新書「自由の限界」を読了
中公新書ラクレの「自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義」を読みました。
聞き手・編 鶴原徹也 読売新聞東京本社編集委員が
世界の著名な21人にインタビューした内容をひとり語りの形式としてまとめたものです。
インタビューは2015年くらいからコロナ禍のつい最近までに渡っていて
なので直接会って話を聞いたものやリモートのものなのも含まれていますし
1人に何回もインタビューしたものや一度切りのものまで様々です。
そして、その知性21人には、エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ、マルクス・ガブリエル、
ユヴァル・ノア・ハラリ、ブレンダン・シムズ、リチャード・バーク、スラヴォイ・ジジェク、
ジャンピエール・フィリユ、タハール・ベンジェルーン、アミン・マアルーフ、
マハティール・モハマド、プラープダー・ユン、トンチャイ・ウィニッチャクン、張倫、
パラグ・カンナ、岩井克人、ジャレド・ダイアモンド、ニーアル・ファーガソン、
ジョゼフ・スティグリッツ、ティモシー・スナイダー、パオロ・ジョルダーノとなっています。
これらの中にはボクでも著書を読んだ方もいるし(買ったけど未読のもあるけど(汗))
テレビで名前と顔と少しばかりのその考えを知っている人も多かったですけど
今回初めて知るような人も多かったのも事実です。
特に自由と民主主義ということではボクなんかは欧米とそれに反するチャイナなどが頭に浮かびますが
むしろ中東の方が自由も民主主義もなく不安定で切迫した状態が続いているわけなので
そちらに比重が置かれているインタビューもかなり多かったです。
このあたりのことはアジア以上に根が深くてややこしい問題ですが
ボクはほとんど知識もなく理解もしていなかったことばかりですから
目から鱗なことが多く書かれていました。
とは言え、恥ずかしながらどこか遠いところの話と考えがちの自分も居てしまうのですが……orz
なお、本書では結論めいたものがあるわけでもないし編者の主張があるわけでもありません。
でも、本書のタイトルを決めた理由など「はじめに」に編者が以下のように記しています。
(以下引用)
ただ「聞き手」としての印象を言えば、フランス革命の自由・平等・博愛という理念のう
ち、米英流のグローバル化と共に自由が過剰に肥大化した。これが現代の深刻な問題をもた
らしている。禅の公案のようですが、自由を守るために自由を抑える必要がある。そうした
思いから本書の題名を「自由の限界」としました。 (引用終わり)
その発端となったフランスについてですが、
フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は以下のように言っています。
(以下引用)
歴史人口学的にはフランスは「自由・平等」を志向する
地域と「権威・階級」を重視する地域に二分できる (中略) 前者はカトリック信仰を一八世
紀半ばに失い、仏革命を支持した。後者は信仰を維持し、革命に反対した。ナツスドイツに
抵抗したのは前者、協力したのは後者だ。二つのフランスがある。 (中略)
意外かもしれないが、仏革命に反対し、ナチスドイツに協力したようなフランスが今日、
国政を支配し、社会の主流をなしている。 (引用終わり)
二つのフランスと聞くと白人と移民との分断かと思いきや仏革命からとは驚きですね。
トッド氏はドイツに支配されているEUに対する不満や問題も指摘していますが
日本については少子高齢化を問題視していてそれは単に労働者不足とかの次元ではなく
高齢者は新しいことを創造し刷新できないから社会が硬直化するのが問題だとしています。
もう少しで高齢者になるボクにも耳が痛い話ですが政界に居座るオッサン見てるとさもありなんですな。
それにしても、トッド氏だけでなく大半の人は日本について
移民を受け容れなければ衰退の一途をたどるという論調ばかりですね。
個人的には移民反対の立場でもないですけど移民に頼って経済発展をしなくても
現状維持や縮小均衡を探ってもいいのかなと後ろ向きな気持ちもあるんですけどね。
という考えを持つこと自体がすでに老害なのかもしれませんが……
そして、EUを支配しているドイツに関して、アイルランドの歴史家のブレンダン・シムズ氏は
ヒトラーについて次のような見方をしていて面白いです。
(以下引用)
ヒトラーが最大の脅威と受けとめたのは何か。定説によれば、第一次大戦末期に出現した
ソ連であり、共産主義です。私の考えでは、脅威は世界を動かしていた米英両国であり、米
英によって立つ国際金融資本です。ナチスの全体主義はこの最大の脅威に対抗する、ヒトラ
ー流の答えでした。ヒトラーは金融資本を握るユダヤ人を嫌悪し、反ユダヤ主義に染まりま
す。 (引用終わり)
ヒトラーの全体主義は第二次大戦の敗戦で崩れ去りますが
米ソ冷戦で勝利した米英主導の新自由主義はチャイナの全体主義に対峙することになります。
むしろ、政治は権威主義・全体主義なのに経済はグローバル資本主義とすることで
チャイナは新自由主義を乗っ取りかねないとも捉えられます。
なんにしても市場の自由は拡大し、市民の自由は縮小する方向に向かっているようです。
長期に渡りマレーシア首相に就いたマハティール・モハマド氏は国際会議で欧米に対して
「君らの民主主義は我らには不向き。強要するのは傲慢だ」と何度も噛みついたそうですが、
チャイナに対しては以下のような考えを持っているようです。
(以下引用)
中国には世界を支配する野心はないと思う。
我々は、中国が豊かな大国となった現実を受け入れるべ
きだ。金持ちの中国から我々は利益を引き出せる。 (引用終わり)
日本もチャイナに対して同じような認識を持てばよいということのようです。
まぁ実際にそうなんですけど、チャイナにだけ依存するようになってはこれまた問題ですよね。
日本には以下のような話をしています。
(以下引用)
日本は国際紛争の解決手段としての戦争を非合法化した唯一の国だ。日本はアジアの一部
であり、アジアは世界の一部だ。日本はアジアに属することを自覚し、中国、韓国と競争し
つつ、協調し、協力する手本を示して欲しい。 (引用終わり)
マハティール氏は「ルック・イースト」と称して戦後日本の復興を手本にして
マレーシアの発展を成してきたきた首相ですから
(その一方で戦中の日本軍占領下での苦汁と挫折も味わった人ですが)
日本のアジアでの果たすべき役割に対する期待も大きいのでしょうね。
なかなか難しい問題なんですけどねぇ。
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