「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」オードリー若林著を読了
文春文庫の「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」若林正恭著を読みました。
正直なところオードリー若林が本を書いていることを知りませんでした。
本屋で何気なく目にとまって、へぇーオードリー若林も本なんて書いてるんだと知ったわけですが、
まぁ若林氏はテレビでよく観てなんか面白いというかどこか共感できるような親しみも感じるので
ちょいとどんなもんだか読んでみようかなと買ってみたというところです。
本のタイトルもなんだかよく分からなくて不思議だったのですが
カバーニャ要塞というのはキューバにある世界遺産ともなっている要塞のことで、
要するにこの本はキューバの紀行文となっていてその中で日本との対比も出てくるというわけです。
ただし、文庫化にともなってキューバだけでなく「モンゴル」「アイスランド」
さらに「あとがき コロナ後の東京」の三編も書き下ろしで追加されているので
340頁強のそれなりにボリュームのある文庫本となっています。
とはいえ、難しい表現などは一切ないのですらすらと読めてしまいますけどね。
それに、ボクはキューバにもモンゴルにもアイスランドにも一度も行ったこともないし
知人からもそれらの国々に行ったことがあるという土産話を聞いたこともないので
なかなか興味をもって読むことが出来ました。
紀行文なのであまりネタバレにはなりそうもないですが
かといって内容を事細かに紹介する必要もないでしょうね。
まず、何故キューバに旅行したのかという点ですが、
ボクなんかだと「旧いアメ車を見てみたい」とか軽薄なものになってしまうのですが(汗)
著者は亡き父が行って見たいと語っていたこともあるようですが
冒頭に近いところで以下のように書いています。
(以下引用)
日本に新自由主義は今後ももっと浸透していくと頭の良い人が本に書いていた。おま
けに、AIが普及するとさらに格差は広がるらしい。 (中略)
“みんな”が競争に敗れた者を無視してたんじゃなくて、新自由主義が無視していたんだ。(中略)
では、これがただのシステム上の悩みだったとして、他のシステムで生きている人間
はどんな顔をしているんだろう? 東京も、ニューヨークも、ソウルも、台北も、スタ
ーバックスとマクドナルドがあって、みんな同じ顔をしていた。
とにかく、このシステム以外の国をこの目で見てみないと気がすまない。このシステ
ムを相対化するためのカードを一枚手に入れるのだ。
考えるのはその後だ。2枚のカードを並べて、その間のカードを引いてやる。
ぼくが経験したことのないシステムの中で生きている人たちで、なおかつ陽気な国民
性だといわれている国。
キューバ、キューバ、キューバ。 (引用終わり)
あまりそういうことを日頃から考えてなさそうに見えた(失礼ですね)著者ですが
なかなか深い意味あいがあったようですね。
そして、往路の飛行機の機内でもこんなことが書かれてます。
(以下引用) 機内で第155回芥川賞受賞の『コンビニ人間』を読んでど
えらい衝撃を受けたので、それをきっかけに現代日本のことをぐるぐると考え始めてし
まった。ぼくが読んできたこれまでの小説の中では、コンビニで働く主人公は「そこか
ら抜け出そうともがく」存在だった。だが、ついにコンビニで働くことで救われる主人
公が現れてしまった。
その生き方は、新自由主義に対してのサバイバル方法のひとつに映った。
日本ではまもなく「勝ち組」と言われる上位数%に食い込もうとすることが、「ダサ
い」ことになってしまうのではないだろうか。いや、もしかしたらもうそうなりつつあ
るのかもしれない。 (引用終わり)
そういえばボクも『コンビニ人間』は読んだのにそんなに深く考えずに衝撃も受けませんでしたね。
ただ、著者のいう「新自由主義に対してのサバイバル方法のひとつ」というのは分かる気がします。
だいたい、大した資産もないのに早期リタイアしたボクなんかは
すでに「勝ち組」にはなり得ませんし、そういうものを意識すらしたくない状態ですからねぇ。
著者はキューバから帰ってきて東京という街で以下のようにも書いています。
(以下引用、改行変更)
この街で誰にもバカにされずに生きるにはいくつ手に入れればいい?
仕事ができて。 お金を持っていて。 ルックスが良くて。 若くて。
恋人がいて。 もしくは、結婚していて。 子供がいて。
ファッションセンスが良くて。 頭が良くて。 デブじゃなくて。
キリがない。ぼくはとっくに降りている。 (引用終わり)
若林氏にとっくに降りているといわれると???となりますけどね。
少なくとも結婚したし、お金持ってるし仕事もできているし、デブじゃないし。
ボクなんかほとんど何もないし。最近はデブになりつつあるしねorz
ちなみに、本書のタイトルはキューバでの以下の部分によるものでしょう。
(以下引用)
カバーニャ要塞で一番記憶に残っているのは一匹の野良犬だった。
真っ昼間の炎天下のカバーニャ要塞、死んでいるかのように寝そべっている野良犬に
なぜか目を奪われた。薄汚れて手厚く扱われている様子はないが、なぜか気高い印象を
受けた。 (中略)
東京で見る、しっかりとリードにつながれた、毛がホワホワの、サングラスとファー
で自分をごまかしているようなブスの飼い主に、甘えて尻尾を振っているような犬より
よっぽどかわいく見えた。 (引用終わり)
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