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79V開発における苦汁、ワースト3

前回のこの記事で79V(初代スバル・フォレスター)の開発話は終わりかなとも思ったのですが、
ちょっと最後に追加で書いておこうかなと思い直しました。
79Vの開発期間中にボク個人が苦汁をなめた経験のワースト3の発表です。

新車開発の現場ですから当然ながら様々な制約や他部署との対立・折衝などで
自分の思ったように行かないことばかりですから
それらに一喜一憂して嫌だとか苦しいとか辛いとか考えているヒマはないですし
それらも含めて全体調和を図っていくことで
自分の気持ちも調和されるので大きな苦汁ということにはなりません。

つまり、自分ではほとんどどうしようもなく手に負えないようなことが苦汁となるわけです。
なので、“開発”の業務外のことも含まれるのですが
ここでは発売前の“開発期間”というような意味あいで捉えてもらえれば幸いです。

では、発表です。


ワースト3:インディでの速度記録挑戦
インディ500で有名なインディアナポリス・モーター・スピードウェイで
24時間の平速度記録に挑戦して、「SUV最速」を謳おうという企画です。
そのころのスバルは初代レガシィ(44B)の時の10万キロ速度記録達成以来
新型車を出すときには「なんかに挑戦して、なんかの記録を謳おう」ってのが
恒例になってしまっていたんですよね。

販売する側がそういうのがあった方が売りやすいというか
逆に言うとそういうのがないと売れないと思い込んでいたところもありますが、
開発部門の人の中にもそういうお祭り騒ぎに参加したいとか
そういうことによって目立ちたいとか手柄にしたいとか目論むような風潮があったようです。

しかし、ボクはこれには大反対の立場でした。
そういう風潮が大嫌いでしたし、そういう売り方も大嫌いでしたし、
そもそも79Vは“最速”とか“競争”とかそういうのとは無縁の操安性のコンセプトで開発したのだし、
にもかかわらず、思いっきりシャコタンにしてハイグリップタイヤ履かせてガチガチにサス硬めて
それでオーバルサーキット走って「SUV最速」っておかしいだろ、ということです。

まぁ、日本国内の営業がフォレスターはターボ仕様だけからスタートするという時点で
79Vの操安乗り心地のコンセプト、さらには79Vの元々のコンセプトから外れた愚策なのですが。

ただし、この速度記録挑戦にはボクは一切携わりませんでした。
大嫌いで大反対の立場なので干されたという面もあるでしょうが(汗)
いちおう直接開発に携わっている人はその業務に集中して
他の人が記録挑戦にあたるというのは初代レガシィの時もそうでしたからね。
ですから、この件に関しては大反対でもどうしようもなく苦汁をなめたということでした。

 

ワースト2:セールスマン向け研修で転覆事故発生
発売前に国内ディーラーのセールスマンなどを対象にして新型車の試乗などをしてもらいます。
発売前なのでナンバー取得前ですし機密ですからサーキットなどのクローズドコースを使うのですが
当時はすごくいい加減な運営をしていて、また参加するセールスマンの意識もかなり低い人がいて、
新型車を学ぶ場ではなく単に遊びの場とかストレス発散の場としか考えてない人も多かったようです。

国内営業がターボ仕様だけで最速SUVなんですみたいな売り方しようとするから
余計に勘違いした人が出てもおかしくないんですが、
それで鈴鹿サーキットで無茶な走りをしてひっくり返ってしまったらしいです。
まぁ、コースアウトして縁石にタイヤを引っ掛けて転覆したようなので
79Vの操安性に問題があるというよりほぼドライバーの運転ミスではありますけど。

ですから、その転覆事故によって何かとばっちりを食らったということはないのですが、
その事故によってボクは初めてセールス研修で自由にサーキット走行させている事実を知りましたし、
そんなことしてもフォレスターのセールス活動にはなんの役にもたたないばかりか
セールスポイントを歪めて狭めてしまうだけだと怒り心頭に達したのです。
ただ、これまたボクにはどうしようもないことで苦汁をなめたのでした。

ちなみに、79V(および71G)の開発中には3回の転覆事故が発生してます。
北海道の雪上、フィンランドの雪上でどちらもコーナー内側の雪壁に乗り上げて転覆。
そして、耐転覆試験(エルクテスト)での転覆です。
前2回は運転ミスですが、エルクテストでの転覆は車両の問題です。

けれど、71Gで追加されるグレードでの耐転覆試験を終えた(転覆しなかった)あとに
部下に運転練習として何度も試験コースを走らせていた時に発生したものです。
耐転覆試験は非常に大きな負荷をかけて走行するので
すぐにタイヤが異常摩耗してしまい転覆しやすい状態になりやすいのですが、
それでも少しマージンが足りていなかったところもあったという判断でその後改良しています。

もちん、79Vはきっちりと耐転覆試験の社内基準をクリアーしていますから問題ありませんし
社外機関による評価でも耐転覆特性はSUVとして高評価を得ていますしね。

まぁ、軽自動車やSUVでなくてもレガシィやBMWなども転覆事故は発生しているので
開発現場ではそれほど珍しいことではないんですけどね(汗)

ちょっと補足しますと、エルクテストというのはエルク=ヘラジカを避けることを想定したテストで
一度対向車線に避けてすぐに元の車線に戻るというWレーンチェンジを高速で行うものです。
元はスウェーデンの雑誌社がやりはじめたものですがその後西欧で一般的に行われるようになり
初代ベンツAクラスがこれでいとも簡単に横転したことから大問題になりました。
日本では大御所と呼ばれるような自称・自動車ジャーナリストさえ
「どんな自動車だって転覆させようと思えば転覆させられる」とベンツを擁護したりして
(狭い業界では)大論争になったりもしてました。
これが79V発売と同じ1997年のことでしたから社内でもキャッチーな話題となりましたね。

ボクもベンツAクラスの初期モデルを試乗しましたがサスペンションの設定が前後チグハグな感じで
エルクテストする以前にこりゃダメだなと判断できるくらい酷かったです。
どうしてベンツはあんなまま世に出しちゃったんでしょうかね、不思議でしたね。

 

ワースト1:北米仕様の開発末期に車高上げを強行決定

あれ、なんだかそれなりの長文になってきてしまったので続きはまた別記事にしたいと思います。
もったいぶるつもりではないのですが、記事を書く気力が続かないもので。。。orz

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コメント

44Bがデビューした当時も、スバルはよくサーキットで試乗会をしていましたね。「レガシィ高速体感」とか言って、サーキットでクルマを走らせるウデもない人たちをたくさん呼んで、出たばかりのレガシィRSがたくさんやっつけられていましたね(笑)。時がたつのは早いもので、もう30年も前の話です。

投稿: よっさん | 2020-06-20 23:13

>よっさん

何を隠そうその「レガシィ高速体感」に行って遊んでましたorz
お客さん向けイベントなので社員が行くべきではないのですが
同僚が応募していて欠員ができちゃったので代わりに行かないかとの誘いに安易に乗ってしまったのでした。
STiの人に見つかって叱られてしまいましたよ(笑)

投稿: JET | 2020-06-21 05:34

私も行きましたよ、高速体感。レガシィ買った同期と何人かで、甲府の実家に泊まって。
ジムカーナで褒められたのと、うまい具合に行列の先頭の車に乗れて、ペースカーの後ろにくっついでいたら、譲られちゃって緊張したのを覚えてます。後ろの方はだいぶとっちらかっていたようですw

投稿: ゆのじ | 2020-06-21 15:14

>ゆのじさん

あらっ、まさか一緒の回ってことはないですよね。
いちおう最後の集合写真を確認してみても、らしき人は写っていなかったので別々の日だったのでしょうが。

投稿: JET | 2020-06-21 15:38

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