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44Sのタイヤ開発はタイヤメーカーと大揉めに揉めた

前回記事で、ボクは79V(初代スバル・フォレスター)系の操安乗り心地開発と併行して
44S(2代目スバル・インプレッサ)の初期段階の操安乗り心地開発もやっていたことを紹介し、
そこでのタイヤ開発でタイヤメーカーとひと悶着あったとだけちらっと書きました。
本日はその件について少し詳しく説明いたしましょう。

その前にタイヤ開発とは何かとか操安乗り心地部署がタイヤ開発とりまとめをしていたことなどは
79Vのタイヤ開発に関するこちらの記事を読んでいただきたく思います。

そして、インプレッサやレガシィなどグレードが多くて標準装着タイヤも幅広く何種類にもおよぶ場合
フルモデルチェンジと言えども全てのタイヤをまるっきり一から新規開発するわけではありません。
さすがに完全にキャリーオーバーすることも少ないですが
従来モデル用のタイヤをベースにして時代に即して、また技術の進化に合わせて
少しずつアップデートするようなタイヤ開発をしていきます。

ところが、従来とは全く違った新サイズやコンセプトのタイヤとなるとそう簡単にはいきません。
44Sでは新たにWRX-STiグレード向けに225/45R17を装着することになり
そのタイヤがまさに従来とは全く違った新サイズということなり、
揉めに揉めたのもまさしくそのサイズのタイヤであったわけです。

なお、このタイヤサイズは性能上の必要性から導き出されたものではなく
勝手にライバル視していた三菱ランサーEVO(といっても多分三菱側も相当意識してたでしょうが)が
当時履いていたのと同等以上(以上というのはほぼタイヤ幅のこと)のタイヤを履こうという
あくまでも商品企画上のスペックありきの選択でした。

しかもそのタイヤサイズを履くためにセダンだけはオーバーフェンダー風ボディスタイリングにするという
無駄なお金を掛けてでもカタログスペックに拘るという赤字体質企業らしいことをしてしまってます。
タイヤを幅広くするだけでは速くはなりませんし
量産車としてのトータルバランスを考えれば返って性能ダウンにもなり得るというのに。。。

というわけで、この225/45R17サイズのタイヤは
WRX-STiグレード用の走りのトータルバランスを追求したタイヤと
(仮称)RAグレード用のサーキット走行での究極の速さのみ追求したタイヤの2種類と決まりました。
あっ、最終的なグレード名とは合ってないかもしれないです。あくまでも開発途中の話ですから。

ここで後者の速さ追求のタイヤは限定したグレードに断り書き付で装着する割り切ったものです。
一方の前者のタイヤがやはり開発では難航が予想されるわけです。
そして、このようなタイヤを開発するには従来タイヤをベースに
ここの性能をこんなに上げて……というような要求性能では
モノサシの目盛が大き過ぎて明確になりません。

そこでボクがよくやった手法は、新サイズの様々なタイヤメーカーの数種のタイヤを取り寄せて
それらを全て評価試験をした中で最も開発車両に相性がよくかつ要求性能に近いタイヤを選び
それをコントロールタイヤとして〇〇の性能だけ微修正するというタイヤ要求性能を作ります。
こうすれば、目標の近くからスタートできるわけですからゴールを見失うことなく進めます。
ここでいう全ての評価試験というのは実験のタイヤに関わる様々な部署です。

ところが、これをやるとどうしてもコントロールタイヤに選ばれたタイヤメーカーが有利になり
開発する側からすればコントロールタイヤのタイヤメーカーと一緒に開発するのが近道になります。
もちろん、コントロールタイヤに選んだタイヤはOEM品にしろRE品にしろ
いずれも市販されているタイヤですからライバル・タイヤメーカーでも入手可能なものですし
どのメーカーでも要求性能は明確になっているからその点では不利というわけではないですが
やはりコントロールタイヤに選ばれたメーカーの方が技術的にも有利になるのは仕方ないことです。
そして、44Sのこのタイヤではヨコハマ(以下YH)のがコントロールタイヤに決まりました。

 

ところが、それでは納得できないタイヤメーカーがいるんですよね。
当時シェア日本一のタイヤメーカー(現在はシェア世界一)のブリヂストン(以下BS)です。
彼らは自分たちが技術でも日本一だと思っているのか
あるいは技術なんかよりも自分たちがタイヤ業界を牛耳っていると思っているのか
裏から購買部門に強力に圧力をかけて何が何でもBS製タイヤを採用させようとするのです。

特に初代レガシィで高性能モデルのセダンRSはYH、ワゴンGTはミシュランとなってから
とにかく高性能モデルやトップグレードはBSを採用させようとやっきになってきました。
トップグレードの標準装着タイヤとなると目立つしメーカーの宣伝になりますから。
それなのに79Vフォレスターでは彼らの戦略ミスもあってまたもターボモデルはYHになってしまい
BSはその巻き返しに躍起になっていたのです。躍起というより崖っぷちの感覚だったのかも(笑)

ここはボクも大いに絡んでいたわけですが、いくらBS嫌いなボクであっても
そんな私情で判断したわけでもなくBSの性能が要求性能を満足できなかっただけです。
実際に79V発売後にBSから何度もヨコハマ→BSへの変更検討依頼がきて
その都度性能評価を繰り返しましたが要求性能=YH同等には達することは出来ませんでした。
これは何もBSが低能なダメタイヤといいたいわけではなく相性の問題とも言えますが。。。

あっ、79Vの話ではなく44Sのタイヤの話でしたね。
ただ、79V後も上述のようにくすぶり続け、それが44Sのタイヤと同時並行的に火種となったのです。

 

そこで、期限を決めてそれまでに要求性能を達成できたメーカーにしましょう、としました。
ただし、BSが要求性能達成できれば無条件にBSが優先されるということですが(呆)

ところが、懸念していた通りにBSは要求性能を満足できませんでした。
何が未達だったかというと最低限のスノー性能が確保できなかったのです。
その他の性能も少々未達でしたけど。

オールシーズンタイヤじゃないんだから45偏平のスポーツタイヤでスノー性能って必要なの? 
と思う人も多いでしょうが、ここではチェーン装着時の最低限を安全性を確保するということです。
WRX-STiはAWDですがFFベースということで基本は前輪にチェーンを装着します。
ただ、そうすると前輪はなんとかグリップするのに後輪はまったくツルツル滑って
10km/h以下でもいとも簡単にスピンしてしまうということになってしまうのです。
後輪にも駆動力が伝わるだけにFFよりもタチ悪くあっという間にスピンしてしまいます。
増してやFFベースなのにリア偏重トルク配分のAWDなんてやったらなおさら酷くなります。

まだまだ四駆なら少しの雪道でも走れちゃうからチェーンだけで大丈夫という誤解もあったり
実際にそのような市場クレームも毎年多く寄せられていた時代ですし、
そもそもスバルのAWDは安全・安心を謳っているのに
チェーン履いたらFWD以下の超危険でまともに走れないのでは弁解の余地もありません。

なお、後輪にもチェーン履けばスピン防止になるのですが
そもそも後輪タイヤハウスにはチェーンを履けるだけの隙間が存在してません。
(オートソックなどの布製滑り止めなら履けることが多いですが)
ただ、前輪タイヤハウスの隙間も狭いのでメーカー指定のスプリングチェーンしか履けません。
これも最低限のグリップを確保するためのチェーンとしては低性能のものですが
前後バランスを考えたらこれが最適のチェーンとなるようになっています。
間違っても無理矢理亀甲タイプのチェーンやネットチェーンを履かないようにしてくださいね。
まぁ普通の乗用車ならこのような問題はほぼないので気にすることはないですが。

当時のBSタイヤは(今もそうかもしれませんが)サイドウォールがしなやかでなくて
かつベルト(トレッド)部との剛性のつながりが良くないので滑りだしの粘りがなく
滑りだしたら一気にもう止められないという傾向があり手強い性質でした。
路面状況が良ければタイヤトレッドの柔らかめのゴムのグリップ力で誤魔化しが効くけど
寒い雪上ではそのトレッドゴムもカチカチになってまったく役に立ちません。
故にスノー性能が最低限に達しない原因はタイヤメーカー技術者でないボクでも分かってたけど
BSはそれを根本的に解決しようとはは考えずに小手先で誤魔化そうとするんですよね。

タイヤチェーン装着時のスノー性能なんてのは日本の冬季しかまともに試験できないので
上述のように1シーズン後の春に期限を区切って
そこまでに目標達成できなければ開発中止と各メーカーと合意していて
そしてBSはその目標達成ができなかったのですが、それでも引き下がらなかったんですよね。
これも裏工作して(呆)

 

そこで、BSがとったのがスポーツタイヤのポテンザのトレッドに
スタッドレスタイヤのブリザックばりの細かなサイプ(切れ込み)を多数入れることでした。
これで絶対にスノー性能は確保されていることは保証するから開発続行させてくれと。
あまりに呆れて、こんなものを様々な部署集めてデストコースで共同試験なんてできないよというと
この場で一般道でもいいから味見をしてほしいと懇願してくるので
仕方なく評価してみましたが……思った通りダメダメでしたよ(笑)

だって、柔らかいトレッドゴムのグリップ力でなんとか誤魔化していたものが
その柔らかいトレッドにサイプを入れたらトレッドはヨレヨレになってどうしようもないでしょう。
しかもサイドウォールはカチカチのままだからより滑り出しは唐突で粘らずコントロールしづらい。
門前払いですね(笑)

おかしかったのは、そんなタイヤを装着した試験車を一般道評価後に駐車場に停めて打ち合わせしてたら
その間にYHの営業・技術関係者がたまたまそこを通りかかってそのタイヤを見つけたみたいで、
後日、「あのタイヤはなんですか。腹抱えて笑っちゃいましたよ~。」と言ってました。
BSとしたらなんとかその場を誤魔化してしのいで1年時間稼ぎしたかったのでしょうけど。

それにしても、よくもこんなタイヤを真面目に設計して試作品まで作ってくるよなと思いましたね。
普通の設計者なら技術的にあり得ないと考えるはずなのですが
そういうことよりも企業トップの策略とかメンツとかそういうのが優先してしまうのでしょう。
どんな企業でも大なり小なりそういう部分もあるのでしょうけど
BSという企業は他のどのタイヤメーカーよりもいやどの製造業企業よりそれが強い感じです。
だからか、実務レベルの設計者や実験者は世間話以外では絶対にだんまりを決め込んでますし。
タイヤ性能うんぬんよりもこういう技術に真摯な姿勢がなく本音で議論できない体質が嫌いでしたね。

 

ちょうどこの頃ですかね、BSの営業の某氏が始業時間前に会社の門で
ボクが出勤してくるのを待ち伏せするなんて珍事件があったのも(怖)
おそらく上司から泣き落としでも脅しでもなんでもいいから説得してこいとか言われたんでしょう。
でも技術的に×なものは何をされても〇にはならないんですけどねぇ。

また、YHの営業などと数人で太田市の居酒屋で軽く飲んでいたら
そのBSの某氏たち数人とその居酒屋で鉢合わせになったこともありましたね(焦)
まっ、やましい事は何もないので単なる笑い話でしかありませんけど。

ということで、その揉め事の顛末は……ここでボクは44Sを離れてしまったので顛末は知りません。
揉め事が大きくなったので親BS派の購買部門はじめいろいろな内部圧力があって
ボクが44Sから外されたのかもしれないですけどそれも定かではありませんし、
もしそうだとしても特に悔しさも何もなく清々した気分ですけどね。

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コメント

今回も勉強になりました。
映画、作ってみてはいかがでしょうか(笑)。
ネット配信したら、ヲタクにウケるかも、です。

投稿: よっさん | 2020-08-16 20:48

>よっさん

この件で映画なんて作ろうものなら、それこそ某タイヤメーカーが黙っちゃいないでしょうね。
命の危険すらあるかもしれないので止めておきます(笑)

投稿: JET | 2020-08-16 20:52

いろいろあるんですね、、、
今乗っているクルマは最初GYがついていました。

投稿: たみ | 2020-08-17 20:55

>たみさん

GYとは直接のお付き合いはなかったですが
幾つかのタイヤに触れた印象だと至極まっとうなタイヤ作りをしてた印象ですね。
というか、BSとTY以外印象の良くないのはないのですけどね(汗)

投稿: JET | 2020-08-17 21:22

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