79V系と並行して最後のサンバーもやってた
以前のこの記事で初代スバル・フォレスター(79V~72Fの途中)の
操縦安定性乗り心地の開発の話は終わりとなりました。
さて、分野にもよるのですが、多くの実験部署では大抵は開発車種が固定で業務にあたります。
もちろん、担当(係長相当)ともなれば部下を何人も抱えて幾つもの車種の業務に関与しますが
直接の担当者では数人のチームでひとつの車種を担当することがほとんどです。
ボクがいた操安乗り心地の部署でも2人一組あるいはレガシィなどは3人、4人で一組となり
それぞれのチームがひとつの車種だけを担当するという形がほとんどでした。
けれども、何故かボクだけは幾つもの車種を掛け持ちするという状態になってました。
ひとりではなく、部下というか後輩との2人、時には3人のチームでしたけど。
79Vがもともと初代インプレッサの後継モデルからのスピンオフ企画なので
組織的に人員が不足してしまったからなのか分からないですが……
ただ、その後も何度もボクは幾つも掛け持ちの業務をすることが多くて
どうもそういう星の下に生まれてしまったような感じなんですよね。
って、生まれたのではなくスバルの中でそういう立場に追いやられてしまったわけですが。
決して、ボクがお人好しなのでなんでも断り切れずに抱え込んでしまったわけではないですよ。
ボクはそんな性格良くないですからね(笑)
今日は、そんな掛け持ちでやっていた(やらされていた?)ことについて記事にしてみましょう。
細かな先行開発や社内教育の講師や自工会(日本自動車工業会)関連の話は除きますが、
79V系の操安乗り心地開発と並行して次のようなことをやっていました。
1)ドミンゴ、サンバーの操安乗り心地業務
2)次期ドミンゴ、次期サンバーの操安乗り心地開発
3)次期インプレッサの操安乗り心地開発
少し補足しながら説明していきましょう。
1)ドミンゴ、サンバーの操安乗り心地業務は、既に量産している車種の面倒を見ることです。
これらの車種はビックマイナーチェンジなどはないので開発としての業務はないですが
VA(コスト低減)や市場不具合対応などの業務が発生します。
5代目サンバー、2代目ドミンゴが中心となりますが
時には4代目サンバーの不具合の案件なども来て困ったこともありました。
何せ諸元的にとても厳しい車種なので辛辣な市場問題も多々あり
また商売で使われている方が多いので切実な問題となるため
かなり苦労させられたことがありましたね。
ハンドルにフォークリフトにあるようなノブというかハンドルスピンナーを取り付けて
思いっ切り速くハンドル回したら横転したというクレームには目が点になりました。
さすがにそんなことまで想定して試験してませんし、それは違法改造だよということですが。
赤帽サンバーのフロントタイヤの片減り(偏摩耗)が大問題となったのもこの頃です。
タイヤ摩耗を試験して性能責任を受け持っている部署は別なのですが
サスペンション、ステアリング、タイヤなどに関わるところ故に操安乗り心地の部署に話が来ます。
5代目サンバーはキャスタ角が小さく左右舵角差が少ないのでフロント偏摩耗しやすいのは事実ですが
赤帽組合の中でディーラーに文句言うとタダで新品タイヤに交換してくれるぞという噂になってしまい
普通に摩耗しただけでもクレーム言ってタダで新品タイヤに交換させる輩が続出したんですね。
当然ながらその費用はディーラーを通じてスバル本体に請求されることになります。
もうクレーマーというか背後に赤帽組合というヤクザ組織みたいなものを持つチンピラ状態です(笑)
キャスタ角や左右舵角差はフルモデルチェンジくらいじゃないと簡単に変更できないのですが
タイヤをブリヂストンからミシュランにすれば偏摩耗しにくくなることは分かっていたので
それを利用して、頑なにブリヂストンに拘る赤帽組合にそんならミシュランにするか
それが嫌ならタイヤ偏摩耗について今後文句を言うな(タダで新品タイヤ交換を要求するな)
と逆に言い返して、この件は収束に向かうことになりました。
まぁボクが直接赤帽組合幹部に啖呵切ったわけじゃなくそう助言しただけですが(笑)
また、桐生工業で架装している消防車仕様のサンバーの操安性改善を依頼されて
桐生工業と共同で試験したのも今となっては良い思い出ですね。
桐生工業の方々はスバルのテストコースの走行ライセンスを持っていなかったので
消防車仕様サンバーで赤城南面の一般道を何往復も走ったりしてね。
その後も何かと桐生工業とは縁がありましたし。
2)次期ドミンゴ、次期サンバーの操安乗り心地開発はフルモデルチェンジ車の開発です。
次期ドミンゴは仮で16Rという開発符号が与えられたこともありますが
初期検討しただけで結局は具体的な企画に進むことなく開発はスタートしませんでした。
ですから、FFにしたらとかRRのままだとしたらなど幾つかのレイアウト案で
操安性・横風安定性などがどうなるかを数値シミュレーションしただけでした。
次期サンバーは33E(みみっちい)という開発符号が与えられて6代目サンバーとなりました。
この33Eでは初期検討、数値シミュレーションなどをして操安乗り心地の目標性能を立案して
サス・ステアリング仕様などを設計に提案して図面に織り込んでもらい
台車とよばれる試験車の完成まで関与しました。
その後は後任の方に委ねることになったのですが、チューニングの部分はさておき
基本的なサス・ステアリング仕様はだいたいそのまま量産車に繋がったのかなと思います。
もちろん上述のフロントタイヤ偏摩耗の対策もしっかりと入れ込みました。
その33Eの目標性能では、狙いとして以下のようなことを報告書に書いてました。
軽トラらしさの追求=『安くて丈夫で働きもの』
①サンバーの基本はトラックにあり,乗用ライク,RVライクに憧れを抱かない.
②低コストで不具合がなく道具として実用的に優れていることが重要.
③21世紀の社会的要求に応えられるだけの安全性・環境適合性を満たすこと.
(技術報告書なので、ちゃんと句読点は「,」「.」を使ってますね(笑))
もちろんこれでは操安乗り心地に直接結びつかないので数値目標は別に掲げてますし
「耐転覆特性、横風安定性、低速時の舵の戻り改善に主眼を置く」と書いてますが。
まっ、5代目サンバーがRVブームとかの時代で商用より乗用重視の傾向があり
また初代レガシィと同じく高コスト体質だったことへの反省を込めて
こういう文言にしたわけですが
実際にどうなったかはお客さんに判断してもらしかないでしょう。
そして、結果的にこの33Eがスバル製サンバーの最終となってしまったのは非常に残念です。
この33Eでの一番の思い出は、直接操安乗り心地の話でもないんですけどこの記事のように
荷台長を1mmたりとも短くせずキャブオーバータイプを死守したことですね。
それは衝突安全の実験部署とボディ設計部署が頑張った結果ではあるんですが、
操安乗り心地としてもキャブオーバータイプでもきちんとした商品ができることを
シミュレーションで示して後押しすることが出来たので良かったなと思っています。
操安乗り心地だけから言えば、セミキャブオーバーの方がホイールベースが長くなって
操安性全般、耐転覆特性、横風安定性、乗り心地も有利になるのですけど、
商品としては成立しないと考えていましたから。
結果的にセミキャブオーバーを採用した他社もほぼキャブオーバーに戻りましたから
その時の判断は間違っていなかったと言えるでしょう。
で、またまた長くなってしまいましたので
次期(2代目)インプレッサの話はまた別の記事とさせていただきます。 (つづく)
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コメント
赤帽組合は、ほんとうに評判がよくないですね。
ずいぶん昔、スバルの業販店の社長がぼやいてました。
「難癖つけて、修理代をただにしろとか、クレームで処理しろとか、
もうチ●ピラそのものですよぉ」と。
ずっと前、赤帽組合と組んだことは、富士重工のまさに負の遺産ですね。
投稿: よっさん | 2020-08-02 20:34
>よっさん
そのあたりは非常に微妙なところですかね。
赤帽によってスバルも利益を得たところもありますし
信頼性の確保に繋がったところもありますし、
逆に損害に繋がったり過剰品質になった部分もあるでしょうし、
あらぬ因縁で諸々の要らぬ様々な浪費に繋がったこともあるでしょう。
お互いそれぞれの生計がかかってますから時には相手には非情に映りますからね。
ただひとつ言えることは、技術的・科学的にしっかりした事実を把握してお互いに共有できれば
厭々ながらも納得できていくのではないかと思います。
その意味でもタイヤの偏摩耗問題はそれなりに巧く解決できたかなと……自画自賛テみたいですがorz
投稿: JET | 2020-08-02 20:56
JETさんの言われていることは、もっともな話です。
人から聞いた断片だけで発言してしまいました。
失礼いたしました。
投稿: よっさん | 2020-08-04 22:33
2代目インプレッサに乗っていた身として次回記事も楽しみにしております。
投稿: たみ | 2020-08-04 22:41
>よっさん
いやいやボクだってその時は赤帽組合に悪態付きながらやってたわけですから(笑)
投稿: JET | 2020-08-05 04:54
>たみさん
79Vの時のような濃密な話はないのであまり期待されても書けなくなってしまうのですが……
投稿: JET | 2020-08-05 04:56