文庫「伊集院大介の私生活」栗本薫著を読了
講談社文庫の「伊集院大介の私生活」栗本薫著を読みました。
昭和63年(1988年)発行のやたら古い本ですが
おそらくリサイクルショップで何年も前、たぶん早期リタイアよりずいぶん前に
何を思ったのか適当に手に取ってしまった本だと思います。
その後、随分と放置状態でしたが、前回読了の本と“伊集院”つながりで読んでみました。
ただ、伊集院大介って誰? 伊集院静ではないしもちろん雑学芸人の伊集院光でもないし(笑)
誰だか知らないけど“私生活”、しかも昭和の頃のを覗き見するのも面白いと思って買ったのかな
実際には伊集院大介という人物は実在していなくて
ミステリー作家である著者の栗本薫が作品中に登場させる名探偵・伊集院大介としての存在だそうです。
その栗本薫著の他の小説も読んだことがないのでどんな作風なのかも知りませんし
そこで伊集院大介がどのような人物としてどんな活躍をしているのかも知りませんです。
いずれにせよ、この本の中では伊集院大介が第三者として周囲から見て
こんな人物であるという形で描かれています。
なかには、伊集院大介の伝記作家という立場で長年のつきあいのある森カオルという女性が登場し
彼女から見た伊集院大介とのやりとりなども多く出てきます。
その森カオルが現実にこれを書いている栗本薫の投影であるわけなのでややこしいというか
どこまでが完全なフィクションというか妄想なのかどこかに著者の経験が反映されてるのか
それらも含めて想像しながら読むのもまた面白みのひとつなのかもしれないです。
かといって、後から調べてみようなどとはまったく思いませんでしたけど。
さて、タイトルに“私生活”と書いてありますが、その探偵の私生活が暴かれているわけではありません。
短編のミステリー小説というか結局はその探偵・伊集院大介が活躍する小説が幾つか載せられてます。
その中のひとつに「伊集院大介の私生活」という短編があり
おそらくそれを本書のタイトルにもしただけのことでしょうし、
その短編小説にしても、伊集院大介の奇しい私生活を追ってみたら実は私生活ではなく
ある事件の解決のために行動していたことだった、みたいな話でした。
そんな謎めいた伊集院大介についてはあちこちにいろいろと描かれているのですが
ちょっと面白いなと感じたのは以下のところです。
(以下引用)
彼は、退屈する、ということを、知らぬみたいだった。ぼんやりとダベってはタバコを吸い、
またダベってはコーヒーをいれ、いちばん好きなのは、町をゆく人をじっとみていたり、アリの
行列をしげしげ観察したりすること。眠っているのと、起きているのと、そう差のないようにみ
える。 (中略) なまけている、といっても、そもそも
勤勉に立ち働いているときなどほとんどないのだから、なまけ者というにもあたらない。要する
に、放縦に波のまにまに漂うように生きているのだ。その傾向は、何だか年々、いっそうひどく
なるように思われる。 (引用終わり)
なんだか早期リタイア・セミリタイア生活の目指すところの理想なようなもんじゃないか(笑)
実際には彼=伊集院大介は探偵業をしているので働いていないとは言い切れないのだけど
探偵依頼者がいてその報酬を得て働いている様子ではなく
好き勝手に首突っ込んで事件解決をしているだけでそれで報酬を得ているようでもなく
どうやら遺産を食いつぶして生活しているだけのようなので
探偵はもうほとんど副業を通りこして単なる趣味みたいなようにも思えるのですから。
それにしても、著者は普通の人は退屈するものだという前提で
変わり者の伊集院大介は退屈を知らない人として描いているのも面白いです。
ボクなんかも退屈するというのがないですからね。その点ではボクも変わり者なんですかね。
確かに仕事で時間だけ拘束されてただじっと居るだけとかならボクも退屈するでしょうけど
少なくとも24時間自分の意思で何をするかを決められる今となっては
退屈しようにも退屈になりようがないというのが実感ですからね。
まぁこの辺が早期リタイアに向いている人とそうでない人との差なのかもしれないですが……
それから「勤勉に立ち働いているときなどほとんどないのだから、なまけ者というにもあたらない」
というくだりも面白い発想だと感じますね。
勤勉に働く人/働かなければならない人が怠けているとなまけ者になるという考えですかね。
そういう理屈ならボクももうなーんも働いてないけどなまけ者ではないということですね(笑)
“放縦”=何の規律もなく勝手にしたいことをすること。というのは初めて耳にした言葉ですが(恥)
「放縦に波のまにまに漂うように生きる」うーんやっぱり理想的ですねぇ。
座右の銘にでもしたいくらいです。
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コメント
お久しぶりです。
元伊勢崎税務署裏の独身寮に住んでいたB10Mです。
栗本薫の名前が懐かしく反応してしまいました。
彼女の小説、エッセイは40~30年前にハマって読みまくっていました。
(ご存知かもしれませんが当時クイズ番組でキャプテンをしていた中島梓さんの別名です)
ミステリー作家でSF作家、エッセイスト、その他多数の肩書を持っていた方です。
永井豪イラストの魔界水滸伝、途中で死んでしまったので他の方が引き継いでいるグインサーガ等が割とメジャーです。
伊集院大輔シリーズ、ほぼ忘れてましたが2作目?の優しい密室 というのだけ覚えています。タイトル含めて傑作だったような記憶があります。
ブックオフ100円コーナーにあったらお勧めです。
エッセイもいい感じで読めるのですがレッドツェッペリンを赤い飛行船としたタイトルのエッセイがあり、ガッカリしたのを覚えています。
投稿: B10M | 2021-05-18 06:27
>B10Mさん
中島梓、なんとなく記憶にあります。魔界水滸伝も聞いたことあるかな。
かなり多方面でご活躍された方なんですね。
知らなかったのが恥ずかしくなってきちゃいました(汗)
投稿: JET | 2021-05-18 07:09
>JETさん
こんばんは。 B10Mです。
凄いレスポンスで返されていたんですね。
昨日は眠くて速攻寝てしまいました。
私も読み返してみたくなってきました。
週末はブックオフに行ってみます。
投稿: B10M | 2021-05-19 20:52
>B10Mさん
レスのタイミングはたまたまです。
もう高齢者なので基本は早起きなんですけどね(汗)
ボクもコロナ禍でブックオフはご無沙汰になってますので久々に行ってみようかなと思ってます。
別にコロナ禍とは関係ないはずなんですけどね。
投稿: JET | 2021-05-19 21:20