AWD-CoEのスバルにGMは何を期待したのか?
前回記事でGMグループ内でスバルはAWD技術に特化するAWD-CoEという立場になり
そのとばっちりでボクは操安乗り心地の実験から何の説明もないままに
新設のAWD-CoE部署(AWD先行研究グループ)に突如異動となったと書きました。
そしてそのAWD-CoEは5名の寄せ集めメンバーでのスタートとなりましたが
その5名ともども顔を合わせて、「さて、これから何するんでしょうか?」という状態でした。
そう、誰もAWD-CoEが何をする部署で、何の目的で作られたのかも知らされてないのです。
というか、GMからAWD-CoEと言われて何をすれば良いのかトップでさえも分かってないのです。
何も分かってないからとりあえず窓口的なものを適当に作っておいて
あとはそこのメンバーに適当に全部押し付けちゃえばいいかという感じなんでしょうね。
と我々5名のメンバーで共通の認識をしたわけですよ(笑)
そこで、まず、GMはAWD-CoEのスバルに何を求めているのかから考えようということになります。
もっとも、GMの期待に無償で答えられたとしてもスバルにとっては直接の儲けにはなりませんが
それでもGMグループ内での存在感は高まりますからGMはスバルの株を放出しにくくなりますし
GMグループのどこかのメーカーがAWD化するときに技術供与やコンサルティングなどで
スバルが請け負ってなんらかの収益を得ることも出来なくはないですからね。
2000年くらいとなるとスバルだけでなく日本のほとんどの乗用車メーカーでは
もう自前のAWD車・4WD車を製造しています。
SUVだけでなく高級車から大衆車、軽自動車までAWDが存在していて
ただAWDにするだけなら特別な技術が必要という時代ではなくなっています。
しかも、2WD車から派生的に後から4WD化するというのではなく
おそらく2WDも4WDも最初から織り込んで設計・開発されていたと思います。
しかし、欧米に目を転じると、自前の技術でAWDを作れるメーカーって意外にも少なかったのです。
アウディのクアトロは自前でAWDを作ってますがスバル同様に縦置きエンジンのFFベースなので
ある意味では簡単にAWDが作れたわけですし、
VWがやっとハルデックス・カップリングを使ってやっと半自前でAWDが作れるようになった程度です。
ベンツやBMWに至っては自前ではAWDが作れずに
オーストリアのシュタイア・プフ(後のマグナ・シュタイア)に委託していたような状況です。
逆に言えばその程度しか乗用AWD車の市場要望はなく少量生産で済んでいたわけですし
だから2WDだけ設計して後は外注に出して4WDに改造してもらうというやり方だったわけです。
ちなみに、初代フィアット・パンダ4×4もVWゴルフ・カントリーもシュタイア・プフ製です。
当時は他にフランス、イタリア、スウェーデンでも自前のAWDはほとんどなかったわけです。
アメリカでも同様でトラックなどはAWDというか4×4はそれなりに存在していたけど
乗用AWD車や乗用車ベースのSUVでAWD車となるとほとんどなくて
自前技術で作るということは出来なかったわけです。
なのでGMとしては、まずはシュタイア・プフ社みたいにAWD車の製造委託までせずとも
AWD車の技術開発委託をしたいと考えたのでしょう。
実際、GMはポンティアック・アズテックという醜悪なデザインの車を2000年に発売してますが
このAWDシステムはシュタイア・プフに委託したもので
滅茶苦茶重たくて高コストで低性能という酷いモノとなってしまっていましたから
これじゃダメだ、プフ社に替わるものがスバルか?と期待したのかもしれません。
他にもGMグループ内のキャデラック、サーブ、アルファロメオでもAWD化の構想が上がっていて
AWDの技術開発委託や技術コンサルティングをして欲しいというのが
AWD-CoEという立場のスバルに期待された事であったのでしょう。
おそらくそんなところだろうと我々のチームは理解することにしました。
けれども、スバルの場合はたまたまスバル1000、ff-1が4WD化しやすかったから
いち早く乗用4WDを作ることが出来たわけですが、
その後は基本的に4WD、AWDであることが前提で車造りをしてきたわけなので
既存の2WD車をAWD化するという考え方はほとんど経験がないんですよね。
軽自動車ではそういう時もあったかも知れませんがそれすら随分昔の事になるでしょうし。
スバルの小型車なんてほとんどがAWDですから、逆にAWD中心に設計・開発して
そこから余分なものだけ省いてFFにするって発想になっちゃってますしね。
だから、スバルとしてはそんな後付・改造のAWDなんてそんな簡単にできるわけないし
そもそもAWDも含めて最初から設計・開発した方がはるかに合理的なものになるので
究極のアドバイスは「最初からAWD化を念頭に置いて設計・開発しなさい」となります。
ただ、それ言っちゃうとスバルのAWD-CoEとしての役割が減っちゃうわけですよ(笑)
さらに、GMとしてはAWD化したときの設計基準・評価基準を教えてほしいというのも
スバルのAWD-CoEとしての期待に含まれていたと思われます。
しかし、スバルは2WDを作ってそれをAWD化するというやり方や考え方をしていないので
AWD化の設計基準・評価基準なんてものも何もありません。
むしろAWDが当たり前の車造りなわけですからすべての設計基準・評価基準の中に
すでにAWDが含まれているわけで2WDと比較してウンヌンというのは一切ないのです。
初代レオーネ・エステートバン4WDを開発したときには何か4WDだからと
特別な設計基準・評価基準を定めたのかもしれませんが
古いTS(テスト・スタンダード)にもその類のものは見かけませんでしたから
おそらくなかったのでしょう。
だから、スバルとしてはそんなAWDだけの設計基準や評価基準は存在しないよというと
GMからはなんか隠してんじゃないかと訝られるか、ありゃりゃとずっこけるかのどちらかです(笑)
いずれにしても、スバルのAWD-CoEとしての立場がなくなってしまうんですよね(爆)
まぁそんなこんなでスバルのAWD-CoEという役割や立場は非常に危ういものであることが判明し
だからこそ我々チームが矢面に立たされていざという時はスケープゴートに利用されるんだなと
そんなことが分かってきたわけです。
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