79Vの次は71G、そして72Fと続きます
79Vは初代スバル・フォレスターの開発符号ですが、(このブログでの)その話は前回で完結し
その年改(年次改良)の71G,72F,73Eと続いていきます。
当時のスバルの開発符号はランダムな数字2文字とアルファベット1文字で構成されてました。
関係者外には何の車種なのか分からないようにランダムにつけることとなってましたが
開発総責任者によっては願掛けや語呂合わせで意味を持たせたりした場合もあったようです。
79Vはそんな意味づけの噂は聞きませんでしたけど
勝手に「(FM)ナックファイブ」と呼んでいたりもしました(笑)
そして、年次改良の場合はまったく繋がりのない開発符号にしてしまうと分けが分からなくなるのと
年次改良ならそれほど機密に神経質にならなくても良いかというところで、
最初の数字はそのままで、2つめの数字をひとつ上げて
最後のアルファベットをひとつ繰り上げるという法則で開発符号をつけてました。
ただ数字の0とアルファベットのOは使わないとかアルファベットのIも使わないとか
紛らわしくならないような暗黙のルールもありましたけど。
それで、79Vの次の年改は本来なら71Uか71Tあたりになるはずですが
何故か71Gという開発符号になりました。
というのはこの記事でも書いたのですけどね。
まぁこのころはきちんと1年毎に年次改良するというほどシステマチックじゃなかったというか
何年も先の商品計画がきちんと決まっていなくて行き当たりばったりの計画もないに近い状態でしたし、
特に旗艦車種でもなくぽっと出のフォレスターはかなりいい加減でしたから
そのいい加減さが開発符号にも出ていたのかもしれないですけどね。
そもそも79Vは国内と海外で発表時期もかなり違いがあったり
車種(エンジン、グレード)展開もばらばらだったりしてそれによって年改もぐちゃぐちゃでしたし。
だから、79Vの次は71Gといっても、最初ターボ車だけから発売した国内では
その間に77Aというこれまた変則的な開発符号の国内向け2.0L・NA車がありました。
ちなみに、話が逸れますが、スバルではボクも理由をよく知らないのですが
2.0Lエンジンのことを何故か920,2.5Lエンジンのことを925とか言います。
それにターボなど過給器が付くと末尾に□の中にBと書いた記号がくっつきます。
□の中にBはおそらくブースト(Boost)の意味でしょうけど。
77Aは本来79Vとして最初から国内にもラインナップされるはずとして開発していたものですし
欧州では79Vとして最初から発売されたものとほぼ同じ仕様(サルフレベライザー無し)ですから
というか79Vからターボ車もNA車も基本は共通のサス・ステアリング仕様でしたから
ほとんど開発業務はしなかったので特に苦労も思い出もありません。
71Gは最初の年改といっても79Vの1997年2月発売に対して1998年9月発売で
1年と7ヶ月後ですからかなり長めのインターバルということになりますね。
マイナーチェンジであっても自動車の開発は数ヵ月では出来ませんから
きっかり1年後に年改するとなるとフルモデルチェンジ車の発売前のごたごたの最中に
次の年改車の開発もスタートしなくてはならなくなって開発負荷が大きくなりすぎますし、
それではフルモデルチェンジ車の市場での評判をフィードバックして年改できませんからね。
今では少し事情は異なっているかと思いますが、すくなくとも当時はそうでした。
ですから、71Gとしては欧州にターボ追加くらいしか大きな変化はなく
基本的に国内のターボそのままで欧州の現地走行で確認するくらいしか仕事はなかったです。
ただ、79V発売直後から思いの外に国内・海外ともに販売好調で収益力も高かったので
会社も欲が出てきたのと同時に次の年改に向けて少しお金を使ってもいいかという話になり
それで71Gか72Fか曖昧ながらも改良するための提案と試験が進められました。
ただ、72Fの開発の終盤でボクはS系(フォレスター系)の操安乗り心地開発を離れてしまったので
正直なところあまりやり切った感もないし発売まで看ていないので最終的な仕様とか曖昧になってます。
それでも72Fはフロント・サスもリア・サスもジオメトリーをさらに見直しして
レガシィの4輪ストラットとはまったく別物のサスにしてしまいましたし
(といってもすごく高価な部品にしたり多額の投資をするほどのものではなかったですが)、
そのジオメトリーを決めるまではボクが直接関与していたのでネタとしては豊富です。
でも、その話は長くなるので、またあとで別記事でまとめて書くことにします。
今日の記事では72Fのステアリングについてちょっとだけ書きたいと思います。
その72Fのステアリングには可変ギア比(バリアブル・ギア・レシオ)を採用しています。
開発中は逆VGR(Variable Gear Ratio)と呼んでました。
なんで逆かというと、昔、パワステでない時にハンドル操作を軽くするために可変ギア比があったのです。
ハンドル操作が重くなるのは停止時や低速走行時でそういう時は大きく転舵しますから
そのような大きく転舵していくとギア比が大きくなって軽くなるようにしたものです。
それに対して逆VGRはパワステ前提で直進付近は神経質にならないようにギア比を大きくして
大転舵のときは操作量が大き過ぎないようにクイックなギア比にしようという狙いなので
ギア比の大小が昔の可変ギア比とは逆になっているから逆VGRと呼んでいたのです。
逆であるかどうかは別とすればかなり昔からあった古典的な技術ではありますね。
何かセンサやアクチュエーターがあってアクティブに制御しているものではないですから。
ボクが大昔に乗っていた初代・三菱ランサー1600GSRにも可変ギア比は採用されてました。
ただ、FRでドリフトして大カウンターステアが必要になるほど操作量が必要になるので
その点ではデメリットだなぁと感じていましたけどね(笑)
この記事で書いたように79Vはロール感とともに操舵感にもこだわって
それもスムーズに運転しやすいようにじんわりと反応する操舵感を目指したわけなので
クイックなステアリング・ギア比にはしなかったわけですし
それ故に駐車などの際のステアリングを回す量は大きくなったが
操舵力は軽く設定したので好き嫌いはともかく誰でも運転しやすい特性にはなってたはずです。
ですから特に逆VGRが必要とボクから提案したのではないのですが
目新しものをつけて話題にでもしようと商品企画側から半分押し付けられるて始めたものです(汗)
実は、この逆VGRってなんの因果かボクが入社したてのヘンテコ部署の1年目にも
先行開発として実験に関与させられていたんですよね。
まぁ、操縦安定性の部署でなくモータースポーツとかやってる部署の新人にやらせるわけですから
その程度の意気込みだったのだと思いますが……
設計が面白そうだとやりだしたものの、操縦安定性の実験部署から相手にされなくて
とりあえずヘンテコ部署に打診したけど分けの分かんないものは新人にでもやらせておけ的な(笑)
その頃のスバルはレオーネの時代でド・アンダーなハンドリング
(正確には大転舵でドリフトアウトが酷くなるハンドリング)の癖が強かったので
逆VGRで大転舵になってクイックになると余計に一気にドリフトアウトに逝ってしまうという
最悪な組み合わせになってしまってましたね。
某親分はスバル(レオーネ)に最適なステアリングだなんて評価してましたが(爆)
レガシィ、インプレッサになってこの大転舵でのドリフトアウトはそこそこ軽減されましたが
それもリアを滑らせて帳尻合わせる的なコリンマクレー張りの走り方をすればという感じで
それには直進付近からややクイックなギア比の方がむしろそんな走りがしやすいため
これまた逆VGRとは相性が悪いものとなってしまうのでした。
その点では79Vは、さらに72Fはリアを滑らせなくしっかり安定させていても
ドリフトアウトがさほど酷くならないようなジオメトリ設定が出来ていたので
逆VGRのデメリットがほとんど出ずに採用することができたというわけです。
それにしても、そもそも79Vでも可変容量パワステポンプなんて面倒くさいもの開発させられたり
なんだかモルモット的位置づけで開発やらされる運命になってるんですよね。
まぁ大黒柱のレガシィやその次のインプレッサで不具合など発生すると大問題になるので
末っ子のフォレスターならあまり目立たず問題にもなりにくいという考えもあったんでしょうけど。
それと、ボクは逆VGRや可変容量パワステ以外にも
ステアリング関連の妙な先行開発に案外と引き込まれて携わる運命にあったみたいです。
この後、世には出ませんでしたが、アクティブ・ステアリングもやりました。
ステア・バイ・ワイヤの一歩手前でいちおう機械的にハンドルと繋がってはいますが
電子制御で前輪を自由に操舵することができるものです。
スカイラインなどで実用化されてるのと同様な狙いのものですね。
他にも、面白いものでは、サンバー向けのプッシュ・プル・ワイヤー式ステアリングがありました。
トランスミッションのシフト操作でリンケージ式に対してワイヤー式があるように
同様にステアリングでもコラムシャフトとか無くして押し引きのワイヤーで操作しようという
かなりぶっ飛んだ無謀なアイデアのものでした。
サンバーという軽商用車で商品化できる技術だとはとても思えませんでしたけど、
でもこれってひとつとっても面白い可能性があったんですよね。
どういうことかというと、これは5代目サンバーの頃だったのですが
その時にはシフトはワイヤー式になっていたし
もともとアクセルやクラッチもケーブル、ブレーキは油圧ですから
ステアリングの自由度があれば運転席の位置を自由に変更できちゃうということです。
バギーみたいなクルマや小型スポーツカーとかもできちゃうんですよね。
もちろん素人でも出来るわけではないですが
かなり少額な投資で面白いクルマを作れる可能性が広がるわけです。
サンバーはフレーム車体なのでFRPで外板作ることもできますし。
その意味では先日のマガジンXの記事に書いてあった
「あれをなくしてしまったのは愚行のさらに愚行だ。取っておけばいろいろな展開ができたはずだ。」
というのはまさにその通りというところですね。
もっともスバルという会社はそんな遊び心あるクルマを作るのは苦手だし
そういうところに手を出そうとする企業体質でもありませんけどね(笑)
最後は少々脱線してしまいましたが、次回は72Fのサスペンションについての話です。
| 固定リンク
コメント
>79V発売直後から思いの外に国内・海外ともに販売好調で収益力も高かった
これは商品開発するうえで、とても大切なことですよね。
いかにコストをかけずにいい品物を作って、それをたくさん売る(売れる)か。
サスペンションの仕様が基本的に1つだった話もそうですが、
そのあたりはJETさんの目配り、気配りがよかったからこその結果なんでしょうね。
投稿: よっさん | 2020-07-11 22:23
>よっさん
まぁ売れたのはコンセプトと時代がたまたま合致したのが大きいでしょうね。
もっとも最初から狙ったコンセプトがあったわけではないのですから
ホントにたまたまというラッキーがあったということでしょうね。
投稿: JET | 2020-07-12 03:57