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文庫「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」を読了

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前々回と、前回に続いてまたも河出文庫の本となりましたが偶然です。
出版社にこだわりも何もありませんから(汗)
ペンギンが教えてくれた物理のはなし」渡辺佑基著を読みました。

著者は国立極地研究所の准教授でバイオロギングの手法で生物の生態を調査している人です。
バイオロギングとは野生動物に小型の記録計を取り付けて運動・行動を記録することです。
ですから、何もペンギンと会話ができて物理について教えてもらったわけではありません。
それどころか、ペンギンだけでなくアザラシやサメやクジラやウミガメや
あるいは様々な鳥類なども登場してきます。

本当はもっとペンギンにフォーカスしてどのように水中を自在に泳いでいるのかなど
生物学と物理学を融合した形でその解明に迫っているのを期待して買ったのですが
実際にはまだまだそこまでというか全然わかっていないというのが現実のようです。

バイオロギングの歴史は1990年ごろから試行錯誤的にトライし始められて
デジタル技術などの小型の記録媒体や小型センサや衛星無線技術の発達によって発展し
近年になって様々なことが分かってきつつあるという段階なのでしょう。

なお、本書は2014年4月刊行の単行本に加筆・修正され今年7月に文庫化されたものなので
その意味ではやや古い内容とも言えますが、
著者自身による「文庫化のためのあとがき」には次のように書かれています。(以下引用)

 さて、本書が出版されてから二〇二〇年現在までの六年間を振り返ってみると、バ
イオロギングの世界における革新的な変化はなかったように思う。    (引用終わり)

ということなので、安心して読むことができますね(笑)
それに、アップデートすべき情報もあったとして追記されていることもあります。
それは、動物界(哺乳類)の潜水チャンピオンについて
マッコウクジラの2035mがアカボウクジラの2992m/138分に更新されたということです。
2時間以上も無呼吸で水深3kmほども潜れるなんて想像だにできませんね。

 

幾つか面白いなと思ったことを紹介してみましょう。

まずはマグロの泳ぐ速さについてです。

(以下引用)         確かに子ども向けの図鑑の「海の動物の不思議」コー
ナーなどを見れば、マグロは時速八〇キロ、カジキは一〇〇キロ以上、カツオは六〇
キロ、などと書いてある。  (中略)
 けれども私がバイオロギングで計測された様々な魚の遊泳スピードを解析した結果、
それはとんでもない誤報だとわかった。巡航時の平均時速は驚くなかれ、でんな魚で
も八キロ以下、それどころかマグロ以外のサケだのブリだのタラだのといったほとん
どの魚たちは、だいたい時速二~三キロで泳ぐ。  (中略)
  実際はペンギンもアザラシもクジラも、せいぜい時速八キロがいいところだ。
                                 (引用終わり)
もちろん瞬間的に全力で泳いだ時はもう少し速いがそれでも巡航速度の3,4倍までだそうです。
そりゃそうだよなぁ。水中で水の抵抗に打ち勝って100km/hなんておかしいですわな。

 

次はマッコウクジラの潜水について、その巨頭の中の脳油と呼ばれるワックス状のものを
温めたり冷したりして浮力をコントロールしているとされていたそうですが、
                                  (以下引用)
  バイオロギングを使って潜水中のマッコウクジラの体の比重を測定し、潜行中と
浮上中とで比重がほとんど変わらないことを見つけた。つまりマッコウクジラは能動
的な比重のコントロールなんかしていないことを明らかにした。    (引用終わり)

世の中分からないことばかりどころかまことしやかな嘘(誤報)ばかりということですね。

そして、同じ潜水についてですが、バイカルアザラシの場合についてです。
バイカルアザラシはロシアのバイカル湖に棲むアザラシです。
ボクはそのバイカルアザラシを水族館ででも見た記憶はないのですが
他のアザラシと比べても丸々と太っていてとても可愛いらしいのですが、

(以下引用)             バイカルアザラシは世界で唯一、淡水のみに
生息するアザラシである。淡水では海水に比べて体が沈みやすいので、浮かせるため
にはより多くの脂肪が必要になる。私の計算によれば、同じ浮力を達成するのに、淡
水では海水より三割以上も多くの脂肪を身に付けなければならない。  (中略)
 結論を言おう。丸いボールのようなバイカルアザラシの体は、淡水というアザラシ
にとって特殊な環境で中性浮力を達成しようとした、長年にわたる適応の結果である。
                                 (引用終わり)

人間でも体脂肪率の低い人は水に沈むとか言われるのと同じことですね。
今のボクは人生で最高の体脂肪率になってしまっているのでプールに入ったらよく浮くかな(汗)

そして、その“中性浮力”といっても個体によっては太り気味とかやせ気味とかがいるわけですが
アザラシはそれによって潜水の仕方を変えているらしいのです。
つまり太り気味=浮きやすいので潜る時は足ひれを動かし能動的に潜るが
浮上してくる時は足ひれを止めて受動的に浮いてくるのに対し、
やせ気味=沈みやすいので潜る時は受動的に沈んでいき浮上時に足ひれを動かして泳ぐのだそうです。

まぁ当たり前といえばその通りなのかもしれないし無意識にそうなるのでしょうけど
でもアザラシが潜行中に「あれっあんまり沈まないなぁ、最近太っちゃったかな」
なんて考えてたりすると想像するとちょっと微笑ましく思ってしまいますね(笑)

 

最後は鳥の羽ばたき飛行についてですが、これはバイオロギングとはまったく関係ないのですが、
大型の鳥が滑空している時は飛行機と同様な物理・工学で説明できるけど
羽ばたいて飛行している時はまったく説明できなかったのが“前縁渦”の発見で分かってきたそうです。
                                   (以下引用)
 前縁渦(leading edge vortex)と呼ばれる特殊な渦が発生していることを発見した。
前縁渦はその名の通り、翼の前縁に沿って流れる渦である。翼の根元のほうで生まれ
た前縁渦は、ぐるぐると縦に回転しながら前縁に沿って、翼端方向に流れていき、そ
のまま翼端から剥離していく。そしてこの渦によって流体に上向きの流れが生まれ、
アマツバメの翼が上に持ち上げられていた(つまり揚力が発生していた)。 (引用終わり)

著者はこのことからペンギンの翼からも前縁渦が出ているかもしれないと考えているようですが
この部分はもう少し「物理」を持ち出して数式で詳しく説明して欲しかったかなと思います。
そうなんですよ、この本ほとんど数式はでてこないんですよね、「物理」と言っていながら……

ちょっと興味を持ってこの前縁渦をネット検索してみると
鳥類や昆虫の飛翔だけでなく植物の翼果(クルクル回る種子)の飛翔にも関係し
さらには飛行機の三角翼の理論にも応用されているみたいなのでなかなか面白そうな話ですね。

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コメント

河出文庫を出してる河出書房新社はなかなかユニークで話題になる本を出版することで有名です。
JETさんの世代でしたら「なんとなくクリスタル」田中康夫や「サラダ記念日」俵万智などが知られてます。

投稿: おおたけ | 2020-11-16 19:16

>おおたけさん

へそ曲がりな性格なもんでベストセラーとか話題の本とか読まないのですが
「なんとなくクリスタル」も「サラダ記念日」も河出書房新社でしたか。
「サラダ記念日」はなんとなく角川だというイメージでしたけど(汗)

投稿: JET | 2020-11-17 00:29

すげーあいまいな記憶ですが角川出版の女性編集者に見いだされた
俵万智でしたが当時の角川の社長の鶴の一声で出版がダメになり
泣く泣く河出書房新社から出版され大ミリオンセラーとなり
女性編集者が社長に詰め寄ったら社長が何も言えなかった・・とか・・。

投稿: おおたけ | 2020-11-17 18:49

>おおたけさん

あらそんな面白い逸話があったんですね。
でもそんなことからも河出書房新社の業界での立ち位置が分かりますな。

投稿: JET | 2020-11-17 18:53

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