インプレッサにハイブリッド復活で思い出した5年前の事
スバルのインプレッサ・スポーツに4年ぶりにハイブリッド仕様が復活とのことです。
今年の9月17日から先行予約開始で10月8日から発売とのことで
買う気はさらさらないけどちょいと興味があって最寄りのスバルディーラーまで行ってみました。
ところが、実車は置いてありませんでしたのでセールス氏と雑談してカタログだけもらって来ました。
そのセールス氏によると来週あたりには試乗車が配車されるのではと言ってましたけど
試乗車用意するんだとちょっと意外に思いましたね。
というのも、現行インプレッサは2016年10月発売ですからもう4年経ってます。
スバルのフルモデル・チェンジのサイクルは通常5年ほどですからもうモデル末期近いので
普通ならそんなに気合い入れないでしょうからね。
そもそも、現行インプレッサが発売された時点ではハイブリッド仕様がなかったのに
4年も経ったモデル末期近くでのハイブリッド仕様追加ってのが腑に落ちない感じです。
このハイブリッド全盛の日本市場においてスバルのラインナップ中最小車種(OEM車除く)の
インプレッサにハイブリッド仕様がなかったというのが一般的にはおかしな話ですから。
実は先代インプレッサ・スポーツ(インプレッサとしては4代目)にも
途中からハイブリッド仕様が追加されていたんですよね。
それは2015年7月発売でして現行インプレッサにフルモデルチェンジされるまで
1年3ヶ月ほど販売されていたので、これまたモデル末期での追加ということになりますね。
スバルの(なんちゃって)ハイブリッド(現在はe-BOXERの呼称)は
先代XV(インプレッサXVとして2代目)に搭載され2013年6月から発売されています。
ですから、インプレッサのハイブリッド仕様追加はそれから2年以上遅れてのことになるわけです。
ちなみに、ボクはこのXVのハイブリッド仕様の開発には携わっていませんでしたが
先代インプレッサのハイブリッド仕様追加には実験総括部という立場から
プロジェクトチームに参画していたのでそれなりに携わったということになってます。
なのでこの記事のように恥ずかしながら雑誌で醜態を晒すことになったわけですが(笑)
さて、どうして毎回インプレッサへのハイブリッド仕様追加が遅れてしまうのか?
逆にどうしてそれでもこのタイミングでインプレッサにハイブリッド仕様を追加するのでしょうか?
後者の疑問に対してはおそらくエコカー減税対象車を設定したいということでしょうね。
エコカー減税対象車にしてお得感を出してそれをたくさん売りたいというよりも
一つのグレードでもエコカー減税対象車を設定することによって
その車種全部が選択肢から外れてしまわないようにしたいという意図でしょう。
口の悪い言い方をすれば、エコカー減税対象車で釣ってそれ以外のグレードも売りたいわけですね。
そして、インプレッサへのハイブリッド仕様追加が後手に回る理由は
それはプラットフォームが標準車高車へのハイブリッド仕様に対応できてないからでしょう。
どういうことかというと、スバルの(なんちゃって)ハイブリッドは
CVTトランスミッションの上部に1つのモーター&発電機を組み入れている構成で、
非ハイブリッド仕様よりトランスミッションの高さが高くなってしまいます。
XVやフォレスターなどSUV系は嵩上げといってプラットフォーム(ボディ)と
パワーユニットやサブフレームなどの間に嵩上げ部材を設けて隙間を空けています。
これによって大径タイヤを履いて車高を上げているわけです。
ハイブリッド仕様はこのパワーユニットとボディの隙間が空いた部分を利用して
高さが高くなったトランスミッションを収めているのです。
ですから、嵩上げのない標準車高のインプレッサをそのままハイブリッド仕様にしようとすると
トランスミッションがフロアトンネルにぶち当たってしまい搭載できなくなってしまうのです。
最初からフロアトンネルを大きく高く設計しておけば標準車高車でも簡単に搭載可能ですが
それは室内が窮屈になったり空調ユニットのスペースが確保できなくなったりするわけです。
ですから先代インプレッサにハイブリッド搭載は簡単ではなかったし
新しいスバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)でも同じ難しさを抱えていたのでしょう。
うーん、SGPは電動化にも対応したプラットフォームと謳われていたはずですが……
他にもバッテリーやインバータ搭載スペースの問題もありますが
これも嵩上げの有無に関係してくる話です。
では、どうやって標準車高のインプレッサにハイブリッドを搭載したのでしょうか?
現行インプレッサの場合は直接知りませんのでまずは先代インプレッサの場合です。
実は先代インプレッサにハイブリッド仕様を追加して欲しいと国内営業から要望があった時
当時のプロジェクトチーム内ではパワーユニットを載せ替えるだけでいいからやろうと
安易な声が大半だったんですよね。
上述のようにそれは不可能なのにXVのハイブリッドに関わっていた人でもそのことを忘れていて(呆)
ボクはXVのハイブリッドの開発にはノータッチでしたけど横目でふーんと見ていたので
嵩上げスペースによってハイブリッド化が可能になっていて標準車高では無理なことを知っていたので
そのことをプロジェクトチーム内で言ったら、みんな「あっそうか!」ってね(呆)
このような逸話からも分かるように長期的なポートフォリオに基づいて
このインプレッサのハイブリッド仕様が提案されたのではなくて、
あくまでもエコカー減税に対する場当たり的な国内営業からの要望というか泣きつきが発端です。
そのために開発期間も異例の短さでの対応を余儀なくされてました。
エコカー減税になる車がないから一刻も早く用意してくれということです。
自動車の開発期間というのは定義が曖昧(メーカーにより定義が違う)ですが
例えば実験なら目標性能提案から図面・仕様決定=開発完了までが開発している期間と捉えます。
これがざっくりとですがフルモデルチェンジ車なら2,3年くらいかかるし
マイナーチェンジ車でも1年以上はかかるものですが
このインプレッサのハイブリッド仕様は確かわずか数ヵ月、半年もかけずに超特急開発してます。
開発だけでなく認証や生産準備も無茶苦茶な超特急スケジュールで本当に「やっちゃえ」でしたね。
そこで、発想の逆転というかXVをなんちゃってインプレッサにしちゃえというやり方を採ったのです。
見た目はインプレッサ(スポーツ)ですが中身は嵩上げしているXVハイブリッドであり
それにXVより小径タイヤに戻して車高短(シャコタン)にしたたというわけです。
その過程で前輪のホイールガード要件(タイヤ&ホイールが車体から外にはみ出てはいけない)を
満足できなかったので目立たないように薄いオーバーフェンダーを付けて誤魔化したのです。
それだけでなく排ガス・燃費の認証までもXVのをそのまま流用することで
開発期間・認証期間を大幅にはしょってしまっています。
認証車を作ってコーストダウンという惰行試験を実施してそれから排ガス等の認証をフルにすると
それだけでも数ヵ月の時間が掛かってしまうのでそれを省略しようということです。
この認証の最初でズルして数値を誤魔化したのが例の三菱の不正問題で
この期間短縮と認証車製作をはしょったのがおそらくスズキの不正問題であったと思われます。
当然ながら不正はいけませんので合法的に認証手続きをはしょる必要があります。
タイヤ径、タイヤ単体の転がり性能などを定められた範囲内に抑えることで実試験を省略できるのです。
タイヤ開発している時間もないので既存のスバル車のタイヤから使えるものを探して
確かエクシーガ用の215/50R17をそのまま流用したと記憶しています。
それと、XVハイブリッドはLEDブレーキランプを採用していたのですが
これもそのままインプレッサのハイブリッドでも採用しています。
表向きは同じハイブリッド車で共通のエクステリア・イメージということですが
実際には排ガス試験中の電力使用を同一以下(悪化がない)にするための採用なわけです。
この悪化がないというのが重要で、空気抵抗などはXVよりインプレッサの方が明らかに良いのですが
ここも悪化がないから改めて実試験は不要ですよねという理論で省略しているわけです。
仮に認証を別に取りなおすのであればおそらくXVよりインプレッサの方が
走行抵抗は少なくカタログ上の燃費も良くすることが出来るのですが、
この時はその僅かなカタログ燃費の向上よりも開発期間・認証期間の大幅短縮を優先したわけです。
ただ、そうやって認証期間を大幅に短縮したとは言え
開発では品質確認などそれなりにやるべきことそれなりにあり本来なら省略はできません。
が、このインプレッサ・ハイブリッドは異例の超短縮日程で滅茶苦茶の開発を強いられました。
社内規定で定めた開発手順をことごとく無視しての強引というか無謀な日程でしたね。
それでも不具合とか出そうものならトップは責任取らずに末端の担当者が怒られるだけです。
しかも、本来長期計画にないポッと出の開発業務であるから十分な人員が割り当てられるわけなく、
実際にボクもその当時はインプレッサ&XV,フォレスター、エクシーガ、BRZなど
スバルの大半の車種の年改車の実験総括をしていたので正直冗談じゃないよという思いでしたね。
どうしてこんなことになるかというと、長期ポートフォリオがないというか抜けが多いことと
営業から売れない理由を開発本部の開発能力が低いためと責任のなすりつけをすることで
開発トップがその責任を回避するために無茶な要求を受けてしまうからなんですよね。
そしてそのとばっちりを食らわされるのが下々の者たちであるのが常わけです(哀)
さてさて、昔の怨み話はこのくらいにして現行インプレッサのハイブリッドはどうでしょうか。
実物を見ることはできなかったわけですが
タイヤサイズは205/50R17から215/50R17になっており
全高も35mm上がってますからおそらく嵩上げしたままという手法は先代同様でしょう。
ただ、XVからの車高の下げ量は少なめでまたオーバーフェンダーは不要だったようです。
この辺はプラットフォーム、サスジオメトリー等の違いからこうなったのでしょう。
カタログ燃費を比較するとWLTCなどではインプレッサ・ハイブリッドで良くなっているし
エコカー減税への対応もXVハイブリッドが基準+10%達成なのに対して
インプレッサ・ハイブリッドは単に基準達成(0%)と差がありますから、
もしかしたら排ガス・燃費の認証を取りなおしているのかなと一瞬思いましたが……
XVハイブリッドでもオプションレスで車両重量が1530kg(未満)となると
エコカー減税が単に基準達成(0%)となることから、こちらの認証届出を利用したのかな。
というのも、排ガス・燃費試験は車両重量の区分ごとに等価慣性重量が決められた台上試験で行うので
車両重量が重くなって車両重量区分が上がるごとに段階的に燃費が悪くなるからです。
でも重い区分の方が燃費目標が甘くなっているので重くなるとエコカー減税になりやすいという
本末転倒な制度になっているので、意図的でなくともこのようなことが起こるんですよね。
となると、結局は先代インプレッサのハイブリッド追加と同様な手法で
そして同様のてんやわんやでの開発となってしまっていたのかも知れないですね。
ご苦労様ですorz としかもう言えませんね。
なんにしてもスバルの電動化、環境対応化、というかエコカー減税対応は順調とはいい難く
依然として場当たり的な感じが否めませんねぇ。
もっとも、水平対向エンジンとAWDへの執着を已めない限りは難しいと思いますけどねぇ。。。
| 固定リンク
コメント
先代XVのハイブリッドが出てすぐ?の頃にディーラーで試乗しましたが、試乗車のボディにど派手なhybridステッカーが貼られていて相当恥ずかしかった記憶しかないです(笑)
直前に1.6LのFFインプレッサに乗り換えたばかりだったので、そもそも購入対象として見ていなかったのもありますが、、、
投稿: たみ | 2020-10-14 21:04
>たみさん
ど派手ステッカーはスバルにもハイブリッドがあるよと周囲に宣伝したかったのでしょう。
そして、購入対象として見てない方が客観的に捉えられるという面もありますけどね。
投稿: JET | 2020-10-15 04:26
乗った感じがマイカーと劇的に違う、という印象はなかったように思います。営業の方がメータを指差しつつ色々説明して下さいましたが、試乗コースが店の近所を一周するぐらいなので、あまり分からないままフツーに走って終わってしまい…
投稿: たみ | 2020-10-15 12:31
>たみさん
まぁベースはどちらも一緒ですし内装なんかもモノは一緒ですからね。
そしてハイブリッドもなんちゃってですからほとんどガソリンエンジンだけで走ってますしね。
投稿: JET | 2020-10-15 12:38