新書「上級国民/下級国民」橘玲著を読了
小学生新書の「上級国民/下級国民」橘玲(たちばなあきら)著を読み終えました。
橘玲はこの記事のコメントでも出てきた「言ってはいけない」が有名です。
“上級国民”というと、今年4月の池袋での高齢男性の暴走・死亡事故をつい連想してしまいます。
特にこの表紙カバー中央部分に書かれた「やっぱり本当だった。」とかの文言も
池袋の事故のことを直接想起させ加害者への怒りと被害者家族への同情を誘うがごとくの
ニュアンスをあからさまに醸し出しているように感じます。
しかし、このカバーは実は全面帯とも言える二重カバーになっていて
どうもこの中央部分も文言もこの本を売らんかなの煽り文言となってしまってるようです。
つまり、この本の内容としては「上級国民けしかん」的な感情論を展開しているわけではありません。
池袋事故のことにはこの本のまえがきの冒頭に触れられていますが
元高級官僚の加害者が現行犯逮捕されなかったのは上級国民だったからではなく
単に本人も事故で入院していたからだけであるとし
ネットスラングである“上級国民”を冷静に把握する立場で書かれています。
ちょっとこの本の内容から脱線しますが、被害者家族が加害者の厳罰化を求めて
多くの署名が集まったことに対してボクは非常に違和感を抱いています。
被害者家族は表向きには類似事故の再発防止のためとその理由を説明しますが
加害者が殺意をもって故意に轢き殺したわけでも違法薬物やアルコール摂取で起こした事故でもないので
いくら厳罰化を強化してもこの手の事故は防げるわけではありません。
高齢ドライバーの免許返納ということに全く繋がらないわけではないでしょうが
それは厳罰化ではなく免許制度改革や高齢者の公的移動手段の確保などから取り組むべきものでしょう。
被害者家族の心情は分からないではないですが
被害者家族以外の人びとがその場の感情=群集心理で署名して裁判や政治に関与しようというのは
危険な兆候と感じざるを得ないなと考えるわけです。
さて、この本の内容に戻りましょう。
何をもって上級/下級かの判断のものさしはいろいろあるでしょうけど
ここでは「ポジティブ感情」(「幸福度」「満足度」)などから見いだしています。
すると、大卒以上/非大卒、男性/女性、若年/壮年の分類で整理すると
明確に大卒以上=ポジティブ感情が高い/非大卒=ポジティブ感情が低いとなり
学歴格差が上級/下級を分断していると結論づけています。
とはいっても、もちろん個々人で見れば大卒だって底辺に落ちる人もいますし
中卒だって最上級になる人もいるわけですが、全体の傾向としてはそうだということです。
なお、中卒や高校中退については貧困や学校教育が原因というより
多くは福祉政策により最低保証があるが故に自らの意思で
ドロップアウトしているのが現状と指摘しています。
また、もうひとつは「モテ/非モテ」による上級/下級の分断が起きているとも示しています。
つまり異性に(特に男性が女性に)モテる人はポジティブ感情が高くなり上級に
モテない人はポジティブ感情が低くなり下級にということです。
当たり前に聞こえますが、男と女では「モテ」の仕組みが違うから
結果的に男は女より幸福度(ポジティブ感情)が低いという著者の仮説はなかなか面白いです。
そして、ということからすると、ボクはいちおう大卒なのでその点では上級入りしそうですが
まったくもってモテませんし実際に独身・中年・無職の身ですから下級とも言えます。
そんな上級国民にもなれずかといって生粋の下級国民でもないどっちつかずの非国民なのかもです(笑)
現在、世界中で上級/下級のような分断・格差が問題となっていて
それによってポピュリズムや右傾化の流れにあるかのような報道もさかんにされていますが、
著者の視点では世界は今なお個人の自由な社会というリベラル化の流れの最中にいて
それ故に上級/下級の格差は広がっているのであり、
トランプ登場やブレグジットなどはそのリベラル化への抵抗でしかないとしています。
一見逆説的にも聞こえてきますが、そういう考え方も納得できる部分も多々あるかと感じます。
「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」は三位一体の現象と言われると納得です。
また、世界の根本原理は“フラクタル”(複雑系)であり
資産についても市場全体の富が大きくなれば資産格差は拡大するものだと言われると
ふーんそんなものなのかなぁとも思えてきてしまいますね。
まぁだからこそある程度は政府などの介入で格差減少を図る必要があるのだと思いますけどね。
他にもいろいろと面白い視点や内容が書かれていて興味深く読むことができた本でした。
例えば、「白人」であるという以外に誇るものがないプアホワイトが黒人差別・移民廃絶を叫び、
同様に「日本人」であること以外に誇るものがない下級日本人が嫌韓・反中の「ネトウヨ」だと、
なるほど言い得て妙だなと思うところです。
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