鷹目WRX STiのマガジンXの記事を紹介
21世紀初頭のスバル混迷時代を象徴するような2代目インプレッサについては
前々回の44S、そして前回の1回目・2年目のC型MC車、通称涙目インプのマガジンXの記事に続き
今回は2回目・5年目のF型MC車、通称鷹目インプのマガジンXの記事を紹介していきましょう。
これはマガジンXの2005年10月号の「ざ・総括。」になります。
インプレッサ・シリーズ全体の評価ではなくWRX STiグレードに絞った評価になっています。
それにしても、その記事のサブタイトルは「『混迷スバル』の象徴」そのものズバリなのが凄いですな。
冒頭にMC車でも扱うことを次のように弁明しています。
(以下引用、改行位置変更)
編集部(=以下編) スバル・インプレッサのMCです。普段、この企画ではまっさらのニューモ
デルかFMC(フルモデルチェンジ)を扱うのですが、スバル車は「どこがどういうふうに変わっ
たのか」を気にしている熱烈なファンが多く、「MC車でも評価座談会をやってほしい」という要
望が数多く寄せられます。そこで、スバル車はMCもフォローしようということになりました。
(引用終わり)
これ自体はありがたいことですね。
もっとも混迷・迷走しているから記事にしやすいし読者の注目も集めらるって部分もあるでしょうけどね。
それでは、先ずは2回目の大幅フェイスリフトということでその辺のことから紹介していきましょう。
(以下引用、改行位置変更)
エ 今回は大して中身は代わっていないんじゃない? 重要テーマはフロントマスクでしょ。R2
に始まった「スバル顔」、スプレッドウィンググリルって言うらしいけど、あれにするのが最大の
目的じゃない?
編 今回も細かいところは結構手が入っているようです。(中略)
T1 べつにMCだからという理由で変えなくてもいいんだよ。「顔だけ変わりました」でもいい。
変えるならきちんと目標を定めて、何かプラスの効果につなげてほしい。結論から言えば、STI
系はこれまでのモデルより運転しやすくなった。おそらく、一般のドライバーなら「MC版のほう
がいい」というだろう。しかし、それは舵角速度が速めで舵角も大きい領域。高速高G領域で加減
速のあるシチュエーション。つまりワインディング路とかサーキットで、スパッ、スパッとステア
リングを切るような運転はしやすいし、ハンドリングの傾向は少し穏やかになった。でも、2代目
が登場した当初の、あの心地よいドライビング感覚はない。ランエボが軌道修正したのに、インプ
レッサは先代ランエボの方向に足を向けてしまった。
エ (中略)販売店は2代目の最初の丸目ヘッドライトを「カッコ悪い」と言った。それで顔を変
えた。今度はアンドレアス・ザパティナスさんがやってきて、顔のアイデンティティを持たせたい
ということになり、また顔を変えた。(中略)
エ それと、営業部隊が「サーキットの走行タイムでランエボに負けているから売れない」と、バ
カなことを言いだした。それで筑波だニュルブルクリンクだのラップタイムを競うようになった。
そこからインプレッサはおかしくなった。 (引用終わり)
「MC版のほうがいい」というのは誉めているのか貶しているのかよく分からない表現ですね。
まぁこの後をじっくり読んでいくと結局はどっちもどっちで悪いということのようですけど。
それとスタイリングの顔については流れはそんなところでしょうけど
スプレッドウィングスグリルの張本人はアンドレアス・ザパティナスさんではなく
コンサルティング会社のフォーレ社というのが本当のところですね。
このフォーレ社はアウディをプレミアムブランドにするのに貢献したことからスバルがすがったもので
ザパティナスさんは単にダシに使われたという恰好でしたね。
ここからAWDの話が結構長く展開されていくのですが
このブログ記事でもゆくゆくはAWDの具体論を書いて行こうと目論んでいるので
その時にはこの内容が役に立つかもしれないので、長文引用しておこうと思います。
(以下引用、改行位置変更)
チ だから、2代目インプレッサの最初は前輪45対後輪55くらいのトルク配分だったものが、目玉
が変ったときに前35対後65に変わった。明らかにサーキットのドライ路しか考えていないトルク配
分だよ。コーナーで、リアから押してやる。たしかにパワーをかけたときの旋回姿勢はつくりやす
いけどね。
E1 この手のFF乗用車の重量配分は前輪65対後輪35くらいです。フル加速しても、接地力配分
では前50対後50がせいぜいです。しかしスバルはインプレッサに前35対後65という駆動力配分を
設定した。つまりパワーオーバーステアを使うということです。
T1 レーサー兼試乗レポーターのような人たちが「アンダーステアが強いからラップタイムが遅
い」と言うから、一般ユーザーも同じことを言い出し、メーカーも商売根性を出して、その声に乗
ってしまった。2代目の最初の駆動力配分でよかったんだけどね。
チ ランエボみたいに、アクセルを踏んでいれば曲がるクルマにしちゃったんだよね。2代目初期
のインプレッサは、たしかビスカスカップリングだったよね。(中略)ビスカスのいいところは、
パッシブな制御だから反応が常に一定で走りやすい。
T1 そうなんだよ。いまのDCCDはオートモードがあって、ターンインでは離しておいて、駆
動力がかかるとロックに近付ける。スリップ率が大きい領域でもロックに近付ける。フリーからロ
ック、ロックからフリーという制御をコーナリングの途中でやられると挙動が変わる。(中略)
E1 そう。T1さんのように巧いドライバーは、自分で車両姿勢をつくる。だからビスカスでい
い。
チ (中略)でもね、フルタイム4WDの全天候性能を活かしたセッティングじゃないでしょ。ド
ライ路のサーキットで飛ばしたい人には、そのための特別な仕様を用意すればいいわけで、こんな
アブナイクルマを市販モデルですと言って売る必要はない。
エ さすがに、今回のMCでは前後輪の駆動力配分を前41対後59にして、いままでの尖ったところ
は抑えてきた。開発陣としても自然なコントロール性能への回帰をねらったということかな。
T1 いや、尖ったところを少しまるめただけで、傾向は変わっていない。ステアリングを切り始
めたら、それを止めるタイミングをすぐに考えて行動を起こさないと、いきなりタイヤのコーナリ
ングパワーが立ち上がる。ヨーがオーバーシュートする手前でドライバーがヨーを止めなければな
らない。そういう走り方をする人は絶賛するだろうが、危ないクルマだよ。
E1 街乗りの速度域では、これが市販車かと疑う動きだね。ゆっくりした舵角速度だと、足が突
っ張ったまま微少なストロークが出ないし、60km/hあたりでも、とにかく足だけポンポンとハ
ネまわる。ステアリングは、ギアのコストダウンをしたのではないかと思うくらいに微少舵角での
反応がガサツで、ゆっくりとしたキレイな操舵はできない。 (引用終わり)
4WDの部分のところは涙目の話が長くて今回の鷹目の話と混乱してしまいそうになりますが
まぁ技術的な話や設計思想としての話ではほとんど的を得ていますね。
そこら辺の詳しいところについてはこのブログではまたAWDの記事のところでするつもりですが
この頃にはボクは社内ではリア偏重トルク配分については散々批判を繰り返して
その危険性も何度も指摘していましたが、それはあくまでも先行開発としてであり
そして量産開発ではほとんどそれは無視されて周りはリア偏重トルク配分信者ばかりでしたね。
なのに、この鷹目ではリア偏重トルク配分を少し緩和していたんですね。どうしてでしょう?
記憶になかってですし、そもそも直接関与してないので知らなかったのでしょうが……
まっ、でも少しくらいリア偏重トルク配分を緩和したからといっても
接地荷重配分以上にリアにトルク配分をしてる限りは全開パワーオンで
リアから滑り始めるのは変わらないし危険であることにも変わりないですけどね(汗)
そして、4WDだけの問題ではなくサス設定も全部含めて走りの資質があまりに酷いという評価ですなぁ。
このF型を北海道美深の雪上テストコースで(先行開発の目的で)走行したことがあったけど
パワーオンするとまぁどこにすっ飛んで行くか分からないようなジャジャ馬でしたね。
直線ですらまっすぐ走らないし高速コーナーでも常にフラフラして落ち着かない。
でもね、まっすぐ走らないことを前提に最初から常にハンドルを左右に小刻みに振りながら走ると……
これが何だか分からないけどなんとなく小刻みにフラフラしながら走れちゃうんですよね。
あたかも、ボタン操作だけのコントローラーでレースゲームでもやっているように
右ボタンと左ボタンを小刻みに連打しながら走らせているようなものですかね。
こりゃもう実物の車の運転じゃないですね。呆れて笑っちゃいましたよ。
では、F型=鷹目インプのまとめはどう書いてあるでしょうか。
(以下引用、改行位置変更)
T1 (中略)スバルのテストチームは何人か知っているが、かれらは与えられた素材の範囲内で
設計側の要求を満たすセッティングしかやっていないんじゃないかな。(中略)
E1 富士重工の社内も混迷の極みなんでしょう。竹中社長は社内を掌握できていない。
エ 良いか悪いかではなく、掌握することが大事なんだよ。利益さえ出ればいいというトヨタを我
われは非難しているけれど、スバルは利益すらたいしたことがない。
T1 清貧が似合う会社なのにね。妙に気取ろうとしている。このままだと先はないように思うな。
(引用終わり)
実験チームはほとんど個人個人がしっかり考えて開発する、セッティングするという状態ではなく
上の人がヨシと言うかどうかだけであり、また上の人が指摘した事項だけを直すような
そんな開発になってしまっていたんだと思いますね。
しかも、上の人というのが一人ではなく何人もいてそれぞれ言いたいこというからまとまりもない。
いや、詳しく知りませんけど傍から見ていた印象でね。
そして「先はないように思うな」というのは間違いないことでもありますが
このマガジンXが発売された直後くらいに富士重工の筆頭株主はGMからトヨタになっちゃったんですよ。
そこで大きく変わり始めたんですよ。
トヨタに言われて変わったのではなく社長も変わって富士重工が自ら変わって行ったんです。
その意味でもこの鷹目インプが混迷の極み=頂点だったのは歴史的にも事実と言えるでしょうね。
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