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79Vのタイヤ開発はスムーズだったが後々もめた

前回記事で予告しましたから今回は79V(初代スバル・フォレスター)の
専用タイヤ(OEMタイヤ)の開発について書いていくことにします。
前回の最後に少しふれたように、ほとんどの新車に装着されているタイヤは
たとえ同じタイヤメーカーの同じ商品名の同じサイズのものであっても
そのへんのカーショップやタイヤショップで売られている市販タイヤ(REタイヤ)とは別物です。
タイヤの構造、トレッドゴムも含めた材料、トレッドパターンなどあらゆる部分が異なっています。
それはどっちが良い物・高価な物を使っているかどうか(どちらかが手抜き品)ということではなく
OEMタイヤはその車だけにとって最適になるように特化されて開発されているのに対して
REタイヤはいろいろな車に幅広く合うように一般化されて開発されているからです。

ですから、新車を買ってそのタイヤがすり減ってきた時は自動車ディーラーへ行って
その車専用のOEMタイヤを購入して装着するのがベストというのが一般論です。
ただ、OEMタイヤをディーラーで購入するとかなり高額になりますから
安いREタイヤを適当に選んで履き替える人がほとんどではないかと思いますけどね。

なお、OEMタイヤを自動車メーカーがタイヤメーカーから購入している金額は超破格値です。
別にタイヤメーカーを叩いて安くしてるわけではなく(企業規模は大差ないし)
タイヤメーカーにとってはある程度の数量が安定的に見込めるということと
新車装着されると交換時も同じタイヤメーカーにしてくれる可能性が高いことや
スポーツグレードなどに装着されているとそれ自体が宣伝になるため安くしてくれるわけです。
逆にOEMタイヤをディーラーで扱うには少量過ぎて在庫管理等に手間がかかり
タイヤメーカーとしても自動車ディーラーとしても負担が大きく超高額になるのです。

と、ちょっと前置きがくどいようですが、、、実はまだ前置きが続きます(汗)
タイヤ開発については各タイヤメーカーさんにも実験部門があって
タイヤの特性を単体試験したりするだけでなく車に装着して官能評価や様々な計測試験をします。
つまり、自動車メーカーはタイヤメーカーに対してスペックやら様々な性能の要求をして
それに合わせてタイヤメーカーがタイヤを設計して
タイヤメーカーの実験部門が要求性能を満たしているかどうかを確認した後
タイヤメーカーと自動車メーカーが共同試験をしてそれを確認してOKなら開発完了します。
共同試験をしない場合もありますが新型車用のタイヤだとほとんど共同試験の手順を踏みます。

1回の共同試験でOKになることは稀でまだどこどこの性能が要求性能に届いていないとかで
さらに何回かの共同試験をすることが多いですし、
その1回の共同試験に至るまでもタイヤメーカー側は幾つかの試作品を作っていきます。
メーカーにもよりますが、最初の試作品からA,B,C仕様と付けていくのですが
あるスバル車用のタイヤ開発は非常に難航してZ仕様までいっても決まらなくて
AA,AB,,,と二桁までいってしまったなんて話もあったくらいです。
そこまで決まらないと車両開発そのものやその後の認証業務などにも大きな影響がでちゃいます。

どうして、そんなにタイヤ開発が難航することがあるのかというと
自動車メーカー側からするとタイヤに影響する性能項目が多くて関与する部署が多いことと
それらの部署がそれぞれタイヤに大きな(高い)要求を求めてしまうということがあります。
また、タイヤメーカー側はその要求性能が技術的に実現するのがかなり難しいとしても
とりあえず要求性能を受けてしまうということもあります。特に国産某大手とか。
プライドがあるので受けるというよりともかく受注を取ってくるという感じですけどね。
その点、某フランスのタイヤメーカーなどは無理なものは無理とはっきり言いますが。

タイヤ性能に関与する自動車の性能部署とは、ボクがやっていた操安性乗り心地のほか
ブレーキ、振動騒音、転がり抵抗(燃費)、タイヤ摩耗などがあります。
スバルではタイヤメーカーに対する実験の窓口をひとつにしようということで
慣例的に操安乗り心地部署がそれに当たることとなっていました。
本来なら設計部門がそういうことをすべきだと思うんですけどね(汗)
つまり、79Vのタイヤ開発の実験まとめ役はボクがやることになっていたわけです。
まとめるといっても権限はないですから世話役・調整役ということでしかないんですけどね。

 

タイヤ要求性能は現行モデルが履いているタイヤをベースにして
〇〇の性能を上げるとかそういうやり方をとる場合が多いのですが、
それをやると各部署が少しずつ背伸びした要求となり全体として無理な要求になりがちですし
79Vはスバルとして新しいジャンルの車なので現行モデルというものが存在しませんでしたから、
既に世の中にあるOEMタイヤ、REタイヤ問わずにサイズ適合する様々なタイヤを
79Vの台車(インプレッサを改造した試験車)で関連部署で評価をして
このタイヤならそのまま79Vに使ってもOK、
もしくは〇〇だけ改良する程度でOKってのを見つけてそれをコントロールタイヤとして
それぞれのメーカーにはそのコントロールタイヤと同じ性能のものを作ってくれと要求しました。

ということは、コントロールタイヤに選ばれたタイヤメーカーが圧倒的に有利ですし
他のタイヤメーカーが作れなければコントロールタイヤそのものにすれば良いだけになります。
それまでは、購買部門がタイヤメーカーを決める主導権を完全に握っていたものを
実験部門が性能優先で一部の決定権を持てるようになったということでもあります。
ちなみに、当時のタイヤの購入単価は国産大手某タイヤメーカーがサイズ毎の価格表を持っていて
その他のタイヤメーカーはそれより〇〇円マイナスとか自動的に決まるようになっていたので
購買部門がタイヤメーカーを決めるといっても価格などではなく
タイヤメーカーとのコネ(これを購買戦略と称してましたが)で決まるという具合でした。
つまり入札とかなく決まるのでこれって今なら大問題ですよね(汗)

そして、そのコントロールタイヤは
205/70R15サイズはBFグッドリッチ(ミシュラン)のとある米国車用OEMタイヤに
215/60R16サイズはヨコハマの某ディアマンテ用OEMタイヤに決まりました。
なお、ディアマンテ用はいちおう高級車用タイヤのヨコハマ・デシベルでサマータイヤでしたが
ほぼそのままオールシーズン化したのが後の79V用OEMタイヤであり、
それがヨコハマの新ブランドのジオランダーとしてシリーズ化された最初のものとなりました。

話が逸れますが、オールシーズン・タイヤというとグリップが低く振動騒音が悪いと
思い込んでいる人がかなり多い(特に高齢の自動車評論家)のですが、
高級車用タイヤをベースにトレッドゴムを低温でも固くなりにくい特性のものに変えただけなので
振動騒音が悪くなるわけでもなくグリップもほとんど変わらないんですよね。
大昔のオールシーズン・タイヤはゴツゴツのブロックパターンのトレッドパターンで
雪や泥を引っ掻いて掴もうとしていたので確かにグリップも低くうるさかったんですけど。

 

さて、コントロールタイヤは決まりましたが国産大手タイヤメーカー=BSは黙っていません。
だって、このままでは79VのタイヤにBSは入り込めなくなってしまいますからね。

ところで、79Vのタイヤサイズは開発当初は205/70R15だけでした。
それが、車体デザインの関係から途中で3ナンバーサイズとなり
不格好なオーバーフェンダーが付いたことは以前に書きましたが、
その時に215/60R16サイズも履くことになりターボ車はその16インチとなりました。
ただし、79Vのターボ車はサスペンションもNA車と同一仕様ですし
特別スポーティさを強調したものでもフラッグシップ的な存在でもありません(でした)。

ということで、コネの強いBSは主力市場のアメリカなど輸出向けの15インチを確保し
それ以外の国内向けの15インチと全市場向けの16インチをヨコハマが受けることになりました。
当時のスバルのタイヤはこのBS、ヨコハマ、そしてミシュランが少数という布陣でしたからね。
開発する側からすると15インチも1種類(1メーカー)だけに絞りたかったのですが
まぁ量産グレードのタイヤを1メーカーに限定するのも何かの時のリスクがありますから
これは正当な意味での購買戦略として2メーカーというのもしかたないところもあります。

 

そして、タイヤ開発そのものはそれほど大きな問題もなく完了することが出来ました。
一番スムーズだったのがヨコハマの16インチでこれは1回の共同試験で完了しました。
まぁコントロールタイヤがヨコハマのそのもので小改良しただけなので当然ですけどね。
逆に一番時間がかかったのがBSのタイヤでして途中までは全然ダメダメだったんですが
タイヤの構造を抜本的に変更してもらってからは劇的に良くなりました。
どうやらタイヤメーカー側としてはかなり投資しなくてはならず渋ってたみたいでしたね。
ただ、タイヤメーカーもコントロールタイヤのBFグッドリッチの構造も分析していて
それをやらなければ要求性能を満足できないとうすうす分かっていながら
なんとか誤魔化してまとめられないかとしていたようで、
そういうやり口がこれまたボクは腹立たしい思いだったんですよね。

ただ、こっちも要求性能を満たせないならBFグッドリッチにしましょう、
という切り札があったのでBSもやらざるを得なかったのでしょうね。
ある意味、嫌なヤツですねぇ、ボクは(汗)

というわけで、結果的に79Vのタイヤ開発はうまくまとまりました。

 

とは、実はならなかったんですよ。いや79V開発としてはそれで終わりになったのですが。
実は、初代フォレスターは発売間際になって国内営業部から
こんなクルマでは国内ではほとんど売れないからもっと特徴を際立たせないといけないので
ターボ車だけに絞ってスポーティさで売りたいってな話になってしまったんですね。
フォレスターのターボ車は先ほど書いたようにことさらスポーティさを強調したものとして
開発してきたわけでもなく、それはボクの考えではなくクルマ全体のコンセプトだったのですが
国内営業部はそれも理解しておらずただGT-BやWRXが好収益だったことをいいことに
79Vはターボ車だけでスポーティさを強調して売りたい、
というかそうじゃなきゃ売れないと言い出したわけです。

さらにそれに触発されたのかよく分からないですが
アメリカからもターボ車の販売比率を増やすとかNAも上級グレードには16インチ装着するとか
当初予定のなかった欧州・オーストラリアにもターボ車を1年遅れで追加するとか
どんどんそんな話が進んでいったんですね。

そのこと自体にもボクはアホかという思いでしたが、問題は例の購買戦略が狂ってしまったことです。
国内販売のフォレスターはヨコハマだけというのは変わりないのですが
新ジャンルのスポーツSUVフォレスターはSUV用タイヤの新ブランドのヨコハマ・ジオランダー装着と
謳って宣伝することができるわけですし、
全市場ともヨコハマのシェアが増えてブリヂストンのシェアが減ることになるわけです。
これに国産最大手のブリヂストンが黙っているわけがありません。

案の定、コネを使って(笑)、1年目の年次改良に向けて16インチタイヤを
BSで開発することになってしまったのです。
しかしこれがまた何度やっても全然ダメダメなタイヤしか出来ずにどうしようもなくて……
ということで、ボクはほとほとBS嫌いになってしまったわけです。
(もちろん、仕事は感情論ではなく公平に判断するよう努めましたけどね(汗))

というわけで、タイトルの通り79Vのタイヤ開発はおおむねスムーズだったのですが
後々揉めて大変だったことと、これがきっかけとなってボクはBS嫌いになったというお話でした(笑)

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コメント

ははは、実際に現場で仕事やっている人に石橋嫌いが多いのはこういうことなんですかねえ?

メーカー問わずおんなじ様な意見が多いのが笑えます。

投稿: TOMO | 2019-11-26 19:49

>TOMOさん

社風なんでしょうねぇ。
スバルの社風もあまり好きではない部分も多かったですけど……

投稿: JET | 2019-11-26 20:08

今回はコントロールタイヤの話が面白かったです。
やはり「ひながた」というか、土台の役目を担うタイヤを設定するんですね。
某ディアマンテ用が、その後のジオランダーにつながっていたんですね。
そのような背景を知らずに、タイヤの評価を得意顔でしていた評論家諸氏は、なんとも滑稽に思えてきます。

投稿: よっさん | 2019-11-29 21:19

>よっさん

そうですね、コントロールタイヤを真っ先に決めないとサスペンションなどの開発も進められませんからね。

投稿: JET | 2019-11-30 05:21

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