新書「アジアの国民感情」を読了
台湾、香港などは大陸とは別の地域として集計されていますが
当然のごとく北朝鮮はアンケートなど出来ませんから蚊帳の外となっています。
とはいえ、アジア諸国が北朝鮮をどう捉えているかは出てますけどね。
また、アンケート対象は老若男女問わずされたものも少しありますが
ほとんどは大学生だけに限って調査されたものとなっています。
従って、国民の総意とはまた違った調査結果になっている可能性も多分にあるわけですが
その辺りについて著者は以下のように考えているようです。
(以下引用)
他方で、アジア学生調査の場合、①同じ条件でサンプリングをしているため、比較可能性
が確保されている、②調査対象者が国際事情を理解した各国のエリート学生であるため、
「わからない」という回答が少ない、といった利点があります。何より、これらの学生が将
来、それぞれの国・地域のリーダーとしてアジアを牽引する存在になることを考えると、彼
らに注目してアジアの国際関係や国際心理を論じることには、大きな意味があります。
(引用終わり)
確かにそのようにとらえることは可能でしょうね。
ただ、日本のように誰でも学費さえ払えば入学できるような大学が多い国を考えると
「エリート学生」とか「将来アジアを牽引する存在」という言葉にはクエスチョンが付きますが(汗)
いや、彼らを小バカにする意図ではなく、ボク自身の学生時代を鑑みれば
国際事情なんて理解してなかったしその後もアジアを牽引する存在にはなり得なかったわけで
あくまでも他のアジア諸国の学生との対比としてクエスチョンが付くと言ってるだけですが。
そして、本書では調査結果の解釈をするに当たり5つの仮説を立てて検証するスタイルをとっています。
その5つの仮説について飛び飛びの引用になり恐縮ですが以下のように書かれています。
(以下引用)
第一は、フレーム仮説です。
私たちは、特定の社会事象を理解する際に、この事象をめぐる複数の説明のうち、いずれ
かを意識的・無意識的に選択し、これもとに判断する傾向があります。こうした理解の枠組
みをフレームと呼びます。フレーム仮説とは、私たちが他国を理解し評価する際に、こうし
たフレームに囚われているとするものです。(中略)
第二に、相互予期仮説です。(中略)
相手が自分たちを悪く思うがゆえに、自分たちも相手のことを悪く思う。自分たちが相手
を悪く思うがゆえに、相手は自分たちを悪く思う。こういった心理メカニズムの説明を、本
書では相互予期仮説と表現します。(中略)
第三に、ソフトパワー仮説です。(中略)
これらの国ぐにの大衆文化や言語の持つ魅力や、これらの国の大学が留学生を引き
付ける力などを質問していますが、本書では、こういったソフトな力が特定の国に対する評
価を高めることになっているのかを検証します。
第四に、接触仮説です。
接触仮説は、特定の国の友人や知人がいることによって、その人物がその国に対して抱い
てきた偏見やマイナスイメージが払拭され、イメージが向上するという仮説です。(中略)
最後に、ポスト冷戦仮説を取り上げましょう。(中略)
冷戦によって出来上がった認識や評価――資本主義陣営と社会主義陣営が、それぞれ自陣
に対して肯定的、相手に対して否定的な見方をする構図――が現在でも見られると想定する
のがポスト冷戦仮説ですが、この仮説がアジアで当てはまるかを検証します。(引用終わり)
このように本書では個人の主観ではなく統計的手法と仮説・検証という論理的にて書かれており
内容も多岐にわたっていてなかなか面白いものとなっています。
やっぱりそうだよなと改めて確証を得たようなことも多いですが
意外だなと思うことも浮き彫りになっていたりしていろいろと考えさせられることもありました。
それらを全て書いてしまうとネタバレになってしまいますから
1点だけ日本がアジア諸国からどう見られているかの総論的なところだけ紹介しておきましょう。
(以下引用)
アジア諸国の多くは日本に好意的な評価をしてくれています。アジア学生調査の対象とな
った多くの国・地域では、日本の影響を最も高く評価し、英米豪ほどではないにせよ、多く
の学生が日本への留学を希望しています。日本語能力は高くないものの、日本語の持つ有用
性は広く理解され、日本の大衆文化受容も進んでいます。
社会的距離という点でも、日本人は「特別扱い」されています。対日感情がよくない中国
でも「自国から出て行ってほしい」とする回答は八・八%、韓国でも三・三%と、さほど多
くありません。日本を必ずしも好意的に見ていない中国では、大衆文化受容と日本語学習が、
日本のイメージを向上することに一役買っています。 (引用終わり)
ここは主観的な「日本すごーい」論とは違いますから、まぁ素直に喜んでもいいのかなと思いますし
まぁそうだろうなぁというところでもありますね。
ただ、日本で就職したいというアジア諸国の学生はそれほど多くないというのは残念なことですな。
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