新書「公安調査庁」手嶋龍一 佐藤優を読了
中公新書ラクレの「公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動」手嶋龍一 佐藤優 を読みました。
帯には何となくどこかで見たような顔が映ってますが、お二人のことを知っていたわけではないです。
手嶋龍一は外交ジャーナリスト・作家で、佐藤優は作家・元外務省主任分析官だそうで、
この二人が対談しているのを文字起こししたのがこの本になります。
ただし、まえがきは手嶋龍一が、あとがきは佐藤優が書いています。
内容はタイトルの通りで日本の情報機関のひとつである公安調査庁についてですが
以前に内閣情報調査室については少しだけ理解したので今度は公安調査庁をという形です。
ただ、公安調査庁を主に扱っていますが日本や世界の情報機関も総括的に出てきますし
過去の具体的な出来事の裏話的な内容もあるのでおもしろく読むことができました。
なお、この本は今年7月に発行となっていてボクが買ったのも7月だったのですが
それほど急いで読む内容でもないだろうとしばらく積読状態にしていたわけですが、
実際に中身を読み出すと新型コロナ騒動下におけるウイルス・細菌の情報やら
大国同士の情報戦やらの話もあって意外にタイムリーに読むべき本であったわけです。
本書の第1章の2001年5月の金正男密入国事件についての対談から始まります。
驚いたのは公安調査庁は金正男が日本に入国する前から事前にその情報を得ていたとのことで
その情報ルートはおそらくイギリスのMI6からではないかと推測されているそうです。
それが本書の帯に大文字や赤字で書いてあることの内容ともなっています。
そして、金正男が来日した理由は表向きはディズニーランドに行きたかったということになってますが
公安調査庁は北朝鮮のミサイル輸出代金受け取りのためと結論づけているらしいですが
この対談では金正男がCIAとの接触をするために安全地帯である日本に来たのではと推測してます。
そのCIAとの接触が結果的にクアラルンプールで暗殺されることに繋がってしまったのだとも。
さて、日本の情報機関については以下のように書かれています。 (以下引用)
手嶋 日本のインテリジェンス・コミュニティーは、内閣情報調査室、公安調査庁、外
務省の国際情報統括官組織、警察の警備・公安部門、そして防衛省の情報部門を中核と
して構成されています。その外縁部に法務省の入管当局、財務省の税関当局、金融庁、
海上保安庁、経産省があり、それなりのカラフルな構成になっています。
(引用終わり)
というのは、以前に読んだ「内閣情報調査室」という本で概略理解してましたけど
今回はそちらではなく公安調査庁の方に焦点を当てて対談していることになります。
その公安調査庁については、以下のように説明されています。 (以下引用)
佐藤 (前略) 公安調査庁は、国家の安全を脅
かす団体や人物についての情報を集める機関で、法務省の下に置かれています。警備・
公安警察とは違い、強制捜査、逮捕権などを持たず、収集した情報は合同情報会議など
を通して内閣に上げるまでが仕事です。 (引用終わり)
またその組織の特徴は以下のように説明されてます。 (以下引用)
手嶋 「公安調査庁」というインテリジェンス組織には、二〇二〇年の段階で、定員一
六六〇人が配され、予算も一五〇億円規模が計上されています。この組織の最大の特徴
は、一六六〇人という職員すべてが、基本的にすべて調査官なのです。 (中略)
ひとことで言うと、かなりフラットな組織なのです。 (引用終わり)
官僚組織なのにフラットな組織というのは異質な感じですね。
そして、今回の新型コロナ騒動にあたっては以下のように公安調査庁への期待が話されています。
(以下引用)
手嶋 私もまったく同じ意見です。現に英米の情報コミュニティーでも、今回のコロナ
禍を受けて、重大なパラダイム・シフトが起きています。具体的に言えば (中略)
佐藤 国家の存立と自由な社会体制を脅かす敵に立ち向かう。それが情報機関の責務な
のですから当然だと思いますね。いま、世界のインテリジェンス・コミュニティーで一
種の「ギア・チェンジ」が起きている。世界第三の経済大国、日本でも、こうしたレー
ジーム・チェンジに迅速に対応していくべきです。その中心的な役割を担うべきは公安
調査庁です。 (引用終わり)
かなり公安調査庁に期待しているようですが、一方の内閣情報調査室(以下、内調)については
人員規模としても情報の取り纏めをして内閣に上げているだけで実力はないような話ぶりですが
気になる部分として以下のような対談もしています。 (以下引用)
佐藤(前略)
週刊誌情報だと、内調が世論調査、選挙予測をしているという。選挙予測を外してい
ないというのが、北村氏が信任を獲得し続けている大きな理由だ、とその雑誌には書い
てあり、説得力がありました。選挙に勝てるか否か。これ以上に重要な未来予測など、
どの政治家にとってもあり得ません。
手嶋 特に安部瀬総理は、「ここぞ」というタイミングで衆院を解散して総選挙に打って
出ては、連戦連勝でした。どうしても、側に置いておきたくなる人物という気持ちは、
痛いほど分かります。 (引用終わり)
ここではその内調の選挙予測の是非については議論されていませんが
個人的には一政党、内閣だけが知り得る内調からの情報に選挙予測が含まれること
そしてその内調の人事権も内閣が持っているという状態は健全な姿とは思えないですけどねぇ。
それに、以下のような議論もされているのですから、やはりおかしいのではないかな。
(以下引用)
手嶋 「インテリジェンス機関は政治の意思決定に関与せず」――これは、日本に限ら
ず、どの国でも、一応の原則になっています。 (引用終わり)
確かに内調のが直接政治決定しているわけではないですが
内調の選挙予測が政治の意思決定に対して間接的でも決定的な関与を及ぼしてるわけですからね。
後半部分では公安調査庁のなりたちというか戦前からの流れについても話がおよびます。
その中で本題ではないけどちょっと意外に感じたのは以下の話です。 (以下引用)
手嶋 (前略) 一方、中野学
校に代表される陸軍のインテリジェンス人脈は、多くが公安調査庁に迎え入れられまし
た。
佐藤 これも、やはり忘れ去られているのですが、戦前の陸軍のインテリジェンス能力
は、カウンター・インテリジェンス、ポジティブインテリジェンスを含めて、極めて高
かったのです。たとえば、暗号の能力も、海軍と陸軍では、比較にならないほど陸軍の
方が高かった。 (引用終わり)
陸軍悪玉論ではないけど陸軍の方が精神論ばかりが先だち情報戦みたいな知的なことは苦手だったという
そんなイメージを勝手に抱いていましたけど、逆だったというのは驚きました。
まぁでもアメリカの方がさらに上をいっていたのは歴史が物語っているのでしょうが……
最後は今後の日本に必要な諜報機関の在り方などが議論されてこの本は終わっています。
その中でメディア戦略を強化せよということで、イギリスのように(007など)スパイ作品を通じて
情報機関の存在意義をそれとなくアピールするのが良いとかの話がでてきます。
個人的にはその手のアクションムービーなどは好きなので大歓迎な一方で
そういうある種の洗脳的なやり方というのはどうなんだろうと疑問も持ちますね。
ある程度は存在をオープンにしつつやっていくのはいいかなと思いますけど。。。
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