文庫「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」を読了
日経ビジネス人文庫「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」
大阪大学ショセキカプロジェクト=編を読みました。
3次元幾何学や位相幾何学(トポロジー)の入門解説書みたいなものかと思って買ってきましたが
それに近い話も一部載ってますけど、大半は全然違う話でした。
元々は大阪大学の学生らが企画して出版しようという大阪大学ショセキカプロジェクトの中で
本のタイトルにもなっている「ドーナツを穴だけ残して食べる方法は?」という問いを題材にして
大阪大学の様々な分野の教員らにそれぞれの意見を寄せてもらい編集したもの(2014年)であり、
それを文庫化(2019年)したのが本書であるということです。
「おわりに」に「1日もあれば読めてしまう」と書かれていますが400ページ近くあるので
平均的なペース(600字/分)で読み続ければ確かに7時間ほどで読めるのかもしれませんが
難解なところもあるしそんなに集中力は持続しませんのでそれなりに日数を要しましたね。
ボクが最初に勘違いしてこの本を手に取った数学に関連したこととして
数学の准教授は次のように書いています。
(以下引用) 本当に不可能なのであれ
ば、不可能であることの理由を用意する必要があると考えるのである。 (引用終わり)
と断った上で、n次元空間の話からいちおうの答えを導き出しています。
ボクの予想通りに低次元トポロジーなどの言葉も出てきます。
また、大学工学部出身でありかつて自動車エンジニアであったボクとしては工学的思考は馴染み深く
その環境・エネルギー工学の准教授は次のように書いています。
(以下引用) 多くの人は問題を正面から受け取り、それに対する答え
を考えていく、特に工学系ではそういった一見地道に見える作業が、よりよい生活の貢献に
重要な役割を果たすものである。 (引用終わり)
とした上で、ドーナツの内側を限界ギリギリまで残して切る・削ることができるかを説明しています。
おそらく、ボクもまずはこのような思考をするであろうということもありますし
「問題を正面から受け取る」というのは当たり前であると考えるのですが、
どうも文系の人(教員)となるとそれが当たり前ではなくなるのが面白いところです。
もっとも、理系であっても応用化学の准教授では
ドーナツ状の化学式や分子構造からシクロデキストリンを連想してからその穴を残す説明していきます。
そこは問題を正面から受け取るというより問題を代用しているだけとも言えますが
そこにはなかなか興味深いことも書かれていましたので紹介しましょう。
(以下引用) ワサビをすりおろすと出てくる、
あのツーンとする辛み成分は揮発(蒸発)しやすいため、そのままの形では保存が困難で
あるが、シクロデキストリンの穴の中に取り込ませることによりその揮発が抑えられ保存
が可能となる。 (中略) 空中に漂う悪臭物
質をシクロデキストリンの穴の中に閉じ込めて臭いを防いだりする(マスキング作用とい
う、例えば、市販の消臭剤‘ファブリーズ’にシクロデキストリンのマスキング作用が利
用されている)ことにも使われている。 (引用終わり)
と、別に正面から回答されてなくてもつまらないわけではなく楽しめる本になっています。
では文系の人はどうなのかというと、法学専攻で国際公共政策研究科の教授の場合は冒頭で、
(以下引用)
本章では、「ドーナツの穴だけ残して食べる方法」という問いに直面した法律家(=私)の行動を
紹介することを通して、法学の特徴や思考様式を描き出す。 (中略)
法が詭弁や擬制(fiction)や嘘を用いて発展してきたことを示そ
うとする。いやはや、呆れた人だ。このような法律家の隣には住みたくないものだ。 (引用終わり)
と自虐的に書いたうえで、完全に問いをすり替えて別の議論に持って行ってしまってます。
ただ、途中で「ドーナツ事件」というクッションの商標権侵害の裁判について言及していて
なんとかドーナツつながりの体面だけ繕っているという感じです。
まさに著者自身が書いている「ご飯論法」というようなことになります。
※ご飯論法:「朝ごはん食べた?」に「(パンを食べたがお米のご飯は)食べてない」と答えること
また別の法学専攻で国際公共政策研究科の准教授の場合は冒頭で、
(以下引用)
そこで、以下では、現実に存在した「トンデモ訴訟」として有名な、マクドナルド・コ
ーヒー事件(Libeck v.McDonald's Restaurants)の背景とその結末について検討する。
(引用終わり)
これまたドーナツとは無関係な話を展開していってしまっています。
マクドナルドでもドーナツ食べられるけどやはりミスタードーナツでしょ(笑)
ちなみに、マクドナルド・コーヒー事件とはアメリカで買ったコーヒーをこぼして火傷した女性が
マクドナルドを訴えて総額3億円近くの賠償を勝ち取ったという事件・判決のことです。
また、数字(数学)を扱う経済学の准教授ですら冒頭で以下のように書き始めてます。
(以下引用) 本章で
はドーナツ化現象の背後にある日本の経済成長やそれを可能にした戦後日本経済システム
について解説する。 (引用終わり)
ここでも単に「ドーナツ」という言葉じりだけの話でまったく別の議論に持って行かれます。
やはり経済学者というのは理系的思考はせずにあくまでも文系だというのがはっきり分かりますね。
※ドーナツ化現象:大都市の中心市街地から郊外への人口移動が進んだ現象。
という具合で、この本全体では「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」にまともに答えているのは
理系の一部教員だけという感じで、ある意味で肩すかしを食らったような内容でした。
ちなみに、ボクだったらやはり正面から考えることにしますが
「穴だけ残して食べる」ということなのでドーナツ本体は全て残さず食べなければなりませんが
一方で穴は全て残さなくとも穴の一部が残れば良いと解釈できますし、
その穴とは真空でなくてもよく空気や水が入っていてもボルトが入っていても穴は穴のはずです。
なので、ナプキンでもなんでも固体状の物体をドーナツの穴に入れてからドーナツを食べ切れば
そこに穴の一部を成していたものを残すことができます。
まっこれもある意味で言葉尻を捉えたこじつけの小理屈なんですけど
いちおう問題のすり替えはしていないし、論理的には破綻していないと思います。
いかがでしょうか?
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コメント
私はこの本を読んだことがない(ので正解を知らない)のと、文系なのでアレですが、どんな食べ方をしたとしても「ドーナツの穴」というドーナツ本体ではない領域は絶対に食べることができないので、普通にこぼさず全部食べればよいのでは、と考えてしまいました。。。
投稿: たみ | 2021-04-19 22:53
>たみさん
正解は書いてないし正解というものがあるわけではないんですね。
なので、たみさんの案も十分に正しい回答だと言えるかもしれません。
ただ、理系だとそれを証明したくなるというか
ここがドーナツの穴(の一部)だったと証拠を指し示したくなるのでね(笑)
投稿: JET | 2021-04-20 00:54