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79V操安乗開発でアレコレやったことについて

今回は前回記事での予告通りに79V(スバル初代フォレスター)の
操安乗り心地開発においてやったことについて、
既報以外のアレコレについていっきに説明したいと思います。
ざっと箇条書きにすると以下のようになります。

1)リアサスクロメン嵩上げ廃止(既報)
2)リア早当たりロングウレタンヘルパー(既報)
3)リアトレーリングリンク付け根嵩上げ廃止
4)リアトレーリングリンク付け根位置後退=ホイールベース延長
5)リアサスクロメン取付け部補剛(既報)
6)リアサス・イニシャルトーイン
7)フロントサス・トップマウントのゴム硬度アップ
8)フロントサス・イニシャルネガティブキャンバー
9)ステアリング・ギヤ比の増加(スロー化)
10)ステアリング・ラバーカップリング装着
11)パワステ・アシスト特性チューニング
12)可変容量パワステポンプ採用
13)(超格安ダンパーの)減衰力チューニング
14)新規タイヤ開発

ひとつひとつについて少しだけ説明を加えましょう。

3)リアトレーリングリンク付け根嵩上げ廃止
4)リアトレーリングリンク付け根位置後退=ホイールベース延長

26G(初代アウトバック、日本ではグランドワゴン)ではリアサスクロメンの嵩上げとともに
トレーリングリンクの付け根も30mm嵩上げされていて
標準車高のレガシィと同じサスペンション配置(同じジオメトリー)のままになっていたんですが、
79Vではリアサスクロの嵩上げ廃止と同時にトレーリングリンク付け根の嵩上げも廃止しました。
リヤサスクロ嵩上げ廃止でロールセンターを上げたのと同じ理屈で
今度は側面視でピッチングセンターを上げてピッチング
特にブレーキング時のリアリフトを少しでも抑えようという狙いです。

これにはもうひとつ狙いがあって、それは乗り心地を良くするためです。
こうすると、突起を乗り越える時にバンプするとタイヤが後方に移動するような軌跡となるので
衝撃を逃がすことができて突き上げが緩和されるからです。

ただし、そのままだと逆にフルリバウンド時にタイヤが前方に移動しすぎてしまい
また大径タイヤを履いていることから車体と干渉してしまうので
トレーリングリンクの付け根を後ろにずらして結果的にホイールベースが5mm延長されたわけです。

ホイールベース5mmそのものの影響は誤差範囲なのですけどそれだけのことでも
ストラット全体が側面視で回転する角度が変わるので微妙にトー変化とかも変わっていて
それが安定性を向上させる方向に作用しています。
もちろん、それもボクの目論みのひとつでした。
こういう3次元でのサスの動きって、CATIA(3次元CADソフト)とか使わなくても
不思議とボクは結構頭の中だけでイメージできちゃうんですよね(汗)

なお、トレーリングリンク付け根のブラケットは79Vでは元々新規製作予定でしたから
後ろにずらすものにしても余分にお金をかけることなく実施できています。

 

6)リアサス・イニシャルトーイン

それまでスバルではイニシャルトーはゼロにしないとタイヤ早期摩耗になると決めつけていたんですが
タイヤ摩耗で重要なのは走行中のトー、対地キャンバなど総合的に捉えないといけないので
イニシャルトーインは問題ないことを確認してもらって付けることにしました。
といっても、今までの公差内でばらつきを抑えてトーイン側に中央値を寄せるというだけでしたが。

タイヤ早期摩耗・偏摩耗については、サンバーの開発でさんざん苦労させられましたし、
そのサンバーでのミシュランタイヤ共同開発の中でミシャランの技術力の高さを知り、
そのことなどの経験からそれを活かさせていただいたということになるかと思います。
ちなみに、調整だけなのでお金は一銭も掛けていません。

けれども、実は79Vの量産最初のころは工場検査の人がトーイン/トーアウトを反対に理解していて
実際にはイニシャルトーアウトに調整されていたという呆れたものになってしまってたんですよ(呆)



7)フロントサス・トップマウントのゴム硬度アップ

79Vでは乗り心地を良くし(他部署の性能領域ですが)ロードノイズも静かにするために
サスペンションブッシュ類は基本的に柔らかいものを使っています。
といってもレガシィとインプレッサで使っているものの流用でコスト優先ですけど(汗)
ただし、フロントストラットのトップマウントだけはWRXなどと同じ硬いものを使いました。
ゴム硬度違いの流用品ですからこれまたお金は一銭も掛けてません。

これはWRXなどのように剛性感とか俊敏なハンドリングとかを狙ったものではなく
ダンパーの動きだしを正確にして低い減衰力でも応答性よくダンパーを効かすためと
それも含めてバネ下がブルブルと小刻みに震える振動を抑えようという狙いです。 



8)フロントサス・イニシャルネガティブキャンバー

これまたスバルではタブー視されてたようなフロントサスのネガティブキャンバーを少しだけ付けました。
これによってリアロングヘルパーとあわせて旋回加速時のドリフトアウトを抑えようという狙いです。
また、密かに狙っていた通りタイヤの偏摩耗も逆に抑えられました。
これも調整だけですからお金は一銭も掛けてません。



9)ステアリング・ギヤ比の増加(スロー化)
10)ステアリング・ラバーカップリング装着
11)パワステ・アシスト特性チューニング
12)可変容量パワステポンプ採用

この頃のスバルは走りの良い=クイックで剛性感のある(単に硬い?)のが良いって風潮でしたが
それとは真逆の方向でステアリング関係はセッティングしていきました。
ステアリング・ギヤ比はスローにしてハンドルをクルクルたくさん回さないといけませんが
その分油圧パワステのアシストを増やして軽くクルクル回せるようにしています。

ラバーカップリングは詳しい構造はおいとくとして簡単に言えば途中にゴムが入っているものです。
これはどちらかと言えば他部署の振動騒音性能に効果のあるアイテムでお金もかかりますが
その振動騒音チームを焚きつけてかつ援護射撃を撃ちながら採用してもらいました。
なので表向きは振動騒音のために少しお金を使ったということになっているのですが
やはりこれを付けると剛性感はなくなるけどステアリングフィールに雑味が消えて
かつ直進から僅かにハンドル切っていく時の繊細さが格段に上がるので
密かに操縦安定性向上アイテムとして周りを上手くのせて採用に漕ぎつけたというわけです(汗)

なお、可変容量パワステポンプというのは操縦安定性には何の効果がないばかりか
やっかいな新規物でネガもあるという代物だったのですが、
いちおう燃費向上アイテムとして採用することが既定路線だったので
しかたなく取り組まざるを得なかったというものです。
そう、詳しい話は割愛しますが燃費に効くものです。
ただ、現代のクルマは電動パワステなので関係ない技術ですね。

 

13)(超格安ダンパーの)減衰力チューニング

この当時の国産のダンパーメーカーはまだ自社内で操安乗り心地の評価をする人もおらず
メーカーと共同試験をしながら減衰力特性や内部の構造を決めていくという開発はしてなくて、
あくまでも自動車メーカーからの減衰力特性の要求に応じた試作品を作って納めて
自動車メーカーでそれを評価するという開発の進め方をしていました。
ただ、ビルシュタインなどは共同試験で開発するというやり方でしたけど。
79Vは安い国産ダンパーの一番安い構造のものを使う方針でしたから
当然ながら共同開発もなくこちらから減衰力特性を要求した試作品での開発でした。 

ダンパーの減衰力というと詳しくない方は単に固い/柔らかいだけの違いと思うかもしれませんが、
そんなに単純ではなく圧側(バンプ側)と伸側(リバウンド側)との比率や
ピストンスピード(サスストロークの速度)による減衰力の違いや
さらにはバンプ⇄リバウンドの変わり目の減衰力の応答性など様々な要素が絡み合います。

だからどうしても官能評価主体、つまりフィーリング評価で進めることになりますから
ともするとチューニングショップの改造程度に思われてしまうかも知れないですね。
ボクはそれまで新車開発での本格的なダンパーチューニングはしたことがなかったこともあり
また今まで書いてきたように79Vでは随所にかなり新しい試みを取り入れていたため
最初に減衰力特性のどの領域をどうすると操縦安定性と乗り心地のどこがどうなるかという
因果関係を分析的に整理して把握できるようにしていったので、
最初はそれなりに時間がかかりましたけど手当たり次第に減衰力チューニングするより
開発終盤は比較的すんなりと収束させることができたかなと思っています。

というのも、開発終盤になり海外走行試験や夜間公道走行をしたりして判明した課題や
お偉いさんが試乗してあれこれ注文つけられた時に
最期の最後まで弄れるのはダンパー減衰力くらいしかないんですよね。
でもちょっと弄ると全体のバランスが崩れて下手すると最初からやり直しとなりかねないのですが、
因果関係を把握できていればその微修正の道筋はだいたい見えてますからね。

なお、79Vのダンパーはダンパーメーカーのラインナップのうちで
一番安い仕様の構造のもの、低圧ガスすら入れてないものを採用しています。
また、レガシィやインプレッサではターボエンジン車=スポーツグレードと普通のグレードを分けて
ダンパーの構造・減衰力など別々のものをそれぞれ開発していましたが、
79Vではターボ車もNA車も、国内仕様も輸出仕様も全部一種類のダンパーでまかなうことにしました。
これだけでも相当なコストダウン&生産効率化に繋がっているはずでしたね。

 

14)新規タイヤ開発

新車装着タイヤ(OEMタイヤ)と市販タイヤ(REタイヤ)は同じ銘柄でもほとんどは別物です。
ですからそれぞれの車種・グレードに合わせて専用タイヤをタイヤメーカーと共同開発します。
まぁたまには他社専用タイヤをほぼそのまま流用したり
新車装着タイヤがそのまま市販タイヤになる場合も全くないわけではありませんけどね。

このタイヤ開発についてはタイヤメーカーとひと悶着もあったりしたので
それについてはまた別記事にしたいと思います。
楽しみにしていてください(笑)

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コメント

他車種パーツ流用? 調整とコストダウンネタを興味津々で拝読しました。

>ターボ車もNA車も、国内仕様も輸出仕様も全部一種類のダンパーでまかなう

という話には、ちょっとビックリです。
仕様を増やす=仕事をしている、と考えているスタッフも多いと思うので、
JETさんのやり方は、その逆をいっていますね。
でも、1種類でまかなえることを考えつき、それを実行したJETさんは、
素晴らしいエンジニアだと思いました。
そのコストダウン額を換算したら、すごい金額になるでしょうね。

今回も楽しかったです。

投稿: よっさん | 2019-11-17 17:59

>よっさん

褒められると恥ずかしいです。
ただ会社が赤字続きでお金かけてたら自分の将来もないなと思ってたことと
79Vは追加車種なので工場での部品置き場の制約で仕様を増やすのも大変だった
ということもあったわけですけどね。

投稿: JET | 2019-11-18 06:06

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