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新車開発における海外走行試験の意義とは?

前々回前回と79V(初代スバル・フォレスター)の操安乗り心地開発において
アメリカとヨーロッパの海外走行試験について思い出しながら書きました。
それらは一見すると海外旅行みたいな感じで仕事というより遊びじゃないの?
と思われかねないような内容であったでしょうが、
前回記事の最後に書いたように今回は何の目的で海外走行試験を行うのか
そのためにはどのようなスタイルの海外走行試験をするのかということについて
ボクなりの考え方を書いていきます。

もちろん、海外走行試験の目的はテストコースの中だけでは分からないこと
日本の交通環境・道路環境だけでは分からないことを現地で確かめてくることですから
まぁここまでは何も小難しい話でなく誰にも異論はないでしょうけどね。
ただ、細かいところでは部署によっても考え方が違うしその時々の課題にもよりますが
それでも同じ部署でも人それぞれによって考え方に差があるなと感じたものです。

端的に言ってしまうと、長距離トリップに対して積極的か消極的かの差です。

ボクはとにかく様々な道路環境・交通環境で走行するために長距離トリップすべきとの考えですが、
部署によって、人によっては特定のお決まりコースを走って確認することを重視する人がいます。
定番になっているコースを走ってきて「問題ありませんでした」と報告書に書いて安心したい、
あるいはそれで仕事をしたと思いたいのかも知れません。
エンジン関連の実験をしている方が長距離トリップをすると
エンジン制御のデータログが膨大になってしまいそれを解析するのが大変だから
長距離トリップはしたくないと言われたのにはホントに閉口しました。

もちろん、ある限定された目的があってその特定のコースを集中的に走ることもあるでしょう。
例えば、ニュルブルクリンクでタイムアタックして速く走るためとか
某自動車雑誌がいつもそのコースで評価しているので良い試乗記を書いてもらいたいとか。。。
そういう場合とは違ってあくまでも新車開発の一環として海外走行試験をするなら
やはり特定の決まったコースばかり走っていてもあまり意味はないと思うんですよね、ボクは。

だって、それだったら結局はテストコースを走るのと一緒になってしまうからです。
むしろ、その海外の特定のコースを走るだけで事足りるのだとしたら
その特定のコースを模したものをテストコース内で再現すればその海外走行試験は不要になります。
もちろん完全コピーすることはそんな簡単ではありませんけどね。

 

その一方で、人によってはただ走っただけでは課題解決にはつながらないから
何種類もの仕様変更の部品をあらかじめ用意していって
現地で仕様変更しながらベスト仕様を決めなくてはならないと考えている人もいます。
それをしようとすると特定の決まったコースで比較試験をしなくては判断できなくなります。

個人的にはこれも反対の立場です。
前述のようにある特定の限定された目的があるのなら、
例えばニュルブルクリンク最速を目指すというなら確かにそこでベスト仕様を決めれます。
しかし、世界中のいろんな道路を走る量産車の仕様をある道路を走るだけで決めるのは
テストコースの中だけで仕様を決めるのとまったく同じです。
それではまったく視野が狭いままですし、むしろテストコースより視野は狭くなってしまいます。

そうです。海外走行試験は、むろん日本での実路・公道試験も含めてですが、
視野を広げるために行うのです。
ですからあるべく多くの様々な道路環境・交通環境を経験する必要があるのです。

 

では、そのような長距離トリップをして課題が発覚したときに
どうやってその課題を解決するのか、ということが問題になるでしょう。
それにはその課題をその場でしっかりと分析しておくことが重要です。
どんな路面状況をどんな走行をした時、あるいはどんな操作をした時に
車両がどんな挙動をしたのか、音や振動は……それをきちんと把握しておくことです。

エンジンやATやAWD制御なら各ECUからデータログは簡単に取れますし
現在なら車両挙動のデータログもさほど難しくはないでしょうから
それらを使って後からでも分かるように記録しておくのも良いでしょうが、
20年以上前の操安乗り心地についてはそれほど簡単に公道でのデータ計測はできませんでしたから
どうしても官能評価が中心になります。
その状況や感覚を文章でも残しますがやはり身体で覚えておくことが大切です。

そして、海外走行試験から帰ってきてから
その身体で覚えたことをテストコース内や身近な路面で再現することを試みるのです。
課題が発生した状況と全く同じ状況にはならないでしょうが似た状況を見つけるのです。
そして、そのような状況においてさえさほど課題に感じられないくらいの挙動でも
それが海外走行試験で課題となったものと根っこや発生メカニズムが同じだと考えられるならば
その微かな嫌な挙動でも撲滅するように対策を講じるのです。

当然ながらその微かな嫌な挙動を撲滅しつつも今まで通りテストコース内での様々な評価もして
副作用がないかも併行して確認していかなければなりません。
ここが重要なところで、
現地で部品を変えて対策案を決めるべきと考えるとこの副作用の確認ができません。
現地でコレがベストだったってな仕様に改めて乗るとこりゃダメだなんてのはよくある話です(汗)

79Vの欧州走行試験でヘコヘコと共振するような不快なピッチングが課題となりましたが
その現象はあれこれ試してみると群馬の古いテストコースの高速レーンのさらに外側
いわゆる路肩の部分を140km/hくらいで走ると
欧州走行試験で感じられた不快な挙動が微かに再現されることが見つかりました。
本来そこは走ってはいけない部分ですし
群馬のテストコースは最高速度120km/hまでなので速度オーバーなんですけどね(汗)

 

理想を言うなら、以上のようなことも海外含めて一般公道の走行試験などしなくても
テストコース内だけで完結できればそれに越したことはないわけですが
そうそう簡単にはいかずにやはり実際に走ってみることで発覚することはあるわけです。
もちろん、細かいことはどうでもよいと割り切って開発するメーカーもあるかもしれませんが……

さらに、今ならテストコースの走行試験すらせずにコンピューター・シミュレーションによる
バーチャルのテストだけでほとんど開発を完了してしまうメーカーもあるでしょうが……

それでも最低限の走行安全性などは確保できるのでしょうが
やはり人間の感性に訴えかけるような安心感や愉しさという部分をしっかり作り込むには
海外含めて一般公道などでの様々なシチュエーションでの実走試験は欠かせないと思います。
そして、そういう開発での経験に積み重ねによって熟成されると同時に
開発エンジニアも一流に育っていくのだと思います。

もっともボクは一流になる前に操安乗り心地の開発から離脱してしまいましたけどね(^^ゞ

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コメント

物を作る現場では、官能というか感覚を磨いて、評価基準が自分の中にできあがっていく、というのがあると思います。
どんな仕事でもそれはあると思いますが、クルマの開発の現場での訓練は、どのようなかたちで行うのでしょうか。
N社の某氏はステアリングを左右とも人差し指と親指で持って、指先から伝わるフィーリングを大切にしていたそうですが……。
JETさんはどんな感じで感覚を磨いたのでしょうか。

投稿: よっさん | 2020-01-23 22:10

>よっさん

スバルにはテストドライバーという職種の人は存在しませんので
当然ながらテストドライバーを育てる特別の教育プログラムもありませんね。
ただテストドライバーでなくとも実験部署ならば官能評価も必要なので
そのような能力の訓練も必要になってくるでしょうが、
これまたそのような特別の教育プログラムはなかったですね。
OJTというか、それも手取り足取り教えてもらうというより、
ただ一緒に仕事しながら自分で消化して身に着けていくという感じですかね。
 
なお、N社の某氏の話は初めて聞きましたけど、
個人的には器用なのは指先ですけど敏感なのは掌の方だと思うので
掌をハンドルから放して持つことはしませんでしたね。
もちろん握りしめてしまってはダメですけどね(笑)

投稿: JET | 2020-01-24 05:57

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