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20世紀末の「スバル開発理念」は等閑視されていた

さて、このスバル・カテゴリーの記事もボクが2000年秋に謎のAWD-CoEという部署から
SJ14(車両研究実験第1部 車両研究実験第4課)の操安乗り心地実験部署に出戻りとなり
それにともなって勤務地が群馬県太田市から栃木県佐野市(当時は葛生町)の
SKC(スバル研究実験センター)に変更になったところまで話は進みました。

その後、テストコース内外での業務中の交通事故のカミングアウトや
遠距離クルマ通勤の話などで道草ばかり食っていて
出戻りして何をしたかの話題に辿りつきませんが……

今回の記事はその2000年秋から時間を巻き戻して
1998年1月に社内のスバル開発本部にて宣言された「スバル開発理念」を紹介しましょう。
本来なら79V(初代フォレスター)開発がひと段落したこの辺りで記事にしておくべきでしたが
何せ行き当たりばったりで記事を書いているので申しわけないけどこういうこともありますわな。
というか、不要書類を断捨離していた時にこの書類を見つけたというわけですけどね。

ボクは現役サラリーマン時代でも何でもかんでも手元に保管しておくという性格ではなかったですが
なのにこの「スバル開発理念」なるA3一枚の紙を20年ほども捨てずにいたわけですから
ボクとしてはこれはかなり重要なモノという位置づけだったわけです。

 

その「スバル開発理念」の中身を紹介する前に、当時の時代背景などを整理しておきましょう。
まず、1998年というのは、スバル360が発売された1958年(昭和33年3月3日)から
数えて40年といういちおう節目に当たる年ということです。
田中毅社長の時代ですが、スバル開発本部長は誰だったかな? Tさんだったかな?

その頃のスバル車販売は比較的堅調で特にアメリカでアウトバックやフォレスターがそこそこ好調で
それ故に富士重工の業績もそれまでの赤字続きから脱却してきた頃です。
それだけでなく、WRCマニファクチャラーズタイトル3連覇で22B発売間近であり
国内ではレガシィ・ツーリングワゴンGT-Bなど“走り”のスバルで勢いづいていた時代です。

けれども、ボクとしては既に79V開発スタート当時(1994年頃)から
このような「偏った走りのスバル」に傾倒していくのを感じ危機感も感じてましたし
それに(全否定ではないですが)反旗を翻すような形で79Vを開発していったわけですが
社内のそのイケイケな雰囲気には抗えずにさらに勢いを増していった時代ということになります。

一方でこの頃はリコール隠しや汚職事件など富士重工として不祥事が相次ぎ
また環境問題などの視点からも本来は社会的にイケイケでいられない状況になっていたわけです。

ちなみに、この「スバル開発理念」はスバル開発本部内で各部署から実行委員が選ばれて
従業員の意見聴取などを経ながらまとめていったもののようですが
当然ながらボクは意見具申はしたけど直接的には何も関わっていない内容となっています。

 

では、その内容を紹介しましょう。

  スバル開発理念

  私たちは、人をすべての出発点として
  1.独自の存在感を高め、時代を超える新しい価値を提案します。
  2.クルルマの本質である、走りの機能を追求します。
  3.車と社会の調和をめざし、卓越した環境・安全性能を実現します。

 

これをどう解釈するかは人によって違ってくる部分も多いかもしれません。
それなので「解説」も書かれていますので、それを引用しつつボクの解釈を書いていきましょう。
なお、引用部分は青字として区別することとします。

私たちは、人をすべての出発点として
 ・全ての機能や形は人を出発点として創り出されるもので、決して技術
  や物が人より優先されるようなことがあってはいけません。

スバル360が大人4名の乗員の空間を確保してそれ以外の部分に機構を配置したパッケージングとし
外観スタイルもその乗員空間を確保したものを削るのでは載せる形でデザインされたわけで
それを踏まえてのこの記述ということになるでしょう。

けれども、それが当時は当たり前になっていなかったから敢えて明記する必要があったとも言えます。
当時のスバルと言えば、ワゴン、水平対向エンジンだ、AWDだ、四独サスだと物で定義しがちで
さらにビルシュタインだ、BBSホイールだ、モモ・ハンドルだとブランド物に頼りがちでしたからね。

 

(1)独自の存在感を高め、時代を超える新しい価値を提案します。
 ・(中略)          スバル360から始まりレガシィワゴ
  ンやフォレスターに至るように、時流に迎合するのではなく常に時代
  を切り開く提案性のあるクルマづくりを実践しています。
 ・今後も単なる物造りではなく、クルマという商品を通して人々の生活
  に新しい価値を提案していく姿勢が大切です。

ここにフォレスターが出てくるのは個人的には嬉しいけど、ただ前年に発売されたという理由ですね。
それでも、79V開発では単なる操安乗り心地のいち実験部員でありながらも
スバル360以来の歴代スバル車の価値を踏まえたうえで新しい価値の提案を意識して
開発に当たってきたという自負は持っていましたから、この解説はそのまま納得できた部分です。

 

(2)クルマの本質である、走りの機能を追求します。(中略)
 ・走る・曲がる・止まるの基本性能で常に時代の水準を超えると共に、
  走りの機能を追求するために、クルマを形作るすべての要素を作り
  込んでいく必要があります。

個人的にこの解説部分は非常に残念だし、間違った解釈をされる危険性が高いなと危惧しましたね。
“走り”と書けば一般的には“走り屋”の“走り”がイメージされてしまうのではないでしょうか。
自動車メーカーの開発にいる人間だってやっぱりそのイメージに引きずられてしまいます。
ましてやWRC3連覇している時代ですから。

もちろん、本来の意図はそのような“走り”ではなく、「クルマの本質」とされているので
見栄やイメージだけのハリボテのような車作りをしないという意味であろと解釈できるのだが
やはりもう少し解説が足りていないのではないかと感じてしまうんですよね。

ただ速ければとか運転手だけが面白いというのはここでいう“走り”ではなく
乗員すべてにとっていかに安全に快適に疲れず移動できるかというのがここでの“走り”でしょうから
それがはっきりと分かるように解説されていると良かったかなと思うのですが、
既に“走り屋”的“走り”に突き進んでいる社内勢力が強かったのでそこまで明確にできなかったのでしょう。

結果的にその“走り屋”的“走り”はハンドリング・ヲタクとパワー信者を勢いづけてしまい
それはこの時から8年後の森郁夫社長による「走りの開発の封印」まで暴走する羽目になりました。
まぁ実際にはその少し前から潮目が変わってきたのは感じてましたけど、それはまた別の機会に。

 

(3)車と社会の調和をめざし、卓越した環境・安全性能を実現します。(中略)
 ・環境と安全への取り組みは最低限の義務としてではなく、積極的に責
  務を果たしていく姿勢が重要です。

(1)~(3)は重要度順になっているというわけではないのでしょうが
今のスバルならこの環境・安全、特に安全については一番最初にきてもおかしくない項目ですけど
三番目となってしまっているのは、やはりこの時代であったのかもしれません。

この時代でも衝突安全についてはスバルは積極的な取り組みをしていましたし
アイサイトの前身のADAも世に出ようかというところではありましたが
それでもすべての要素で安全を優先するという理念は薄かったでしょう。
特に操縦安定性という点においてはやはり前述の“走り屋的走り”が優先されて
走行安全性は最低限であればいいというような思考も垣間見られるような状態でしたからね。

ましてや、環境対応ということではエコ? 燃費?
スバルは“走り屋的走り”と水平対向エンジンとAWDを売りにしてんだからそんなの関係ないよ
というようなノリがはびこっていましたからね。
もう初代プリウスが世に出ていた時期だったのにねぇ。

 

まぁ、少々解説不足なところとか優先順位が違うのかなと感じる部分はありますが
全体としてこの開発理念はボクの気持ちとは概ね一致していると当時から思っていましたし
今となってはほとんどのスバルの開発者はこの開発理念をすんなりと受け入れられるでしょうが
残念ながら当時の雰囲気としては、ただ「ふ~ん」ってな感じで
ほとんど顧みられることなくおざなりにされてしまってました。

年度初めなど節目で開発部門のトップがこの開発理念を語ることもなかったですし
各部署の事務所に掲げることもなかったです。
何かの打ち合わせの機会で、ボクが「スバル開発理念に照らしておかしくないですか?」と発言しても
「何それ?」ってな反応でしかなかったくらいですから……orz

そして、ここからさらにスバルは(走り屋的)走りだ、ニュル最速だ、エコなんて関係ねぇが進んで
そこからプレミアム・ブランドを目指すみたいな身の程知らずの勘違いに突っ走っていくんですね。
まぁその辺の話はまた別の機会にでも詳しくしましょうかね。(機会があればね)

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