますけど
それを先天的に身に着けているとは驚異的と言えるかもしれません。
ただ、ボクも若い頃は深夜に山の中の知らないクネクネ峠道をあちこち走り回っても
だいたいの方位は掴めていたので(ナビに頼るようになってからはすっかりダメですが)
これが本能なのかどうか分かりませんが人間にも少しは残っているのかもしれませんね。
少なくとも古代の人は体内時計も含めてもっと本能に近い能力を持っていたかもしれません。
それにしてもプラネタリウムを使って実験したなんていうのもその手があるのか、と驚きます。
そのような科学的実験の面白さなども本書を通じて知ることができるのも興味深いところです。
そして、本能と遺伝子の関係はまったくと言っていいほど解明されていないと書きましたが
それでも本書では脳や神経伝達などの仕組みなど分かってきていることまで書かれていて
そこもまた興味深く読める内容となっています。
まぁでも全部紹介してしまうのはやめましょうかね。
その代りというわけでもないですが、人間の下ネタともいえることを紹介しておきましょう。
(以下引用)
異文化の下で生活してきた男に観察されたこの好まれる異性像は、これが文化に左右され
ない生得的性質、つまり本能的性質であることを示唆しています。換言すれば若いことと、
細いウェストと大きなヒップを好むこの性質は、祖先の男にとって何らかの生殖上の意味が
ある性質であることを示唆しています。 (引用終わり)
まぁ好みは人によって違うし後天的に経験によって変わってくるところも多いでしょうけど
なんとなくはさもありなんという感想はもちますかね。個人的にはあまりに大きな……
ちなみに、くびれは妊娠してないこと・処女であることを示唆するからだそうです。
では女性はどうかというと、これも書かれています。
(以下引用)
一方、女は男ほどに男の肉体的特徴を問題にしません。研究によると、女が好む男にも異
文化を通して共通する特徴が認められています。まず女が気にする男の特徴のひとつは男の
年齢です。いろいろな文化の下で生活している女が共通して好んだ男の年齢は、自分よりも
年齢の高い男です。女が好む男は平均3歳年上の男でした。
女が好む男の特徴あるいは条件の2つ目は経済的能力、つまり収入です。(引用終わり)
どうして女性が年上の男性を好むのかについては明確な理由が書かれていなかったのが残念ですが
まぁ平均3歳上というくらいだと見た目では誤差範囲なのかとも思えてしまいますけど
10代で考えると女性より男性の方が発育は遅いので古代の人類にとっては当たり前かもですね。
ましてや、男の価値は収入というのはまっ納得するしかない話ですし
無収入の早期リタイアした人間にとっては哀しい話ではありますね。
もっとも還暦間近のオッサンにとってはどうでもいい話でありますが……(爆)
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