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79Vで嵩上げ廃止以外にリアロングヘルパーを採用

このシリーズ(?)の前回記事までで79V(初代スバル・フォレスター)の操安乗り心地開発で
リアの嵩上げを廃止したことを4回にも渡って長々と書いてきてしまいましたが、
次回は嵩上げ廃止以外のことについて簡単に書きますと宣言してしまいましたので……

といいながら、簡単に書き出してみたらそんな簡単な話では終わらなそうなことが判明したので(汗)
今回は「リアの早当たりロングウレタンヘルパー」についてだけ書くことにします。
予告と違ってしまい、また前回から随分と間が空いてしまい申し訳ありませんでしたorz

さて、サスペンションではもうそれ以上バンプできないというところでストッパーを設けないと
タイヤがボディに当たってしまったりアクスルシャフトの揺動角が許容オーバーしたりしてしまいますし
そのストッパーが金属などではガツンと衝撃を伴ったりしてしまいますから、
バンプストッパーとかバンプラバーなどと言われるようにゴム製のストッパーを付けたりします。

また、大きな突起を乗り越えたり、大きくロールした時などバンプストロークが大きな時の
乗り心地や安定性を確保するためにそれらの特性を調節しています。
こうなると、単なるストッパーというよりバネの補助する意味のヘルパーというようになります。

そして、79Vではこのヘルパーをより通常の走行領域でも積極的に使うことにして
リアサスペンションのヘルパーを早当たりロングウレタンヘルパーにしたということです。

もう少し詳しく書いていきましょう。
“早当たり”とはほんの少しバンプストロークしただけですぐにヘルパーが当たり始めるという意味です。
“ロング”とはそのヘルパーそのものが普通のよりもかなり長いということです。
長いので荷重がかかって縮んだ時との差(ストローク)も大きくなります。
“ウレタン”とはゴムではなく発泡ウレタンを使っているということです。

当時は軽自動車や安い国産大衆車ではゴム製のバンプストッパーを使うこともありましたが
スバルの小型車は全車ウレタン製だったので、まぁ79Vでもウレタン製にするのは当然の成り行きでした。
発泡ウレタンの方がゴムより圧縮率が低い(圧縮しやすい)ですし低反発ですから衝撃吸収しやすいです。

「早当たりロングウレタンヘルパー」にすると、最初は柔らかい(バネ定数が低い)のに
バンプストロークするに従ってどんどんと硬く(バネ定数が高く)なるということになります。
つまり、強い非線形性のバネ定数を持たせることができるということです。
まぁ、VWゴルフなど欧州FFハッチバックなどではとっくにやっていたことなので
いまさら自慢することでもなんでもないんですけどね(汗)
ただ、79Vでは79Vなりの事情や狙いもあり、スバルではそれまでやってないことに挑戦した形です。

 

その狙いというのは主に3つです。

1つめは力学的ロールセンター高の確保です。

すいません、わざと難しそうな言葉を使ってます(当時)。
この記事でサスペンションリング配置などによるロールセンターやロール軸について書きましたが
それらはいうならば幾何学的ロールセンターとも言えるわけです。
それに対してロールしていく時にバンプ側のバネ定数が高く/リバウンド側のバネ定数が低いと
バンプしにくくリバウンドしやすいのでロールセンターは実質的に上がることになります。
これをボクは勝手に力学的ロールセンターと読んでいます。

当時のレガシィなどのスバルのリアサスはロールセンターが低くて弱点があったと書きましたが、
嵩上げ廃止による幾何学的ロールセンター上げと同時に
リア早当たりロングウレタンヘルパーによる
非線形バネ定数によって力学的ロールセンター上げもしたというわけです。

 

2つめはトレーラートーイング時や積載時の安定性確保です。

79Vはワゴン形状をしたSUVですから特に欧州ではキャンピングトレーラーやボートなど
トレーラートーイング(牽引)したりする使われ方も多くなりますし、
荷物満載で使わることも多いでしょうからその状態での安定性も重要になります。
(実は、その意味ではレガシィ・ツーリングワゴンも同様なのですが……)

このような状態ではリアが沈み込んで、その結果リアのロールセンターはさらに下がり
この記事で書いたようにトレッド変化による安定性の低下要素も加わってしまうので
どうしても牽引や積載時の安定性が悪くなってしまいがちです。

そこで、リア早当たりロングウレタンヘルパーによってそれを防ぎましょうというわけです。
ただ、最終的に欧州仕様などは「セルフレベライザー・サスペンション」といって
走行中の上下動によってある程度一定の車高に自動調整するサスペンションを採用したので
早当たりロングヘルパーが必須というわけでもなくなったんですけどね。

なお、個人的にはセルフレベライザーは高価だし複雑で品質の懸念もあったのですが
営業が「セルフレベライザー装備」というカタログスペックを重視したため
仕方なく開発せざるを得なかったアイテムということになります(汗)

 

3つめは旋回加速時のドリフトアウト抑制です。

旋回中に加速していくとまともなクルマならアンダーステアに躾けられてますから
旋回半径は大きくなるのは当然なのですが、徐々に加速ではなくある程度急加速した時の話です。
急加速といっても駆動輪が空転してしまうような無茶な運転の話でもありませんので
FFはアンダーステアだ、FR最高!ってな低レベルの話をするつもりもまったくありません。
ですから、AWDの79Vでも前後駆動力配分がどうのこととかVTDが良いとかでもありません。

スバルはフロント・サス&ステアリングのジオメトリーが良くないので
低速旋回中にやや強めの加速をするとフロントが外側にドリフトアウトしやすい弱点を持っています。
(ここでは詳しく述べませんが舵角差やキャンバー角変化などが原因でおそらく今も……)

前後サスペンションでは一般的にフロントを硬くすると旋回しにくくなり
リアを硬くすると旋回しやすくなります。(硬くし過ぎと簡単にスピンします)
本当はスタビライザーも含めたフロントのロール剛性を高くすると旋回しにくくなり
リアのロール剛性を高くすると旋回しやすくなるというべきですし、
理論的にはそれはタイヤの非線形特性によりおこるものなので
タイヤが鳴きだすちょっと手前くらいの領域から顕著になってくる話なんですが
まぁそこの話もグラフや数式を持ち出さないと説明しづらいので割愛させていただきますorz

結論だけ言わせてもらえば、リア早当たりロングウレタンヘルパーによって非線形バネ定数になり
加速時のピッチングによってリアのバネ定数が高くなる、
よってリアのロール剛性が高くなり旋回しやすくなる=ドリフトアウトが抑制されるというわけです。

 

なお、それまでスバルではリア早当たりロングウレタンヘルパーはやってなかったと書きましたが、
実はリアではやってなくてもフロントでは経験済みの手法でした。
サンバーでやってたんですね。
ですからボク自身もそのサンバーでの経験を活かせたということになります。
もっともサンバーではコストダウンでフロント・スタビライザーを付けずに安定性
さらに耐転覆特性を確保するというのを主目的で採用していたのですけど。

やっぱり長くなってしまったので今回はここまでです。
次回こそは残りのやったことを簡単に書きたいと思います(笑)

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コメント

今回も楽しく拝読しました。
バンプラバーというと、添え物のような印象がありましたが、
積極的に利用する方法もあったんですね。
勉強になりました。ありがとうございました。

投稿: よっさん | 2019-10-31 19:02

>よっさん

最初は既存のウレタンヘルパーを2段にして使ってみたりして
そこからカッターナイフで微調整したりして走行試験を重ねて
いいあんばいの特性を見つけておいて試作品を作ったりしてましたね。

あの頃は理屈で思考実験しながらもそれを実際に試してみるという
時間的余裕も開発にはあったのが幸いだったのでしょうね。

投稿: JET | 2019-10-31 21:38

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