「味覚と嗜好のサイエンス」を読了
その前に、味覚と嗜好はしばしば混同されますが全く違う概念であるというのが
本書の出発点となります。そこから引用しましょう。 (以下引用)
味覚は視覚や嗅覚と同様に人間の感覚をあらわす生理学的な用語で
す。舌から脳へ信号を淡々と伝えるのが味覚で、これがおかしくなることはまずありません。一方、
嗜好は過去の食体験に基づいて好悪が判断される好き嫌いを指します。食体験は年を重ねることによ
って組み替えられていきます。 (引用終わり)
ですから、10年ほどで日本人の(平均的な)嗜好が変わっていくことはあるでしょうが
人類がそんな短時間で進化するわけではないので味覚は変わらないでしょうから
先のボクの考えもあながち間違えてはいなかったのですが、
ただ味覚の科学的な解明という点では未解明な部分だらけで
日進月歩で新事実が判明している最中だというのですから
この本の後でもどんどんと新しくなっている可能性は高いということになりますね。
さて、この本に書いてあったものの中からちょっと面白いものを幾つか紹介しましょう。
●「うま味」と「旨味」は区別して用いられる。
うま味はグルタミン酸ナトリウムなどの味覚の一種で、旨味はおいしさとほぼ同じ意味。
●甘味やうま味の受容体はそれぞれ1種類ずつしかないが苦味は約50種類ほどある。
苦味は有害物の警戒信号であるからだが、繊細なおいしさの違いにもなる。
●においの受容体は人間でも388種類もあり味よりきわめて繊細である。
嗅覚は危険を察知するのに重要な機能であるからだが
それ故においしさには味覚よりも嗅覚の方が比重が高い。
(とはよく聞く話ですね。新型コロナ感染で味覚が無くなるとの症例もあるようですが
これも実際には味覚ではなく嗅覚がやられてしまっているのでしょう。)
●嗅覚は直接に脳に伝達されるが味覚は複雑な経路で脳に伝達される。
嗅覚の記憶は長期保存されるが味覚はすぐに曖昧になる。食感も長期保存される。
●香りに優劣はないというのが著者の自論。
マツタケがいい香りと賞賛されるようになったのは貴重で高価になったから(笑)
●油脂の味は定義されてない。味とは異なる神経の興奮として脳に伝わるのであろう。
油脂に僅かに含まれる脂肪酸が油脂のおいしさである可能性がある。
●コクの定義はない。多くの種類の味わいが複合して単独の味が識別できない状態。
コクは口の中の空間的な広がりがあり時間的にも余韻が続く。
逆に、余韻を切り落とすのがキレ。
●子供でもわかる強すぎるコクは洗練された上品なコクとはみなされない。
ここで著者はラーメンはコクが強すぎて品位に欠けると書いていて
麺好き・ラーメン好きなボクにはちょっと反発したい気分にもなりましたが、
一方で著者もあっさり系ラーメンが人気になったり揺り戻しもあるなどと書いてますから
ラーメンすべてを品位に欠けると一刀両断に切り捨てているわけでもなさそうです。
その意味ではボクもあまりにコテコテの脂ぎったラーメンはラーメンに非ずと思ってますから
まぁある程度は著者の言い分も納得というところではありますかね。
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