79Vは意外にも一部の業界人にはウケた
初代フォレスター(開発符号79V)の操安乗り心地はこの記事で書いたように、ボクがこっそりと
アンチ・レガシィ(GT-B)&アンチ・インプレッサ(WRX)の意識で携わったクルマです。
もちろんそれは単にボクの好き嫌いで決めたわけではなく
ボクなりのスバルの方向性としてこうあるべきという信念を持ってのことですが。
けれど、当時の富士重工社内ではレガシィGT-BやインプレッサWRXのようなクルマが
操安性の良い“走り”のクルマとされていて、
それは偏平ハイグリップタイヤを履かせてビルシュタインなど減衰力を高めたサスにして
ほとんどロールせずに強引に曲がるのが良い“走り”のクルマ、
そのためには少々乗り心地が悪くたって神経質だってそんなのは我慢できるっていう風潮でした。
我慢というよりそういうのがフラットでシャープな走りって勝手な解釈が蔓延っていました。
ですから、79Vの“走り”の社内評価はあまり芳しいものではありませんでした。
それでも、79Vはまぁあまり関心が向けられなかった車種ですからそんなに風当たりも強くなく
ボクものらりくらりととぼけながら“アンチ”を貫くことができたわけです。
なので社内的にはあまり良い評判でなかったのも覚悟の上でしたし、
社内評価を良くして鼻高したいとも出世したいとも思いませんでしたしね(笑)
ところが、そんな社内評価とは裏腹に一部の社外の業界人には意外にも賞賛されたことを
今回の記事にしたいと思います。プチ自慢話のようになってしまうので恐縮なんですけどね。
新型車が出ると自動車雑誌などのメディア(媒体)と自動車ジャーナリスト向けに新車試乗会を開催し
そこに開発プロジェクトチームのエンジニアも同席することが多いのですが、
当時のボクはプロジェクトチーム員ではなく単なる一介の操安乗り心地実験エンジニアなのに
いちおう新車試乗会@大磯プリンスには4日間開催のうち2日間は参加していました。
この記事の画像がそのとき撮ったものですね。(その記事でもかなり毒舌吐いてますなorz)
最近の自動車ジャーナリストは随分大人しくなった気がしますが
当時はまだまだ大御所だの毒舌などのジャーナリストも多くて、
いちおう雑誌にはある程度自動車メーカーに気を遣って(忖度して)良い事を書いたとしても
面と向かっては言いたい放題という人が多かったのですが、
(自動車エンジニアとしては正確な評価を正直に言って貰うのはありがたいことですが)
ほとんど批判的な意見は聞かれませんでしたね。
社内評価などであった、ロールが大き過ぎるとかステアリングが軽くて頼りないとか
そんな評価もほとんど聞かれませんでした。
それどころか、試乗車から降りてくるなり
「こりゃいいね、何100kmでも走り続けられるよ」と絶賛してくれるジャーナリストもいました。
それはたしか故・森野さんだったんですけどね。(合掌)
社内では“走り”はレガシィやインプレッサに敵わないというのが共通認識になってましたから
ジャーナリスト相手にそういう話をすると「いやいやそんなことないよ」と否定された
エンジニアも何人かいたらしいです。
当時、新車スクープと悪口しか書かないマガジンXという雑誌の1997年5月号の
覆面座談会企画である「ざ・総括。」において、
スバル・フォレスターは「走りだせば、アバタもエクボ」と題されて
次のようなことが書かれていました。(以下引用)
実 これは、フェンダーじゃなくて、“変ダー”だな(笑)。
企 うまい!(爆笑)
実 オレね、乗ってみるまではあまり興味が湧かないクルマだった。でも、スバルに
こういう商品が欲しいのはわかるよなと思って、乗ってみたら、これが意外だった。
少し走るうちにアレレ? と思い始めて、次にヘエッーと思って、さらにじっくり乗
って、こいつはすごいや、となったんだ。で、帰ってきてクルマから降りて見たとき
には、カッコいいなと感じちゃった(笑)。 (中略)
好 理想をいえば、見たときにある予感なり期待感なりが湧いて、走るとその通りに
気持ちが盛り上がって、幸せに帰ってくるのがいいのだよ。
実 走ると絶対インプレッサよりいい。レガシィよりいい場合もかなりある。
(中略:基本コンセプトやパッケージングなどの話が続きます)
好 で、走り出すとすごくイイ、と。
実 ほとんどスポーツカー。クルマの動きを信じて飛ばせる、という意味では、ヘタ
な日本製スポーツカーを超えてるよ。
技 わずかに気になることといえば、低速で目地を踏んでゆくときの、主にタイヤが
原因のコトコトした揺れとショック。それから舵の切り始めの応答がけっこう強く出
ること。それに対して手応えが少し軽いかな?というところだけです。もうちょっと
深く切り込むと何でもないのですけど。
(中略:加速などドライバビリティの話になります)
技 私の目から見てこのクルマが面白いのは、エンジンにもシャシーにも、けっこう
手を入れてきたことです。このところのスバルって、必死にカネを使わないつくり方
をしてきました。レガシィとインプレッサって、実はホイールベースが違うだけで、
シャシー・コンポーネンツはほとんど共用、ジオメトリーも変えていません。だから
インプレッサはホイールベースが縮まった分だけつじつまが合わないところが出てい
ます。
実 リアの踏ん張りが足りなくて、車体横滑り角がついて行っちゃう。それはインプ
レッサにずっとつきまとっている問題だよな。
技 今回もそのままのシャシーでごまかすのかと思ったら、リアはピックアップ・ポ
イント位置を変えました。ラテラルリンクの下反角を増やして、そこから深くロール
していった時、対地キャンバーを立てておけるようになりました。したがってリアの
踏ん張りはずっとよくなります。
実 あとバンプストップがウレタンで、しかもその長さが120mmもある。国産車
としては例外的だね。BMWあたりの欧州車に近づいたよ。
技 それから、ステアリング・ギアレシオも変えましたね。インプレッサはNAが
16.5、ターボは15。それに対して19にしてきました。
実 でも応答がダルになってないところがおもしろいんだよな。むしろシャープすぎ
るくらい。
技 そんなわけで、レガシィからインプレッサをつくった時にくらべると、今回はち
ょっとではあるけれど、おカネを使っていいよと言われたのでしょう。それが走りに
はっきり出てますね。
実 リアがしっかりと踏ん張り、フロントでラインをコントロールして走れるクルマ
になってる。あのオールシーズン・タイヤで、あのエンジンのパフォーマンスを使い
切って、背の高いボディを思いっきり走らせることができる。異常な速さだよね。ス
ゴイと思うよ。
企 とくに、ハードな高速コーナリングの中でうねりを越えた時にも、クルマの姿勢
が変わらない。ラインもブレない。こんなのは珍しいよ。
(中略:価格やグレード、装備などの話になります)
編 絶賛ですね、ひさしぶりに。
営 いや、実験ドライバーさんがそう言うのもわかります。かなりお買い得ですよ。
好 それで、誰かに「なんでこんなクルマ買ったの?」って聞かれたら、マガジンX
を積んでおいて、この記事を見せるか(笑)。
編 20冊ぐらい買って欲しいですね。もちろんスバルのディーラーには50冊ずつ
お願いします(笑)。
(引用終わり)
ここでは、企=企画、営=営業、技=技術開発、実=実験ドライバー、好=好事家として
なにやらどこぞのメーカー関係者が密会して座談会している体となっていますが、
いろんな噂では1名から数名の評論家がそれらしく装って書いている、
もしくは話したことをそれらしく座談会風に装って書いていると言われてました。
当時のマガジンXの「ざ・総括。」としては確かに
日本車としては気味が悪いくらい褒められてしまってます。
富士重工社内ではレガシィの下のインプレッサの亜流の位置づけだった
フォレスターが思いの外の高評価だったために
座談会参加者に実は内通者がいるんじゃないとか怪しむ動きもあったくらいです(笑)
また、これは風の便りみたいな噂話として聞いたことですけど、
当時のトヨタの開発本部長だかの人が
「どうしてフォレスターみたいな走り良いクルマが出来ないんだ」と社内に言ったそうです。
RAV4は結構ちゃんとしてたけど初代ハリアーの操安性は確かに酷かったですからさもありなんです。
まっ、でもCMとキャラ造りでハリアーはバカ売れするんですから
操安性なんてどうでもいいんでしょうけど(笑)
さらに、これは欧州仕様の1年後の年次改良(71G)でのことになりますが
BMWがX5を開発するのにあたって初代フォレスターのターボ車を購入して
ドイツ・ニュルブルクリンクで徹底的に走り込んでいたという話も聞こえてきました。
ボクもフォレスターの試験車でニュルブルクリンクを走って確認をしましたが
ほんの数周走っただけですから、おそらくBMWのテストドライバーの人が
世界で一番フォレスターでニュルブルクリンクを走った人ということになるでしょうね(笑)
他にも、フォレスターが2代目、3代目とフルモデルチェンジされるごとに
ジャーナリスト試乗会などの場では必ず
「初代フォレスターが一番良かった」という声が出ていたらしいです。
実際に4代目のジャーナリスト試乗会の場でもボク自身がその話を聞かされてしまうことに。
もちろん、ボクが初代フォレスターの操安乗り心地開発をしたとは明かしませんでしたけど。
というわけで、昔のプチ自慢話でした。チャンチャン!
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コメント
当時、マガジンXのこの記事をリアルタイムで読んでいましたので懐かしいです。初代フォレスター以外には丸目インプレッサの1.5FFやWRXSTIが絶賛されてたように記憶しています。
投稿: たみ | 2020-03-28 17:32
プチ自慢! いいですね(笑)
投稿: よっさん | 2020-03-28 18:42
>たみさん
丸目インプレッサは全体の企画などは……という注釈つきだった記憶でしたけど合ってますかね。
実は、丸目イップレッサも途中少しだけ携わっていたんですけどね(汗)
投稿: JET | 2020-03-29 04:29
>よっさん
恥ずかしいです(^^ゞ
投稿: JET | 2020-03-29 04:30