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操安乗り心地の官能評価者に必要な能力は?

前回記事で「官能評価者の資格認定基準」というBR(ビジネスルール)を作成したと書きましたが
だからといって資格試験があるわけでも、それに向けた訓練プログラムがあるわけでもありません。
ただ、その人の人事上の資格、操安乗り心地業務の経験年数、テストコースライセンスなどと
最後は上司の判断で決まるというなんともアバウトなものです。

当時のスバルにはそんなアバウトなものさえもなくその発想すらなかったわけですし、
アバウトであってもいちおうの目安にはなりますし
官能評価結果を軽視させないためにはこれでも十分であると考えてのことですし
それ以上厳密にするのも難しいと考えてのことですが。

そもそも人事上の資格だって資格試験は僅かだけだし特別な訓練プログラムが用意されてるわけでなく、
テストコースライセンスもいちおう資格試験はするにも審査官の印象次第のところがありますからね。
ドライバーの運転技能の訓練プログラムは今は一部は出来ているようですが
当時はそんなものもありませんでしたし。

上司や先輩などに同乗しながらのOJTや他の人の官能評価とすり合わせながらの経験なども重要ですが
当時のヘンテコ部署などを筆頭に実験屋は「仕事は見て覚えろ」的な悪しき職人気質もあって
官能評価のやり方も車両の運転操作なども手取り足取り教えてもらうようなことはなかったですね。
ですから、なんだかんだ言っても官能評価に必要な能力は個人個人の自己啓発に依っていたわけです。


再確認ですが、この記事にも書いたようにスバルにはテストドライバーという職種はありません。
実験部署といっても目標設定→試験→原因究明→改善策提案の繰り返しが業務範疇なので
ただ試験(テスト)だけしていれば良いというものではないからです。
それに試験といっても部品単位で試験することも実験装置上の台上試験やシミュレーションもあるし
車両を走らせるとしても数値計測の走行試験も多いので官能評価だけしているような人はいません。

そのような業務の流れの中で官能評価をするのは主に3つの目的があります。
1つめは多くの評価者にアンケート的に答えてもらって統計処理して傾向を把握することです。
これは誰でも最低限の運転技能があれば参加できるので必要な能力は特にありません。
2つめは全体的に捉えて狙いに沿っているか、問題がないかを判断することです。
長距離トリップをすることなどはこれが主目的となり、この記事で触れたのでここでは省略します。
3つめは部品や仕様を絞って〇か×か、あるいはA,B,C……でどれがベストかを判断することです。
この目的での官能評価が日常的に一番多くてこの繰り返しで性能を上げていくことになります。

さて、その3つめの日常的な官能評価に必要な能力についてボクなりの自論を披露したいと思います。
とあらたまって書くほど大したものではないんですけどね(汗)
それに、もう20年も前の時代の話なので今のクルマの魅力や開発の仕方とは大きく違いますから
あくまでも昔話として適当に聞き流してもらえればと思います。

 

まず、運転技能ですけど、もちろんある程度のレベルは必要ですが超人的な能力は必要ないです。
まぁひと口に運転技能といっても様々な尺度があるとは思いますけど。
テストコースでGがかかると意識が遠のくとか自分の頭を首で支えられないとかは論外ですし
運転するのに精いっぱいで官能評価どころではないようではむろん無理ですが
日常的に車の運転をしているような人であれば少し経験を積めば誰でも出来ると思います。
操縦安定性ということでは車両が限界を超えてスピンやコースアウトしそうになりそうかどうかまで
つまり限界走行まで試験しないといけない場合はそれなり訓練(経験)とライセンスが必要ですが。

それでも、スタントマンではないので片輪走行とか出来なくてもいいのはもちろん
モータースポーツのマシンの開発ドライバーでもないので速く走る能力は必要ないです。
最近のスバルでは運転訓練の一環でサーキット走るとかレース参戦するとか聞きますが
はっきりいってナンセンスだと思っています。目的と手段が逆になってしまってます。
タイヤのWET性能の試験のひとつとしてスラロームのタイムを計測して比較するのですが
それは絶対的な速さは問題なく相対的な速さを安定して出せるかどうかが大切なのに
とある上司が「あいつは競技経験がないから俺より遅いんだ」とか平然と喋っていて
(“あいつ”とはボクのことではないですが)あぁこの人は勘違いしているなと思ったものです。
まっ勘違いだけでなく自分が速いことを自慢したかったんでしょうけど。。。

ということで、車両開発で官能評価をするには中の上くらいの運転技能があれば
あとは少しの経験でなんとでもなるということです。
実際、ボクは中の上より中の中くらいの運転技能しかもってなかったと思ってますし。

 

それから、官能評価というと一般の人では感じ取れない
ほんの些細な挙動も感じ取れる鋭敏な感覚が必要と想像されるかもしれませんし、
中にはその些細な挙動を感じ取れることを誇るかのような人もいましたが、
それが一般の人にも分からないなら何も問題ではないのですから指摘しても意味はないですし
それをことさら大きく取り上げることは余計な仕事を増やしているだけのことです。

しかし、部品や仕様を絞っての官能評価となると一般の人では感じ取れない微かな挙動に注目します。
では、結局そういう時の微かな挙動を感じ取れる鋭敏な感覚が必要なのでは?となりそうですが、
人間の知覚能力って良くできていて特定の挙動に注目していると微かな差も明確に分かるんですね。
だから、官能評価には飛び抜けた感覚能力なんて要らなくて普通のレベルであれば十分なんです。

そんな些細な車両挙動の感覚能力よりも、先ず最初に必要なことは
自分がどのような操作をしたかを客観的に認識することであり
またどのような路面状況のところを走らせて路面からどんな入力があったかを把握することです。
車両にどんな入力があった時にどんな出力(挙動)が出るのか
入力と出力がはっきりしてなければ車両の良し悪しは判明しませんから。
ところが意外とハンドル操作が自己流で意識してなくてエイヤッて切るだけの人がいますし
4つのタイヤがどこを通っていてどんな突起を踏んでいるかを把握してない人もいます。
それではちゃんとした官能評価はできないですね。

さきほど“自己流”という言葉を使いましたが、
一般の人は教習所に通ったとしてもほとんど自己流の運転をしていると思いますし
開発エンジニアもきっちりとした訓練プログラムもないわけですからほぼ自己流です。
だから、車両開発においてはそのいろんな自己流の運転をするユーザーを想定して
いろいろな運転操作をおりまぜながら官能評価しなくてはいけません。
それには自分の運転を客観的に捉えて今はどんな運転をしているかを常に意識する必要があります。
そこが一般の人が運転するのと開発における官能評価で運転するのとの決定的な違いです。

それには、他人の運転を同乗して見るのがためになりますね。人間観察のひとつでもあります。
いろいろな自己流の運転の仕方もわかるし、それによって自分の運転を客観視する目も養えます。
そういう点では、クルマ趣味関連のオフ会とかはとても有益だったと感じてます。
と書くと、友人に嫌な顔されそうですが、もちろんそんな魂胆でオフ会参加していたわけではなく
あくまでもワイワイやって愉快に過ごすために参加していたわけですけど。

 

ここまでで、ひとつひとつの官能評価はだいたいできるようになるわけですが
車両の開発としてはそれを繰り返して全体を組み立てていく必要がありますし
時には予期せぬ課題が見つかったりしてその原因究明と対策が必要な場合もあります。
というか、課題→原因究明→対策の繰り返しが車両の開発とも言えます。

となると、単に官能評価をして〇/×判定したり、ベスト仕様を選ぶだけでは不十分です。
官能評価をしながら、課題を見つけ、原因の当たりをつけ、対策の想定までしたいです。
それにはサスペンション、ステアリング、タイヤなどのメカニズムの理解が必要です。
メカニズムといってもただ機構的にこうなっているというだけの話ではなく
力学・工学的に理解していて理論的に頭の中で整理・分析できることが重要です。

例えば、こういう入力(操作)をしたらタイヤがどういう力を出して
それがサスペンションにどう伝わり、ストロークするとどうアライメントが変化して
ブッシュがどう変形するからさらにアライメントがこう変化するので……
というのを思考実験しながら官能評価できないとなかなか課題解決は見えてきません。

また、めざすべき車両全体の中でこの官能評価の判断がどう位置づけられるのか
常に全体を意識して進めていくことも重要になります。
例えば、Aというタイヤ、Bというタイヤでどちらも一長一短の場合、
でも片やそれはダンパーの減衰力のセッティングである程度解決できそうなのか
あるいはそのサスペンション形式ではどうしようもない致命的な問題なのかで判断は分かれます。
実際にはこんな簡単な例ではなくもっと細かく複雑な要因が絡むわけですが
それもやはりメカニズムの理解とそれをもとに思考実験ができるかどうかがポイントなわけです。

つまり言い換えるとドライビングスキルとかセンシングスキルとかがどうのこうのよりも
エンジニアとして優れているのかどうかということに尽きるというわけです。

 

そうして、そんな意識を常に持ちながら官能評価をしていると
自然と速く走らせるにはどうしたらいいかも分かってくるというものです。
最近のスバルでは運転訓練の一環でサーキット走行やレース参戦をやっているようだが
それはナンセンスで、目的と手段が逆だと先述したのはこういう意味です。

サーキット走行やレースの世界では天賦の才能のような超人的なドライビングができる人や
ミリ単位で走行ラインを覚えて看板などを目安にブレーキポイントを覚えて正確無比に運転できる人など
それぞれいるみたいですが、そのどちらのタイプでも優れた開発エンジニアにはなれないでしょう。
だから、いくらサーキット走行をしてもそれだけでは開発エンジニアとしての訓練にはならないんです。
ひらめきだけで出来てしまう人でも、覚えるだけの知識だけの人でもなく
頭使って考えることが出来なければエンジニアではないですからね。

また、そんな意識でクルマを運転していると、それが初めて運転するクルマであっても
ジオメトリーってあそこが変だなとかダンパーの高速域の伸び側の減衰が……など感じたりします。
さらに、他人が運転している車の挙動を外から見ているだけでもいろいろと思考実験が働きますし
もっというとラジコンカーを操縦しても、あるいは他人が操縦するラジコンカーを見ていても
これまたいろいろと思考実験が働いてきて、なかなか楽しめるようになりますね。

まぁそんなこんなももう昔取った杵柄、ではなくて“麒麟も老いては駑馬に劣る”でしょうな(惨)

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コメント

いやあ,JETさんの運転スキルは間違いなく上の部類ですよ.
フォレスターの米国導入で「このクルマはSUVだけど,こんなに速く走れて凄いでしょ」ってJETさんがジャーナリストに説明したら,ジャーナリストが「凄いのはクルマじゃなくて,お前の腕だ!」って言ってましたよね.

投稿: shiba | 2020-09-25 16:36

>shibaさん

えっそんなことありましたっけ?
あっSKCでのイベントですね。
わざわざ日本にまで来てくれたんだからとこちらもサービスしたし
だから相手のリップサービスもあったかと思います。

子どもの頃から反射神経や平衡感覚など運動神経はあまり良くはなかったので運転は不得手でしたね。
不得手だけど好きだったのと本文中に書いたように理論と合せて
それなりに運転できるようになったということだと納得してます。

投稿: JET | 2020-09-25 17:15

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